第4話 アイギス

 「あぁ~~~、死ぬかと思った。」

 あの会話から二週間ユーリはライアンと、軍事施設のある場所にジープで向かっていた。ユーリは一ヵ月丸々勉強漬けでかなり疲労しているようだが。

 「大げさな、シュミレーターの方が余程疲れるだろうに」

 運転しているライアンは振り向かずに答えた、この一ヵ月で少しは親しくなってきたようでユーリはライアンに軽口を叩く。

 「いやいや、俺にとっては勉強の方が難敵ですから。MT乗るぐらいしか能が無い悲しい生き物なんですよ。」

 「そうか?知識はともかく頭の回転は悪くないと思うぞ。」

 実際、彼は物覚えがよく勉強もかなりスムーズだったらしい、その頭の回転もあのシュミレーター結果に繋がっているのかも知れないとライアンは密かに思っていた。

 「いやいやいや、あれぐらい頑張れば何とかなりますから」

 (頑張って全員あれが出来るなら今頃ユースティアは天下を取ってるよ。)

 と内心ライアンは突っ込む、どうやらユーリの自己肯定の低さはなかなかのようだ。

 と話している内にだいぶ施設の奥の方に来たようだ。

 「それより、なんでこんな施設の奥にあるんですかね?俺のとやらは。」

 そう今回ライアンと一緒に向かっているのはユーリの専用機となる機体の受け取りの場所である。

 ちなみにスコットは諸々の手続きをするため先に向かっている。

 「別に専用機なんて大げさなものじゃなくて量産機で十分なんですけどね。」

 「そういうな、それだけ君の実力が認められているということだ。」

 それに、とライアンは言葉を続ける。

 「君に専用機を与えるのは。」

 「?どう言うことなんですか。」

 問いかけるユーリだがライアンからの返事は無い、会話はこれで打ち切るという意味だろう。

 (それにしても…)

 わざわざ機体一つもらうにしても何かしら裏がありそうなこの雰囲気はユーリにとっては間違いなく。

 (めんどくさい)


 「ん、来たか」

 ついた先にスコットは護衛を連れて待っていたが、二人がまじかに来たのち護衛を下がらせた。

 「いいのか、そんな簡単に護衛を下がらせて」

 当然と言えば当然の質問である、基地内とはいえ少将が護衛がまったくいないのは問題ではないだろうか。

 「かまわん、一々ついてこられるのは面倒だ。」

 格納庫を開けさせながらスコットは答える。

 「それに、」

 それでいいのかと思っていたユーリに振り向くスコットの顔は真剣そのものだった。

 「あれについて知っている人間は少ない方がいい」

 そういうと開いた格納庫に入っていくスコットとライアン

 (はぁ、めんどくさい)

 心の中でため息をつくユーリ、どこかの諺でため息をつくと幸せが逃げるというらしいが、それが真実なら自分に残された幸せはどれほどだろうかと疑問に思うユーリだった。


 気持ちを切り替えて格納庫に入ると真っ暗であった。

 外から入る光のおかげで先に入った二人は見えるが目的の機体は見つからない、すると格納庫が閉まり電気が一斉につく。

 まぶしさに思わず目をつぶってしまったユーリだったが、徐々に目を開けていくと白を基調としたMTがそこに存在していた。

 「これが…」

 「機体名【DT-01】通称【ファフニール】我が国が独自開発した次世代主力候補の試作1号機だ」

 スコットが機体名を告げている間もユーリはファフニールから視線をそらさなかった。

 もしかしたら見惚れていたのかも知れない、邪竜の名がつけられたその機体は名前のイメージとは異なりどこか清廉な雰囲気を出していた。

 「聞いてないかも知れないがスペックも聞いておけ、ユーリ少尉」

 ライアンがいつの間にか用意していた紙、おそらくスペックのことが書かれているのだろうそれを読み上げる。

 「ドラグーンタイプは、全高21m、重量47.1t。今まで空戦では空戦用のユニットパーツを付けなければならなかったのを独自の機関のみで戦闘可能、これにより空戦においての多様性が増大する。」

 ユーリはさすがにライアンが話している間に彼に向き直り聞いていたが、やはりファフニールの方が気になるようでちらちらと見ようとしていた。

 「エーテル出力は今、わが軍の主力である【EG-04 ノーム】の3倍、コックピットは従来のMTと同じく頭部、その他ブレードアンテナによるレーダー機能の拡張、メイン武装である強化型ビームランチャーやビームサーベルなどしゃべることは沢山あるがあとは自分で見ておけ」

 ユーリの様子をみて苦笑しながら話を打ち切るライアン、スコットも肩をすくめながら苦笑している。

 ユーリは改めてファフニールを眺めるが、ふと疑問が湧いて出てくる。

 確かに最新鋭ではあるだろうがわざわざ少将の護衛まで遠ざける理由にはならないだろう。

 そう思いながらファフニールに近づき、足の部分に触れてみた。

 《初めましてユーリ・アカバ少尉》

 そう女性の声が聞こえて周りを見回してみても女性はいない。

 「ん?、誰かコックピットに乗っているのか。」

 そうスコットに聞くが笑いをこらえながら

 「いや、誰も乗っていない」

 「じゃあ、一体どこから誰が」

 ユーリが混乱しているとライアンが流石にかわいそうなったのか助け舟をだす。

 「少将、話が進みませんので」

 「うーん、もう少しからかっていたいが仕方ない」

 軍のことでからかっていていいのかとも思うが答えが気になるので黙って聞くことにする。

 「これには最新鋭のAIが搭載されている。」

 「…いや冗談だろ?AIが喋るとか聞いたことないぞ」

 MTにAIがのせてあることは珍しくない、国よっては兵の数の差をAIで補っているところもある。

 が、そういったAIは最低限の動きしかできない。

 まして喋ることなど

 「出来ますよ、私が創ったAIーGISー01ならね。」


 そう聞こえた方に振り向くと何処かに隠れていたのか、白衣を着た細身の男が立っていた。

 「この方は技術部のハイゼン・アームストロング博士、今回この機体のAIを製作された方だ。」

 そうスコットが説明し終えない内につかつかとユーリに近づいてきたハイゼン

 「君がカサンドラの英雄君だね。」

 「できればアカバかユーリでお願いしますアームストロング博士。」

 「それで英雄君。」

 (あっ、この人話聞かない人だな)

 そうユーリが確信してる間にもハイゼンは話を進める。

 「このAI-GISー01は喋ることは勿論人間の感情を学習・理解する、つまり心をもっているAIなのだよ」

 「そんなものどうやっつくっt」

 「それで英雄君。」

 (やっぱりこの人、話聞かない)

 「君にはAI-GISー01の学習に一役買ってもらいたいのだよ」

 どういうことなのか聞こうとするユーリだが、博士はこのAIがいかにすごいかと難しい単語入りで一人語りし始めたのでスコットとライアンの方に振り向く。

 「つまりこのAIーGIS-01は完成して間もないため感情の学習がまだまだだ、君と行動を共にすることにより学習させたいということだ。」

 「そこでなんで俺。」

 スコットの説明にユーリが愚痴るのをライアンが補足する。

 「一つは戦闘データ収集も兼ねているため出来るだけ操作技術に長けた人物が好ましい事と、君が18であるからだ。」

 思春期に感情の起伏が激しくなるのは有名な話、そこで18と思春期に近く操作技術に長けたユーリが当てはまったらしい

 「これは私より上位の命令系統から来ていてな、不満かもしれんが我慢してくれ。」

 再びファフニールを見つめるユーリ、確かにこれだけの秘密があれば出来るだけ隠しておきたいのもユーリにもわかる。

 実際にはもっと国家権力のドロドロした争いがあるんだろうが、話さないということは聞かない方がいいということなんだろうと自分を納得させる。

 「で、AIーGIS-01…だっけ?」

 《はいAIーGIS-01は私です、ユーリ・アカバ少尉》

 改めて会話が出来ていることに驚きながらもできるだけ落ち着いて話す。

 「…色々聞きたいことはあるけどまず一つ、愛称とかないの」

 《質問の意味が分かりかねます。》

 「いやずっとAIーGIS-01じゃ呼びずらいと思って」

 《いいえ、AIーGIS-01に愛称の類はありません。》

 振り向くとアームストロング博士は未だに自分の世界に入ったままなのでスコットに確認をとる。

 「かまわないよ、これから長くいるんだ愛称ぐらい構わんだろう、なんなら君がつけてやれ」

 「そうだな、そうなると…」

 ユーリは考え始める、数分して顔をあげて

 「…【アイギス】てのはどうよ」

 「神話に出てくる盾ですか、良いのではないでしょうか」

 ライアンはそう言って賛成してくれたが、なんとなく語呂で決めたとは言えなくなったユーリだった。

 「ん、私もいいと思うぞ」

 スコットにも賛成が貰え、アームストロング博士は未だに帰ってこないので(後でスコットが了承を貰った)決まった。

 「じゃ、そういうことで構わないかAIさん」

 《了解しました、これより当AIはアイギスと名乗ります》

 「では、改めて」

 ユーリがコホンと咳払いし、ファフニールのそれもAIアイギスが搭載されているだろうそしてコックピットである頭部に視線をやり挨拶する。

 「よろしくお願いするよ、アイギス」

 《はい、よろしくお願いしますユーリ・アカバ少尉》

 

 

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