第1話 田舎町の邂逅

            ーユースティア大国・トマスー

【ユースティア王国】において【トマス】は軍事的において左程重要な町では無かった。【ユースティア王国】の首都【エリン】そして敵地から遠く、軍事施設が多くないこの町において戦争は遠い世界のようであった。

「おら!さっさと仕事進めろ!」

 そんな田舎町に乱暴な声が響く、工業用MTの修理工場からである。工場といっても作業人数5~6人程度の小さなものだが近くに大きな街も無い為、田舎町には重要であった。

「さっさとしねぇと給料抜きにするぞ!」

 だが、同時にこの施設の工場長は気性が荒い事でも知られていてあまり近寄りたくない場所としても知られていた。ちなみに先ほどから怒鳴っているのは件の工場長である。その社員を怒鳴っている工場長の後ろから声をかける者がいた。

「済まない、少しいいかね。」

「あぁ?こちとらいそが…」

 後ろから聞こえたその声にいつも通り乱暴に応えようとする工場長だが、その声は途中で言葉が出なくなった。理由は簡単相手がこの町ではあまり見ない軍人だったからだ、それも明らかに高位の軍人で屈強な護衛二人がこちらを睨んでいる。

「…ぇえ、はい何の御用でございましょうか?」

 乱暴者で有名な工場長も明らかな軍人を目の前にしては、強く出れずもみ手で明らかに媚始めている。そんな彼に内心苦笑しながらも軍人はその問いに答えた。

「いや、なに人を探していてね。この工場に名前を変えて働いているのは突き止めたのだが、済まないが従業員を集めてもらえないかね。」

「へ、へい分かりました。すぐに!おまえら作業止めてこっち来い!」

 工場長の呼び声に反応しすぐに人数が集まるが、一人作業を止めずに黙々と作業をしている者がいる。

「おい何やってんだ!集まれてっ言ってるのが」

 怒声は軍人の手による静止で止んだ。つかつかと工場内に入っていく軍人さんに何か言おうとする工場長だったが、護衛が怖いのか何も言えないでいた。そうこうしているうちに軍人は作業員の近くに立っているが、作業員は手を止めようとはしなかった。

「おい、いい加減にしろ少将に向かって」

 いらだったのか護衛の一人がそう声をかけ咎めようとするが軍人に遮られた手でなく目で、明らかに「余計な事をするな」と語る目に護衛が言葉を詰まらせると、ようやく作業員が口を開いた。

「少将になられたのですね。スコット・F・オーウェン

 若い少年の声だった。スコットと呼ばれた軍人は僅かに笑みを含みながら、その少年に言葉を返す。

「あれから、5年だからな。そうゆう君も成長したなユーリ・アカバ」

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「5年ですか…、あまり実感はありませんね。」

 あの後、軍人ことスコットは工場長に休憩室を借り二人で話していた。そう二人である。渋る護衛を置き去りにしスコットはユーリと呼ばれた少年と二人きりで話す事を望んだ。この事の一番の被害者は護衛ではなく狭い工場内で屈強な護衛二人の同じ空間にいなければならなかった工場長とそのほかの作業員であることはどうでもよい話である。

「まあ土地を渡り歩き、名を変え続けていればそうなるだろう。」

「……そうですね。」

 しばらく、沈黙が場を包んだ。ユーリは昔を思い出し感慨にふけっているような。後悔してるように何もない空間に視線を向けており。スコットは何も言わずそれを見守っていた。

「それで、わざわざそこまでして身を隠したかった男に少将が一体何の御用ですか。」

 口を先に開いたのはユーリであった。スコットはユーリがしゃべるのを待っていたのだからそれも当たり前ではあるのだが。

「探りをいれてくるな。うすうす感づいているのではないか、自分を探しに来る理由は1つしかないと」

 少し怒ったように、内心彼らしいと思いながらスコットは返す。

「もう一度、MTに乗って戦場に立ってほしい」

 そういわれるとユーリは天井を見上げながら「ハッ」と息を吐いた。いやそれは苦笑だったのかもしれない、それがスコットの言葉に対してかそれとも自分の当たりたくもない予感が当たったことに対してか。

「冗談はやめてくれ」

「私は本気だ」

 短いながらに本気をうかがわせる声でスコットは答えた。

「私は今、諜報部に所属している。その中で掴んだ情報でいち早く軍事行動を行う直轄の部隊の責任者に私が拝命された。」

「それはめでたいことで」

 興味がないとばかりの態度のユーリだが、スコットは構わず進める。

「ある程度の手駒は準備できた、後は信用できる部下だけだ。」

「いや、今のあんたなら選び放題だろ。こっちはただの少年兵あがりだ」

「ただ少年兵が、あの地獄を生き残れるものか。」

「………」

 ユーリが黙るのを見てスコットは「それに」続ける。

「諜報部に所属している以上誰も信じられん、あの魔窟の中で信じられるのはあの日見た君ぐらいだ」

 そういうと持っていたトランクをごそごそと物を取り出し始めた。

「もし承諾してくれるなら君を少尉に任命しよう」

 その条件はさすがに予想外だったのか驚きの顔でスコットを見ていた。

「士官学校にも通っていない俺がいきなり少尉?正気か?」

「君を迎えるにはふさわしい額だと私は思っている。」

 一切の迷いなど無い顔だった。それを見てユーリは天井を見上げため息をつく

「……わかった」

 小さいながらもそれは確かに肯定の言葉だった。それを聞きスコットは喜色を含ませた顔で頷く。

「頼りにしているぞ、 ユーリ・アカバ」

「その呼び名はやめてくれ」

 スコットとは真逆にユーリは苦虫をかみしめた顔をしていた。

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