第9話 竜は舞う

 ユースティア解放戦線による先制射撃によって火蓋が落とされたこの戦い。

 優勢になると思われていた解放戦線であったが実際は押されていた。

 ユーリの部隊の立て直しが速かったこと、機体の性能差など様々な要因があったが中でもパイロットの技量の差は顕著であった。

 解放戦線のメンバーのほとんどがMTの戦闘が初めてであり更に碌な訓練も受けてこなかった。

 「諸君らは真の戦士!真の戦士なら乗りこなせるはずだ!」

 とトーマスは言っていたが実際は彼らを使い捨てにする気であったからである。

 一方ドラクル小隊のメンバーは戦術レベルB+~Aの精鋭が集められていた。

 「当たれぇぇ!!」

 ティナ機のガトリング砲からエーテルによって生み出されたビームが毎分3,000発のスピードで発射され、解放戦線のMTをまとめて薙ぎ払い。

 「フッ!!」

 ドロシー機のバヨネット・ハンドガンの的確な射撃と、斬撃によって確実に敵MTを減らしながらレーダーによって得たデータを味方に送り。

 「そんな火力じゃ、止められないよ!」

 テリー機はシールドで敵の射撃を防ぎながら、近づいてきたMTはハルバートで倒していた。

 一番倒したMTの数こそ少ないが、一番仕事をしていたのはテリーかも知れない。

 今もこちらの遠距離射撃がエーデルワイスを狙ったがテリー機によって防がれていた。

 「こ、こんなバカな。」

 トーマスは愕然としていた、いくら碌な訓練を受けさせなくても小型戦艦と5機のMTごとき数で押せるはずとカーミラに命じて攻撃させた。

 だが蓋を開けてみれば60機近くあった工業用MTはものの数分で3割壊滅していた慌ててサラマンダーも出したが勢いは押さえきれそうには無い。

 周りにいた幹部たちは騒ぎ立てるしかせず、あまつさえ撤退しようなんて言う者がいたのでそいつを射殺したら散り散りに逃げて行った。

 今頃MTの爆発に巻き込まれいるだろう。

 そうこうしている間もサラマンダーの1機が長距離射撃により爆散した。

 「おのれぇぇぇぇ!!無能共が!!」

 「あら、自分の無能を他人の性にするのは美しく無いわよMr.タネル。」

 思わず苛立ち叫ぶトーマスの傍にMTによる射撃をしているはずのカーミラが近づいてきていた。

 「ブラッディ・カーミラ!貴様!俺が無能だと!!いや、それよりも持ち場を離れて何をしている!!」

 トーマスが怒鳴り、問いただすがカーミラはどこいく風といった雰囲気で髪をいじっている。

 「だって相手方のガードが硬くて今ある射撃武器じゃ有効打を与えられないわ。」

 最初の一発も当たり所が偶々良かっただけだし、と言った所で髪をいじるのを止めトーマスの目をジッと見る。

 「それに私の受けた仕事はテロの支援、これ以上やるならお金を払ってもらわないとやってられないわ。」

 「なっ!テロじゃない聖戦だ!そ、それに依頼主を守るのは当たり前だろ!」

 そう聞くとカーミラは蔑みを込めながら

 「そんなもんある訳ないじゃない。」

 と答えた。

 思わず言葉を失うトーマスにカーミラは言葉を続ける。

 「いい?あなたは知らないかも知れないけどこの業界も信頼でなりなってるの、それが依頼主へか金に対してかはどちらでもいいわ、とにかく金を出し渋るうえ私をどのようにも信頼しないあなたにこれ以上付き合う義理はないわ。わかる?」

 出来の悪い子どもに言い聞かせるような出来るだけ優しい口調なのは一応まだ依頼主だからという気持ちがあったからだ。

 しかし、逆にそれがトーマスの気に障った。

 「黙れ!その様なこと知ったことか!MTに乗るしかないお前のような人間が優秀な俺を守るのは当然だ!」

 そう言われたカーミラは怒りを感じるどころかトーマスに対し憐れみを感じていた。

 「この状況で未だ自分が有能だと信じられるのは憐れでしかないわね。」

 カーミラはそう言うと出口に向いて歩いていった。

 「おい!どこに行く!」

 「これ以上ここにいても疲れるだけだから、MTで少しやりあってから抜けさせてもらうわ。」

 ユースティアの最新鋭機は気になるしね。と言っている間に出口の前に立ち止まる。

 「じゃぁねMr.タネル、せめて散り際ぐらいは美しくあることを祈っているわ。」

 バタンと扉を閉めると同時に聞こえてきた、怒りの声と周りに当たる音から期待は出来そうにもなかった。


 「うっしゃあ!!これで12機目!」

 アドルファスはコックピット内でガッツポーズしていた。

 最初エーデルワイスに着弾した時はどうしたものかと思ったが、この分ならもう少しで壊滅できそうだ。

 「まぁ、あの野郎の発破も効いたかもな。」

 正直、あの場で冷静に判断できるとは思わなかった。

 戦術がすごいことは聞いているが案外リーダーの才能もあるのかも知れない。

 (だが、それでも俺は…)

 以前テリーに言われたユーリをどう思っているかという質問が頭の中で巡っていたその時であった。

 「コックス曹長!!」

 その言葉と同時にアドルファスは衝撃を受ける。

 衝撃を受けた方向を見るとユーリ機が見えた、どうやら蹴りを入れられたらしい。

 「っ、テメェ!なにし」

 やがる!!と言い切る前に、ユーリはいきなり現れた黒い機体と鍔迫り合いをしていた。

 (!?野郎。)

 ここまでくれば流石に分かる、自分はユーリに守られたらしい。

 「コックス曹長、ボサッとしてないで下で残党を!」

 言われて下を見れば敵はバラバラになり逃げだす者や、投降をするものなども出てきている。

 小隊のメンバーも各自、残党を追ったり投降を受け入れるなど動き出している。

 「ひ、一人で大丈夫なのかよ。」

 「問題ない、というより慣れていない連携だと逆に危ない。」

 そう言い切られると何も言えないのか黙って地上に降りる。

 アドルファスが引いたのを見て、黒い機体の腹を蹴り距離を開ける。

 「そのガルダのカスタム機、ブラッディ・カーミラか?」

 「あら、戦場で話す余裕があるなんて若いわね。」

 通信で話し出した二人、ユーリはトラッシュトークのつもりだったので言葉を返してきたことに少し驚いたが。

 「それと、この子をそんな味気ない名前で呼ぶのは止めて。この子には【ブラッディ・ローズ】という名前があるの。そう言う貴方は?随分若いみたいだけど。」

 「…ユーリ・アカバ。階級は少尉」

 「アカバ?あぁ、そういえばリトルデビルの本名がそんな名前だったわね、もしかして本人?」

 「あぁ、その通りだ。」

 そんな会話の間にも駆け引きは続く、二人ともお互いの隙を狙っているがなかなか見つからない。

 「それで、あんたは引かないのか?さすがに勝ち目がないと思うけど。」

 「えぇそうね、戦略的な勝ちは拾えないわね。だ・け・ど。」

 そう言うとチェーンソーのような両手剣を構えながらカーミラは続ける。

 「知っているかも知れないけど私とっても戦いが好きなの。そんな私にユースティアの最新鋭機なんてご馳走ぶら下げておいて大人しく引くと思う?」

 「…引かない訳だな。」

 どうやら戦闘をしない訳にはいかないらしい。

 「それじゃ行くわよ!その味、骨の髄まで味合わせてね!」


 それから数分、時間にしたら短いものだが激しい戦いが繰り広げられていた。

 一見カーミラが押しているようにも見えなくない。

 が、実際には寸前で躱されたりビームサーベルで受け止められたりされている。

 そしてこちらに隙ができると的確にランチャーを発射してくる。

 なんとか躱せてはいるがこちらが攻撃の手を緩めれば危ないかも知れない。

 (やっぱり、さっきまでの射撃が痛かったわね。)

 先ほどの戦艦への射撃で残り弾数は残り二発となっていた。

 (闇雲に撃っても当たらないでしょうね、まぁ中々楽しめるからいいけど!)

 カーミラはこの数分でユーリの技術を高く評価していた。

 ここ最近では一番楽しめているかも知れない。

 若くしてこれなら、もっと経験を積めば最強と呼ばれる日も遠くは無いかも知れない。

 (けど残念ね、私とても刹那的なの。)

 大体の行動パターンは分かった、彼は連続して避ける時に少し右に寄れる、その隙を狙えば勝てる。

 ライフルの一発目を撃つ、案の上避けられるがユーリが避けた方向に合わせて二発目を撃つ。

 やはりそれも避けられるが右に寄れるのが目に見える。

 (今!)

 チャンスの瞬間を見逃さず急接近し両手剣を振り上げる。

 「じゃあね悪魔さん、運が悪かったわね。」

 実際かなり際どい所ではあったし、もしもっと成長していたら自分が負けていたかもしれない。

 けど、実際はそうはならず勝ったのは自分であると確信した瞬間であった。

 右に寄れていた筈の機体が持ち直し、両手剣をビームサーベルで右に受け流す。

 「えっ?」

 カーミラがそう声を漏らした時にはブラッディ・ローズの両腕がビームサーベルによって切断されていた。

 「つっ!」

 追撃してくるユーリの攻撃をなんとか躱しながらカーミラは考える。

 あれほど体勢を崩した機体がいきなり持ち直せるはずがない、どれほど技量をもっていてもあのタイミングでなら仕留められた筈だ、すると考えられるのは。

 (まさか、誘われた!?)

 それなら体勢も制御できるし、反撃の準備もできただろう。

 (けど、ありえない!)

 よほど度胸と自分の技術への信頼が無ければ出来ない芸当だろう、それを実戦で自分より若いこの少年がやってのけたのだ。

 カーミラは身震いする、戦場に出て何年も経つがこんなに震えるのは初めてだ。

 恐怖で?否

 「やっと!やっと会えた!私の愛する王子様しゅくてき!!」

 長い間探していた、自分をゾクゾクさせるような終わるのがもったいなくなるような最高の時をくれる王子様しゅくてき

 生まれ故郷であるガスアの軍隊を抜けたのも、傭兵として世界を回ってきたのもその為である。

 その待ち焦がれた人が今ここにいて戦っている、歓喜で自分がどうにかなりそうであった。

 (今のこの機体ドレスの状態じゃ、楽しく戦えない!!)

 王子様とダンスするのに衣装を整えないわけにはいかない。

 そう思うと、ユーリのビームサーベルによる追撃を振り切り全力でこの場から離脱する。

 

 「!逃がすか!」

 逃げるカーミラに対しランチャーで狙いすましていた時、通信が入った。

 『アカバ少尉、敵の壊滅を確認!ユースティア解放戦線の首魁のトーマス・タネルも確保したと白兵隊から連絡がありました。』

 オリビアから冷静にだけどどこか興奮した様子で報告をしてくる。

 『各機も本艦に帰艦しています、アカバ少尉も帰艦してください。』

 ユーリはランチャーを下した。

 報告を受けている間に射程外まで逃げられたからだ。

 「まぁ、もう会う事もないからいいか。」

 一方的に宿敵おうじさま扱いされているとは思わずそう思ったユーリは了解したことをオリビアに伝えエーデルワイスに進路を向ける。

 《ユーリ少尉はそのような戦いをするのですね、非常に興味深いです。》

 今まで黙っていたアイギスがしゃべりだす。

 「そうか、ちなみにどこら辺が?」

 《敵を乱すためにわざと隙を作るところなどです。一歩間違えれば両断されていましたよ。》

 「生きてるからいいじゃん。」

 《…その考えは理解できません。》

 こうして話してみると本当にAIとは思えないとユーリが思っているとアイギスが質問してきた。

 《少尉は何故、戦うことにしたのですか。》

 「ん?何故って?」

 《少尉は5年前一度、軍にいることを辞めています。

その後MTに乗ることなく過ごされていたのに今MTに乗っているのは何故ですか、地位ですか名誉ですか、それともかつての恩人の為というものですか。》

 ユーリは黙って聞いていたがやがてポツリポツリと話しだす。

 「俺は別に地位や名誉が欲しいわけじゃない。」

 カサンドラの英雄という呼び名だけでも持て余すぐらいだ、と笑いながらユーリは語る。

 「それに恩人の為というのも少しはあるが、それが主じゃない。」

 《ではあなたが戦う理由は何なのでしょうか。》

 だいぶエーデルワイスに近づいてきた。

 ユーリはポリポリと頭を掻きながら

 「それはな、アイギス」

 と少し貯め。

 「ここが一番自分らしくいられると気づいたからだよ。」

 《自分らしく…それは一体どういう意味なのでしょうか。》

 そう問うアイギスに対しユーリは笑みを浮かべながら。

 「それが理解できたらお前はもう人間と一緒だよ。」

 《了解しました、自分らしさを理解することを今後の課題に入力します。》

 「ああそうしてくれ。」

 そういいながらエーデルワイスに着艦するユーリ。

 画してユーリたちドラクル小隊の初戦は圧勝という形で終わった。

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