第2話 実力

            ーユースティア王国王都 エリンー

 「で、いきなり首都に連れて来られて検査の山をこなしもう一週間。流石に飽きてくるんだが。」

 「そう愚痴るな、本来士官学校にも通っていないお前が特例で少尉になるんだこれでもかなり減らした方だぞ」

 エリンにおける。いやユースティアにおいて最大の軍事施設「エリアAAA」その廊下をユーリはスコットに連れられ歩いていた。

 あの決断の日から十日、すぐさま彼はエリンに連れてこられ発言通りひたすら大量の検査の山であった。

 余談ではあるが、ユーリは最初の検査でUターンしかけ大勢の屈強な大男に囲まれた時点で後悔をしていた。そんなげんなりしているユーリに向かい厳かなされどどこか暖かさを含ませた声で「それに」とスコットは会話を続ける。

 「検査もあと一つだ、それが終わればお前も晴れて少尉だ。」

 そう言ってスコットは扉の前で立ち止まる。シュミレーター室と書かれていることからも検査の内容は分かり切っていた。

 「ようやく、本命か」

 実の所ユーリは自分に指揮能力などがあるとは思っていないし、スコットも期待はしていなかった。ユーリが自慢出来るのはつまるとこ

 「見てのとおりここはMTだ」

 これなのだ。


 「お待ちしておりました。オーウェン少将」

 シュミレーションルームに入るなりスコットに敬礼したのは、如何にも軍人らしい生真面目そうな男であった。ユーリにとってはどうでもよいがおそらくスコットの部下なのだろう。

 「うむ、ユーリこちらはライアン・ジェームズ中佐だ」

 「…ユーリ・アカバです。」

 一応ユーリも敬礼をライアンと呼ばれた男に敬礼をするが、帰ってきたのは不審者を見るような視線だけだった。

 (まぁ、それも仕方がないか)

 逆の立場なら自分もそうしてると軽くながら、視線はすでにライアンの奥にいっていた。スコットとライアンが何やら隣でシュミレーションについての会話をしているが全く耳に入っていなかった。

 それは、まさにMTのコックピットそのものであった。五年、五年間あのシートから逃げ続けてきたというのにいざ目の前にすると心がとても落ち着いているのがハッキリ感じられていた。

 取り乱すとも、パニックになるとも思っていた。なのに落ち着くなんて

 「どうしよもないな、ユーリ・アカバ」

 本人が意識せずボソッと呟いた。

 「?どうした」

 隣にいたスコットがその声が聞こえたのか聞き返すが、何でもないとユーリは返すこの感傷は話しても理解されないだろう。そう思いながら誤魔化すようにシュミレーターに足を進めていた。


 「よろしいのですか少将」

 「なにがだね中佐」

 ユーリがシュミレーターの説明を受けている間ライアンはスコットに問いかけていた。

 「彼の検査結果は戦略レベルBを除けばすべてC、5段階の中間です。とても特務部隊の指揮官に向いてるとは」

 「ほう一つBがあったか、嬉しい誤算だな」

 それを聞いてライアンはますます内心曇らせていく、才能がないとは言わないが特例で少尉にましてや特務部隊の指揮官にするほどとは思えない。ましてこの少将は彼を引き入れるためにかなりの無茶をしている。

 「君が言いたいこともわかる。だが、すべてはこのシュミレーターを見てからだ。」

 「ですがあのシュミレーターは…」

 「そうレベルは10段階あり通常受けるのは2、熟練の乗り手でも6しかしこれから行われるのは」

 「「」」

 「20歳にもならない少年が、それも5年も動かしていないのに…やはり無理です。」

 ライアンがそういうのも無理はない。レベル10は精鋭中の精鋭、王都の親衛隊が慢心しないようにと作られた言ってしまえばムリゲーなのである。

 「まあ、結果は見ていればわかる。それにもう準備ができたようだぞ」

 確かに見てみれば、もう準備は終わりこちらの開始の合図を待っている。仕方がないとライアンはシュミレーションを開始させた。


 ライアンは信じられないものを見ていた。これは夢だと誰かが言えばそのまま信じてしまいたくなる光景だった。

 「っー-これで3機目!!」

 シュミレーターの中でユーリが叫んでいた。そしてシュミレーターとリンクした映像でも3機目が爆散していた。ユーリはシュミレーターのNPCをしていた。そう圧倒していた。シュミレーターが開始されると同時に6機の敵機がもつマシンガンから放たれる弾の雨を当然のように躱し、躱し損ねた弾は防いだのち、ライアンにはいつ接近したか分からないレベルのスピードで持っている数少ない武器であるビームサーベルで切りつける。

 その時点でライアンには理解不能である。ユーリが乗っている機体のデータはNPCの機体に比べるとかなりエーテル出力が低い、ビームサーベルも切りつけたはいいがほとんどダメージは通っていない。だが、それでも彼は最新気鋭の機体のようなスピードを引き出していた。さらに、ビームサーベルが効いていないのを見て。すぐさま相手のマシンガンを奪いゼロ距離にて連射し、1機目を沈めた。

 そして、他の5機のマシンガンを高速軌道でかわしながら相手のMTのコックピットー頭部に連射していき、2機目を沈めた。そしてビームサーベルの連撃にて3機目を両断したのだ。この間彼が受けたダメージはほとんどない。

 「一体どうなって…」

 ライアンはどこかに不手際があったのではないかと、自身の行動を思い出そうとしていたが、どう考えてもなかった。レベルは間違いなく10であるし、ハッキングなどもされた痕跡もない。そうこう考えているうちに4機目が地に倒れた。

 「これが私が彼を押す理由だ」

 驚愕しているライアンの横で見ていたスコットが誰に向けてか映像から目をそらさずしゃべりだした。

 「判断力、反応速度、決断力、その他にもあるが、つまりは彼のそう彼のだ」

 「決行力…ですか?」

 ライアンが思わずついた疑問にやはり映像から目をそらさずスコットは答える。

 「そうだあらゆる作戦、あらゆる状況に対応できるMT乗り。彼より頭がいい者もいる。彼より熟練の者もいる。だが、私が求めるMT乗りは彼しかいない。」

 そうこう話しているうちにユーリはすでに5機目を沈めており、6機目の頭からビームサーベルにて串刺しにした所であった。つまりシュミレーションの終了であった。


 「ふぅ、久しぶりにしてはまあまあだったかな」

 シュミレーターの中から疲れを感じさせないそんな声が聞こえる。その場にいたスタッフがシュミレーターを解除しようとしている。

 「君が彼をどう評価するかは自由だ」

 スコットの声に対して振り向くとようやく彼はライアンを見て話していた。

 「だが、私は彼が適任だと思っている。できれば君にもそう思ってほしい」

 そういうとスコットはユーリの方に向けて歩みを進めた。

 「…少なくともこれに関しては認めるしかないじゃないですか」

 そうつぶやくと彼もユーリのもとに近づいていった。彼の持っていた評価表の戦術欄にはしっかりとA+という最高評価が記されていた。

 

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