第6話 抜錨
スコットに連れられ着いた先にあったのは青を基調にした戦艦であった。
「グラーフ級7番艦エーデルワイス。従来のグラーフ級より小型だがエーテル出力は他のグラーフ級と引けを取らない、そしてある程度のステルス機能も付いている。」
「緊急性の高い任務が多い君たちに似合った艦に仕上げて貰った。」
ライアンとスコットが説明している間も反応は様々であった。
ティナは子どものように目を輝かせており、希望に満ち溢れている。
アドルファスは先ほどの件が後を引いているのか未だに不満げではあるが、艦は気になるのか説明を真剣に聞いている。
ハリーは何処か優雅に微笑みを浮かべている、やることなすこと全てがイケメンに見えてくる。
ドロシーはあまり関心がなさそうである、常日頃からこの様なスタイルなのかもしれない。
そして肝心のユーリは説明を聞きながらもどこかうわの空である、単純に説明に飽きたのかも知れない。
十人十色な状態で続くエーデルワイスの説明であったが、向こう側からMT輸送用の車両が5台、艦の近くに来たところでライアンの説明が途切れる。
「ちょうどいい、君たちの機体が到着したようだ。」
ライアンがトランシーバーで何事か話すと、搭載されていた様々なカラーリングを施された5機のファフニールであった。
ユーリ以外の4人から声があがる、ドロシーですら関心を示している。
(自分の機体に関心が持てなかったら問題があり過ぎるけどな。)
頭の片隅でユーリはそのような事を考えていた。
「ハミルトン軍曹の機体は赤、高火力用にチューンアップしてあり専用のエーテルガトリング砲を搭載している。」
ティナは自分の機体に夢中で聞いているかどうか微妙であった。
「ワグナー機は主に偵察が目的の機体で大型のレーダーが搭載されておりカラーリングは橙色、主な兵装は二丁のバヨネット、つまり銃剣仕様のハンドガン。」
ドロシーは自分専用機の背中に付いた大型のレーダーに目線を固定していた。
「トンプソン伍長の機体の特徴は他の機体より装甲が厚くシールド搭載であること、ハルバートが主な兵装でカラーリングは青」
ハリーはしげしげと興味深く眺めていた。
「コックス曹長の機体は長距離狙撃が出来るようにしてある。」
皆の様子を見ていたユーリであったが、思わずライアンの方に全力で首を振ってしまう。
とてもじゃないが不良みたいな雰囲気を出しているアドルファスが狙撃が出来るとは思えない。
他のメンバーもそうなのかアドルファスやライアンに目線を向けている。
「…全員の言いたいことはわかるが事実だ、コックス曹長のMTによる狙撃を得意としている。」
「悪かったな!狙撃が得意で!!」
どうでもよいところでアドルファス以外の心が一つになった瞬間であった。
コホンと咳払いしてライアンは話を再開する。
「カラーリングは緑、言った通り長距離用のライフルを搭載している。」
まだ怒りが収まらない様子のアドルファスではあったがその後のライアンによる細かい説明をしっかりと聞いているところから根は真面目なのであろう。
「最後にアカバ機、本人にはもうすでに説明してあるが高機動で近・中距離用のセッティングをしてある。」
「アカバ機には他に大きな特徴があるがそれは後日としよう。」
そうスコットがいうとティナが質問してきた。
「?今ではダメなのでしょうか!」
他のメンバーも口にはしないが同じ意見のようだ。
「機密に関わるので後日、機密保持契約を結んでからにしてもらう。」
ちなみにユーリはアイギスを見せてもらったすぐ後に結んでいる。
後日アイギスを紹介したとき、ドロシーですら声をあげて驚いていた。
「以上何か質問があるものは?……無いようなら二日後、ヒトフタマルマルに第二滑走路に集合、以上。」
こうして、ユーリと四人は分かれ各自が思う通りの事をしていた。
家族と過ごす者、己が趣味に興じる者、愛する人と過ごす者、体を鍛える者様々なであった。
そんな中ユーリ・アカバがどのように過ごしたかはあえてここでは記さないことにする。
「君がアカバ少尉か、エーデルワイスの艦長をノア・アリックス階級は大佐だよろしく頼む。」
「同じくエーデルワイス副長ジャック・サンダース中佐、よろしく」
当日エーデルワイスに乗り込みユーリが最初にしたことはブリッジにあがり艦長と副長に挨拶することであった。
スコットからは信用のおける人間を配置しておいたといわれていたが、実際に目にしてみると二人から歴戦の雰囲気が漂っている。
「ユーリ・アカバ少尉であります。若輩者ではありますがよろしくお願いいたします。」
ユーリからしたら渾身の挨拶であったが二人からは笑われてしまう。
「いや、失礼もっと気を楽にしていい確かに私の方が上官ではあるがあくまでこの艦の指揮官は君なのだから」
アリックスの言葉にホッとするユーリ、下手なことをして今後の関係にヒビを入れたくはなかった。
「スコットとは旧知の仲でね、君の事をよろしく頼むとさんざん言われたよ。」
少し過保護のと心の中で思うユーリではあったが、同時に有難くも思った。
「ではそろそろ出航の時間だが、その前に全員に声を届けてやれ少尉」
とジャックが差し出したのはマイクであった、これで艦内に放送しろということなのであろう。
「いや、そういうの慣れてないんですけど」
そういってもジャックは手を引かない、あきらめて手に取り深呼吸してからしゃべりだす。
「指揮官の隊長のユーリ・アカバ少尉だ、この中には私に対する不信感をもっている者もいると思う。」
アドルファスの顔が思い浮かぶ、彼は今何を思っているだろうか。
「私に対する君らの思いも当然だと思う、私より軍歴が長いものや階級が高いものいるだろう。」
となりにいるアリックスとジャックが静かに見守る。
「しかし私は全力でやれることをやるつもりだ、皆もやるべきことをやれば結果はついてくると思う。」
スッと息を吸ってからユーリは締めに入る。
「願わくば全員で生き残れることを願う。」
チラッとアリックスとジャックをみる。
二人は出航の準備を終わらせていることを頷くことで表す。
「エーデルワイス、抜錨」
今、219人をつれユーリ・アカバはエリアAAAを旅立つ。
彼を待っているのはいったい何か、それがわかるものは誰もいなかった。
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