第5話 小隊結成

 自分の愛機、そして相棒となるAIアイギスとの出会いから二日ほど経ったある日スコットの部屋に入ってきたユーリは開口一番。

 「なんか堅苦しいなこれ。」

 といつものように愚痴っていた。

 「そういうな、これから嫌でもそれに慣れていくものだアカバ少尉」

 と部屋で待っていたスコットに言われる。

 本日、軍上層部からの正式な命令が下されユーリは特例で少尉となった。

 ユーリが先ほどから愚痴っているのは軍服に対してだ。

 「しかし少年兵だった俺がいきなり少尉とはね、上層部からいろいろ言われたろうに。」

 ユーリなりの心配の仕方だったが、それに対しスコットは鼻で笑う。

 「まあな、しかし君の戦術レベルを見れば大抵の者は黙らせられる。」

 実際ユーリの階級やそもそも軍への入隊は、上層部はもちろん諜報部の中でも不満は多かったが、彼のシュミレーション内容をみて納得したものや納得しないまでも黙るしかないといった者が多かった。

 (だがなユーリ、大変なのはこれからだぞ。)

 危険性の高い作戦を振ってしまうのは勿論のこと、スコットの失脚を狙う立場の人間が彼に妨害を働く可能性も多分にある。

 「私はな、ユーリ」

 軍服の襟元をいじっていたユーリに静かに話しかける。

 神妙な雰囲気にユーリも姿勢を正す。

 「少しでもこの国を良くしたいのだ。」

 スコットの過去はユーリも多少知っていた、貧しい家庭だったが軍学校で才覚を表していったのだ。

 「少しでも貧富の差を無くし、国を富ませ少しでも私を認めてくれた国に恩返しをしたい、それが私の想いだ」

 スコットの段々熱くなる口調にユーリは身動ぐ。だがその口調が弱くなる。

 「だが現実はそう簡単ではない、口には出せんが私は様々な陰謀術数と戦っている、今回の君の入隊もその対策の一つだ。」

 話を何処に向けたいのかわからないユーリだがスコットは話を続ける。

 「時々思うのだよ私の理想はただの偽善ではないかと、独りよがりではないかと」

 そういうとスコットはユーリに頭を下げる。

 「すまない、私のわがままに付き合わせて」

 だが、謝られたユーリは困ったように頭を掻きながらこう切り出した。

 「いいんじゃないんですか、偽善でも。」

 スコットは驚いたように頭を上げる。

 「変に正義振りかざして人が死ぬより偽善でも人が笑える方が何倍もましだと思いますけどね俺は、学がないんで他に言いようが思いつかないですけど。」

 「ユーリ…」

 「それに、確かに引き受けたことに少し後悔もしたけど、あんたを恨みなんてしませんよ。」

 決めたの俺ですしね。と半笑いしながら語るユーリに固まるスコットだったが、やがて大きな声で笑い始めた、そしてひとしきり笑い終えると。

 「ユーリ、ありがとう。」

 短い会話であったがスコットは確かに今までの事が少し救われたような気がした。

 「?何に対しての礼ですか?」

 当の本人はピンとは来ていなかったようであるが。

 「フフ分からなければそれでいい、さあ早く任命書を渡してしまおう君の部下がお待ちかねだ。」


 「遅かったですね、何かありましたか。」

 部下が待っているという格納庫の前には心配した様子のライアンが待っていた。

 「いや、少し昔話に花が咲いてねついつい遅くなってしまった。」

 先ほどのことは黙っているように言われていたのでユーリも話を合わせる。

 「まったく、年を取ると昔話が長くてしょうがない。」

 二人の態度になにか引っかかるものがあったライアンではあるが、踏み込まない方がいいだろうと気持ちを切り替えた。

 「そうか、ともかく君の直属の部下になるものたちは四名全員この中にいる。」

 「確か、軍学校の優等生だったり他の部隊の若手から引き抜いてきたんだっけ。」

 ユーリの質問にスコットが答える。

 「ああ、全員優秀な兵士だがその分我も強い。」

 「その優秀な兵士を文字通り生かすも殺すも少尉次第というわけだ」

 ライアンの脅すような言葉に胃を抑えるユーリ。

 「ともかく待たせてる入りたまえ」

 と扉を開けるまえにライアンは振り返り。

 「それと、部下の前では少将にあまりラフな感じで話さないように」

 「私は気にせんがね。」

 何か言い返そうとしたライアンであったが、時間が本当にないのか扉を開けた。


 部屋に入ると四人の男女が一斉に敬礼をした。

 スコットが合図すると敬礼を解き休めの姿勢になる。

 「では、知っていると思うが君たちの上官にあたるオーウェン少将、そして君たちの直属の指揮にあたるアカバ少尉だ。」

 「ユーリ・アカバだ、これからよろしく頼む。」

 簡単な自己紹介をすると興味深そうな目や、疑いの目など様々な視線をユーリに向けてくる。

 「では、ハミルトン軍曹から自己紹介を頼む」

 「はい!!」

 そう元気な声で答えてくれたのは、腰まで届く長い赤毛をポニーテールにした少し長身な少女だった。

 「ティナ・ハミルトン!階級は軍曹であります!カサンドラの英雄と一緒に戦えるなんて光栄です!よろしくお願いします!!」

 そう元気、いやちょっとうるさいぐらいの音量でとなりの小柄の少女がかなり迷惑そうだ。

 隠しもしない好意的な目をこれでもかとユーリに向けてくる。

 「う、うむ。ではワグナー二等軍曹」

 「はい」

 ティナとは違い今にも消えてしまいそうな声で返事したのは、銀色の猫毛と分厚めのメガネが特徴的な小柄な少女だった。

 「ドロシー・T・ワグナー。階級は二等軍曹よろしくお願いします。」

 こちらはティナとは逆にユーリに対しあまり興味がなさそうに見える。

 「次は僕ですね。」

 そういって出てきたのは、如何にも茶髪のさわやかそうな青年であった。

 「ハリー・トンプソン曹長であります。若輩者ではありますがよろしくお願いします。」

 そう爽やかに返事をすると一歩引いた。

 視線では好意的にユーリを見ているが、実際にどう思っているかはユーリには判断がつかなかった。

 「最後にコックス曹長」

 「……」

 最後に出てきたのはいかにも疑っていますといった雰囲気を出している青年だった。

 「アドルファス・コックスだ、最初に言っとくが俺はあんたを認めてねぇ。」

 アドルファスの発言にユーリとスコット以外の空気が固まる。

 「特例だか英雄だか知らないが5年間何もしてこなかった奴がいきなり少尉だと?ふざけるのも大概にしろって話だろが。」

 アドルファスが喋るごとに場の空気が重くなる。

 ティナは目に見えてオロオロしてるし、ハリーはこの場をどうしようか考えている様子で、ライアンは怒りでこめかみを押さえている。

 動じてないのは興味がなさそうなドロシーと予想していたらしいスコット、そして罵倒されているはずのユーリである。

 ライアンが何か言おうとしていたが、ユーリはそれを遮りしゃべりだす。

 「コックス曹長、君のいうことも正しい。そんな奴がいきなり上官と言われても納得しづらいだろう。」

 全員がユーリの発言に驚いていた。

 ライアンとスコットは冷静に対処していることに対してだが。

 「だが、せめて機会をくれないか。俺が信用できるか否か実際に感じてそれでも信用が出来ないというなら俺から少将に掛け合おう。」

 何か言いたげなアドルファスであるが、毒気を抜かれたのか渋々ながら頷いた。

 「何はともあれこれで小隊全員集合だな。」

 スコットが喋りだすと全体の雰囲気が引き締まる。

 「今から君たちの小隊は【ドラクル小隊】となり国のため奮起してもらう。さぁ行こうか君たちの乗る船【エーデルワイス】に」

 こうしてユーリと四人は出会った。

 この出会いが今後どのようになっていくのかはまだ先の話。

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