第7話 ミーティング

 エーデルワイスがユーリたちを乗せエリアAAAを出航してから二日が経とうとしていた。

 「ったく、未だに何するかも知らされねぇのかよ。」

 文句を言っているのはアドルファス、エーデルワイスの食堂で椅子にもたれかかっていた。

 「……まだ二日しか経ってない。」

 本から目を逸らさず窘めるように言ったのはたまたま近くに座っていたドロシー。

 「ってもよ、どこ行くかすら聞かされてねぇんだぜ、何考えているんだ少尉様はよぉ」

 「…………」

 アドルファスの止まない文句に面倒になったのか返事もしなくなったドロシー。

 (チィ、愛想がねぇ奴)

 内心舌打ちしていると、この数日で見慣れた二人が近づいてきた。

 「あ!ドロシーさん、となりいいですか!」

 言い終わらないうちにドロシーの隣に席を確保したティナ。

 「うん、偶には小隊で食事を取るのもいいものだね。」

 といいアドルファスの隣に席を取ったハリーの二人組であった。

 ((誰も座っていいなんて言ってない))

 ニコニコと楽しそうなティナとハリーであるが、勝手に隣に座られたドロシーとアドルファスは心底迷惑そうである。

 「本当は隊長も誘おうと思ったんだけどね、いろいろと忙しいみたいだ。」

 聞かれてもないのにテリーは気さくにアドルファスに話しかける。

 目線を逸らすとティナがドロシーに対し今どきの流行の事などをマシンガンのように語りかけている。

 「隊長ねぇ、……なぁお前をどう思ってるんだよその隊長とやらを」

 隊長という部分に引っかかったのか、アドルファスはユーリに問いかける。

 「隊長?そうだね、うーん。」

 予想外の質問だったのか少し考えるテリー、答えを出す前にドロシーと話していたはずのティナが答えた。

 「私はすごい人だと思うよ!私カサンドラ育ちなんだけど、カサンドラの英雄って今でもすごい人気なんだよ!」

 聞いてないとも思いながら、ティナの評価を聞くアドルファス。

 その間にテリーもまとめ終えたようだ。

 「僕も悪い人じゃないと思うな、でなければ英雄とは呼ばれてないと思うしね。」

 ティナに続きテリーも好意的な意見だ。

 アドルファスはドロシーの方を見ると相変わらず無表情で本を見ていたが、話は聞いていたようで細い声ではあるが喋りだす。

 「……無能でなければ後はどうでもいい。」

 思っていたより中立寄りの意見であった。

 「君はどうなんだいアドルファス?」

 今度はテリーがアドルファスに質問してきた。

 「随分隊長に嚙みついていたけど、本当の所彼を嫌っているのかい?」

 ティナもドロシーも気になるようで黙ってアドルファスを見ている。

 「俺は…」

 アドルファスが答えようとするとオペレーターの声が鳴り響く。

 《ドラクル小隊はミーティングルームに集合してください。繰り返すドラクル小隊はミーティングルームに集合してください。》

 「どうやら楽しい会話はここまでのようだね、お先に失礼。」

 「はい、ドロシーさんも早く行きましょう。」

 そういってテリー、ティナ、ドロシーが(ティナに引きずられ)食堂を出ていった。

 アドルファスもミーティングルームに行こうとしたが、ふと目の端にドロシーの読んでいた本のタイトルが見えた。

 【アメーバーをも笑わせる爆笑ギャグ100連発!!】

 (あの顔でお笑い本読んでたのかよ!しかもなんちゅうタイトル!?)

 いろいろ突っ込みたい所はあったがグッとこらえ、若干後ろ髪を引かれながらミーティングルームに急いだ。


 「遅いぞ、コックス曹長!早く座れ!」

 アドルファスがミーティングルームに到着するなり副長であるジャックに怒鳴られる。

 遅れたのは事実なので謝ったのち席に座る。

 ミーティングルームには先ほどの四人と副長とモニターを操作するためかオペレーターの女性、そしてユーリがいた。

 「うむ、ではアカバ少尉説明を頼む。」

 「うっ、了解であります。」

 と指揮官と思えない腰の引けようで前に出てくるユーリ、深く深呼吸をすると気持ちを切り替えたのかキリッとした顔になる。

 「先ほど少将からテロ組織の撃退の任務が言い渡された。」

 部屋の空気が引き締まる、この部隊にとって初めての任務であるしそれ以前に初めての実戦の者もいる。

 「どうやらある過激団体が武装蜂起するらしい、場所はトマス近郊の閉鎖されたオリハルコンの発掘現場だ。」

 「閉鎖された理由はなんでしょうか。」

 ドロシーが質問を問いかける、興味がなさそうな雰囲気は相変わらずではあるが目を見れば真剣なのはよくわかる。

 「なんでも地盤が弱くいつ崩れてもおかしくないらしい、しかし町からは遠く広さもかなりあるとの情報だ」

 「多大のリスクはありますけど、隠れ家には打ってつけですね」

 テリーが一人頷く。

 「あとこのテロ組織のMTの数はおよそ71機」

 「71!?」

 場がざわつく、こちらのMTの数はドラクル小隊の5機のみなのだから当然である。

 「1機で16機近く倒せて言うのかよ、それとも英雄様が全部やってくれるのか。」

 憎まれ口を叩くアドルファスであるが、ジャックに睨まれ黙る。

 「いや、だがこの数にはカラクリがある。」

 アドルファスの憎まれ口は予想内だったのか淡々とモニターを指しながら説明する。

 「この71機のほとんどは工業用のMTで武装はほとんど無いに等しい、その上碌に訓練もしてないようで実際のMTの数は6機と考えていい」

 全体に安堵の空気が流れる、71と6では全く違う。

 「その6機の詳しい情報はあるんですか!!」

 ティナが大きな声で質問をする。

 隣のハリーは笑顔でティナを見ているが、反対側のドロシーは迷惑そうだ。

 「6機のうち5機は闇市場で流れたノームの前世代型【サラマンダー】。

残る1機はガスアの現主力機体【ガルダ】のカスタム機らしい。」

 「最後の1機だけなんか違うな。」

 アドルファスが疑問に思うのも当然である。

 闇市場で安値で売られていそうなサラマンダーと違って帝国のしかも現主力機体とは、売っていたとしても差が在り過ぎる。

 「ああ、この1機はおそらくこの組織が雇った傭兵のものだろう。」

 そういうとモニターに女の顔写真が出てくる。

 「名前はカーミラ・エツィオ。

元ガスアのMT乗りでその後脱走、今は高額の報酬で傭兵をやっている。

戦闘狂であることから異名は【ブラッディ・カーミラ】」

 顔写真をみてもどこか危ない雰囲気が漂ってくるようで誰かが唾を飲む音がした。

 「だが逆に言ってしまえばこいつさえ押さえれば、後は案山子同然の工業用MTと5機のサラマンダーを倒していまえば後は首謀者を白兵隊が捕らえて終了だ。」

 そう言ってユーリは4人を見渡す。

 「これがこの小隊の初任務である。」

 ユーリが覚悟を目をして言葉を続ける。

 「いろいろと至らない俺だが、前にも言った通り少将から任された信頼を裏切らない為にも全力でことに当たるつもりだ、皆よろしく頼む。」

 「さて、質問はあるか」

 ジャックの問いにドロシーが手を挙げる。

 「敵組織と首謀者の名前をうかがっても?」

 そう聞くとユーリは渋い顔をする。

 「あ~、まあ聞くよなそりゃ。」

 なにか機密事項でもあるのだろうかと思う4人であるが、どうもそのような感じでも無い。

 「組織の名前はユースティア解放戦線、首謀者の名前はトーマス・タネル」

 そこまで言うとユーリは大きくため息をつく。

 「俺の少年兵時代の元上官だ。」

 そう語るユーリの顔は心底嫌そうであった。

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