第8話 戦闘開始

 ユースティアのトマス近郊のオリハルコンの発掘跡地。

 地元の住民ですら忘れてしまうような長い間、人が入っていないはずのこの地に60名ほどが集まり酒盛りをしていた。

 彼らはユースティア解放戦線、自称真のユースティアの戦士。

 「今のユースティアは一部の反戦主義者により堕落した国家である。

今こそ真のユースティアの戦士である我々が立ち上がり強いユースティアを取り戻す」

 それが彼らの掲げるお題目であった。

 だが実際は、軍の関係施設などに押し込み強盗などを中心に軍に対する犯罪を犯す犯罪集団として認識されていた。

 彼らは三日後トマスにて聖戦(テロ行為)を行う予定である。

 この酒盛りは戦意鼓舞を兼ねた決起集会で、中にはもう既に成功させたつもりでいるのかどの国を攻めるといった政治的な話をしている者たちすらいた。

 (ふん今のうちに楽しんでいろ、全てが終わればお前たちは用済みだ。)

 内心そのような事を考えていたのはユースティア解放戦線の首魁であるトーマス・タネルであった。

 カサンドラの一件で少年兵を使った非人道的な作戦を多数行っていたことが判明し不名誉除隊となったトーマスはユースティア大国の軍部、特にスコットに対し強い恨みを持っていた。

 5年近くかけて今のユースティアに不満がある者を集め、集めた資金(犯罪行為にて)でMTを集めた。

 そのほとんどが工業用のMTではあるがほとんど軍がいないトマスを占領ぐらいはできる。

 その後は住民たちを人質にしてエリンに侵攻、交渉して重役のポジションを得るそれが彼の計画であった。

 全くもってずさんな計画で穴だらけではあったがトーマスはうまくいくと確信していた。

 それは彼のプライドと実力の過信による根拠ない自信であった。

 ともかく全てが終われば権力を握るのは一人だけでいい。

 トーマスが人を集めたのは戦闘用AIが手に入らなかったからだ。

 (今にみていろ、スコット・F・オーウェン!!私を除隊させ経歴に泥をつけた罪今こそ償わせてやる!!ハハハハハ!!!)

 そのスコットに存在どころか計画まで筒抜けとは知らず邪悪な笑みをしているトーマス。

 「あれは駄目ね。」

 そんな彼を見ながら周りに聞こえない程度の声で一人評価するのは二十台後半と思わしき女性であった。

 彼女がカーミラ・エツィオ、ユーリたちが話していた今回の保険のためにトーマスに高額で雇われた傭兵である。

 が、彼女は後悔していた。

 彼女が愛して止まないのは酒と胸が躍るような戦いのみである、ガスアを抜けたのも自分の思う通りの戦いが軍にいては出来ないからだ。

 が、今回はそのどちらも無い。

 まず作戦が気に入らない、穴だらけなのは置いといてもあの作戦では自分が満足するような戦いが出来るとは思えない。

 今回の酒盛りにしても振舞われているのは飲んで気分が悪くなるような安酒である。

 安いのは兎も角もうちょっと良いものもあるだろうに、と私物のワインを一人味わう。

 そして何より依頼主であるトーマスが気に入らない。

 強欲で無駄な自信家、おまけに無能。

 それだけでも落第点であるが、おまけに品性までないと来ている。

 最初にあった時の自分をみる下品な目は今思い出しても鳥肌が立つ、よく殴らなかったものだと自分でも関心している。

 「金は諦めるべきかもね。」

 作戦の成功するかしないかは置いとき(奇跡が起こらない限り無理だと思うが)素直にトーマスが金を渡すとは思えない。

 むしろ渡す前にこちらを始末しにかかる可能性が高い。

 もし始末しにかかってきたら逆に殺して金を取るだけではあるが、金の使い道は機体に関する事と酒が基本であり金自体に執着がそれほどない彼女にとって戦闘がない以上無駄骨である。

 一応の義理としてトマスの侵攻までは付き合うにしても、後の事は知ったことではない。

 グラスに残っていたワインを一気に流し込む、慣れ親しんだワインであるが今日はどこか不味く感じる。

 「何時出会えるのかしら、私の胸をときめかせるとっても素敵な王子様戦士は?」

 グラスに映る彼女はどこか蠱惑的であった。


 「ユースティア解放戦線の様子はどうなっている?オリビア。」

 『敵は全員オリハルコン発掘現場にいると白兵部隊が確認しました。

作戦いつでも行けます。』

 二日後、エーデルワイスはトマス近郊に到着していた。

 レーダーに引っかからない距離に止どまり白兵隊による報告をドラクル小隊は各自機体に乗って待機していた。

 ちなみに今ユーリと会話していたのはオペレーターの一人であるオリビア。

 ミーティングにいたのも彼女で、優しい性格であり広いでこが特徴である。

 「よし、それでは各自発進準備」

 そうユーリが言うと各機体が格納庫からカタパルトデッキに移動する。

 『ハミルトン機カタパルトに固定、ティナさん敵は多いけど頑張ってね。』

 「了解!テロなんて絶対許さないんだから!ティナ・ハミルトン、行きます!」

 先陣はティナであった、カタパルトによって押し出された機体がエーテルによる推進力により空に舞う。

 その間にドロシーのファフニールがスタンバイを終えていた。

 『ワグナー機発進準備完了、ワグナーさん気をつけて下さいね。』

 その言葉にコクリと頷くが返事は無い、オリビアも返事は期待していなかったのか気を悪くした様子は無い。

 「ファフニール ワグナー機、行きます。」

 そう言うとドロシーの機体も空に押し出された。

 『ハリーさん、いくら防御に力を入れた機体だからって無理をしないで下さいね。』

 「分かっているよオリビアちゃん、ハリー・トンプソン出ます!」

 そう言ってハリーのファフニールもカタパルトに押しだされた。

 他より重い為か先に出た二機より空に上がるのが遅かったが、その後は安定していた。

 『コックス曹長、いくら隊長さんに文句があるからっていって命令無視は駄目ですよ?』

 「わかってるって!そこまで馬鹿じゃねえし!」

 アドルファスは開口一番に命令無視を心配され、文句を言うがまだオリビアは心配そうだ。

 『でも、前に配属されていた部隊で暴行を行った。て聞きましたけど?』

 「それはその隊長が暴言吐いて、あぁ!ファフニール コックス機出るぞ!」

 話を切り上げ逃げるように発進したアドルファスであるが、イライラしていた所為なのか上手く機体が上がらず地面にぶつかるところであった。

 そしてユーリのファフニールがカタパルトに固定された。

 『アカバ機発進準備完了、ユーリさん頑張ってくださいね。』

 「ありがとう、オリビア」

 そう言って機体を発信させようとするユーリにアイギスが語り掛ける。

 《アカバ少尉、本当にサポートをしなくてもよろしいのですか。》

 今回ユーリはアイギスにデータ収集を主に行うように命令していた。

 「ああ大丈夫だ。」

 《今回の作戦成功率は80%以上ですが、少尉が撃墜される可能性もあります。サポートするべきかと」

 「今まで仕事であまりファフニールに乗れてない、サポートにも慣れてないしブッツケ本番よりはその可能性は低いと思うぞ。」

 そうユーリが言うとアイギスは黙った、おそらくとちらが可能性が高いか計算しているのだろう。

 《…命令を改めて受理します。この作戦において当AIアイギスはアカバ少尉の戦闘データ収集を主とします。》

 「そうしてくれ、あとアカバ少尉はなんか息が詰まるから止めてくれ。」

 《了解しました。ではユーリ少尉。》

 「……あんまり変わっていない感じがするけど、まぁいいや」

 『アカバ機、大丈夫ですか?』

 オリビアが心配の声で通信してくる。

 どうやら会話しすぎたらしい。

 「いや、問題ない。じゃアイギス行くぞ。」

 《了解、ユーハブコントロール》

 「アイハブコントロールっと、ユーリ・アカバ出る!」

 カタパルトからとび立ち、終始安定して飛行した。

 「ドラクル1から各機へ、このままエーデルワイスと共に前進。

投降を促し拒否したらすぐに戦闘開始だ。」

 ユーリは通信にて作戦の再確認をする。

 ちなみにコール番号は上から順にユーリ、ハリー、アドルファス、ティナ、ドロシーの順である。

 「相手は一般人を巻き込むテロ計画を画策している。なんとしてでも阻止しなければならない。」

 ここでユーリはスゥと深呼吸する。

 自分には少尉なんて荷が勝ちすぎると思ってる。

 けど、ここでスコット達からの信頼から逃げたらただのクズになる。

 主義も主張もなく自分を卑下しがちなユーリではあるが、そこまでは落ちたくはなかった。

 だから、例え似合わない役だとしても全力で演じて見せる。

 ユーリは静かにけどしっかりとした口調でただ一言をいった。

 「前進」

 その一言をきっかけに、浮上するだけにとどめていた各機とエーデルワイスはエーテルを推進力に回し前進し始める。


 しばらく行くと目的地が見えてきた。

 代表として艦長であるノアがオープンチャンネルにて呼びかける。

 「ユースティア解放戦線に告ぐ!こちらはユースティア大国諜報部所属エーデルワイス艦長、ノア・アリックスだ。」

 一見して何も反応が無いように見えるが、向こうの空気がザワついているのがユーリには感じとれた。

 「諸君らがトマスに対しテロ行為を行おうとしていることは判明している!今すぐ武装を解除し投稿せよ!そうすれば諸君らの身の安全は保障しよう!」

 テロ行為をした後ならともかく、今回はまだ未遂である。

 罪を軽くするのは、スコットにも了承を取っているし問題はない。

 死人が少ない事に越したことはない。

 1、2分ほどの沈黙が続く、ノアがもう一度降伏勧告をしようと語り掛ける寸前であった。

 銃声と共に、爆発音がエーデルワイスから聞こえる。

 どうやら、敵の弾が着弾したようだ。

 それと同時に跡地から工業用MTが大量に出てくる、どうやら説得は失敗に終わったらしい。

 「っ!いきなり撃ってくるなんて!」

 ティナが怒りを露わにする。

 場に動揺した空気が流れる。

 「落ち着け!オリビア被害状況は!」

 『カタパルトに直撃しましたが死者は0、負傷者数名です!今消火活動をしています!』

 「聞いたな!負傷者は出てるが死者はいない!落ち着いて、とにかく来るMTを破壊すれば良い!」

 死者はいないという言葉に少しは場が落ち着いた。

 その一方でユーリは反省していた。

 相手がお行儀よく待ってるとは限らないことを考えておくべきだった。

 邪念を振り払うように首を振り気持ちを切り替える。

 「各自の奮戦に期待する!ドラクル小隊、突撃!」

 今ここに、ドラクル小隊の最初の戦いが始まった。

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