第13話 女神様の奇跡



 アマンダ師匠の賢者の修行は、生優しいものでは無かった。


「マリィ!もっと集中して!」


「はいぃ!」


「魔力を体内に巡らせたら、次はそのイメージを維持したまま、体の外でも同じ事をするのよ!」


 アマンダお姉様は、師匠として私に修行をつける時は私の事をマリィと呼ぶ。


 上級魔法を扱うには、魔力が多いだけでは扱えないらしいので、更に魔法力を上げるため、魔力の操作方法の習得や、実戦による魔法力アップの為、Sランクの討伐依頼を何度もこなしてきた。


 お陰で私の冒険者ランクは、9歳にして既にSランクに達している。一緒に修行に参加しているセルフィーさんもSランク冒険者となっていた。


 魔法操作を覚える事によって、私の聖女の力にも影響が見られた。


 より細かい制御が可能になって、狭い範囲指定や、広域指定、解析まで可能になり、アマンダお姉様のかかっていた呪いなんかは今では、より少ない魔力で解除出来るかもしれない。


 更に私には、聖女の新しい能力が開花した。


 アマンダお姉様は、禁書を持つほどの大賢者様だったので、聖女の力にも詳しかった。


 聖女にはいくつか隠された能力があると言うのだ。

 その一つが、いつも私が使っている性女の力。

 更に聖女の力をある程度極めると、星女の力という、もう一つの力が目覚めるらしいのだ。


 星女……星を冠するその力は、まさに星の運命を司る女神の力だった。


 3人の星の運命の女神を召喚する力。


 それが、私が新たに手に入れた力だった。


 そんな時だった。冒険者ギルドからSランク冒険者に対して招集がかかったのは。



◇◇



 サントルデ辺境伯の領地は、ここセルクロッド伯爵領の西側にある。アンジェの住むターコイズ公爵領とは方角的に言うと反対側の位置になる。


 招集がかかった理由は、サントルデ辺境伯領にて魔物の氾濫が起きたから、その対処のためらしい。


 サントルデ辺境伯領は他国と接している。

 今回は他国で起きた魔物の反乱が、その国を襲いその勢力を強めた魔物が、この国に迫っているとのことだった。


 ゲームでは……どうだったか?


 マリィはまだ9歳でゲームにすら登場していない時期だ。


 とにかく、私達は召集に従い、サントルデ辺境伯領へと向かった。


 目的地はサントルデの中心から南に行った所にある町、フルセント村だ。


 急ぎ魔法で強化した馬車を走らせ、フルセント村に着いたけど、一歩間に合わなかった様だった。


 村は、ほぼ壊滅といった状況だった。


「お兄様!お兄様!!」


 ふと、人が集まっていた場所に、緑色の髪の可愛い女の子が一人の男の子を抱えて泣いている姿を発見した。


「どうしたの?」


 私は近くにいた、冒険者風の人物に尋ねてみた。


「……ファルシアスが、魔物の暴走に巻き込まれてしまったのだ」

「ファルシアス?」


「ファルシアスは、ワシの息子だ……」


「そう……それじゃあの子は……」


「ファルシアスの妹のライリーだ……」


 あの子のお兄さんだったのね……。私にはあの子を助ける力がある。今使わなくて、いつ使うと言うの?


「私はSランク冒険者です。回復魔法は得意です。見せてくれますか?」


「!……マリィ様?」

「人には運命と言うものがあると言ったはずよ?」


「アマンダお姉様……私には目の前で助けられる人を放っておく事は出来ない……です」


 とにかく今回は人目が多いので、普通の回復魔法だって言うしか無い。


 もし死んでいたって、死んでなかったって言い張る。これしか無い。


 私は、私と同じくらいの歳の緑色の髪をした少女ライリーに話しかけた。


「見せて?私は回復魔法が少し使えるの」


「!?助けて!お兄様を!お願い!」


 倒れていた少年の体を魔力操作を使って解析すると、心臓が停止してまだ時間が経っていない。

 これなら誤魔化せるかな?


 私は、回復魔法を使うフリをして聖女の力を解放した。


 使う力は、強制的に心臓を動かして、上級回復魔法で傷を癒す治癒の力。名付けてAED回復魔法。


 人工蘇生なんて、この世界には無いし、この方が蘇生魔法よりは効率が良い。


 少年の手が微かに動いて、目を覚ましたようだ。


「はッ!!あ?あれ?僕どうしたんだ?」


「お兄様!良かった!助かったのですね?」


をかけておいたわ、もう大丈夫よ?」


「ありがとうございます!あの!貴方のお名前を!教えて頂けませんか?」


 どうしようかな……。迷った私は、家名を隠すことにした。


「私はSランク冒険者のマリィよ?」


「マリィ様!ありがとうございました!」


 緑色の髪をした少女は、涙でくちゃくちゃになっていた顔を笑顔に変えて、涙をぬぐって感謝の言葉をくれた。


 良かったね?お兄ちゃんを大事にしてね?


◇◇



 村の状況は酷いものだった。

 

 ひとまず、壊滅した状況をなんとかしなくてはならない。


 魔物自体は討伐が終わっていたけど、人的被害はどうしようもない。


 泣いている子供達が沢山いた。


 きっと、魔物の襲撃で親が無くなって身寄りのない子供が沢山いるのだろう。


 どうしても助けたかった。子供達を……村の人たちを……。


 だから……私は奇跡を起こすことにした。


 私の正体を知られずに、人知れず助けるには、女神様に頼ろう。


 私は誰もいない陰に隠れてから、星女の力を使って生命を司る女神クロッティを召喚した。


「どうした?マリィ」


 女神クロッティは、銀髪碧眼で白い布を纏った身長は人で言うと180センチくらいのスタイルの良い女神様だった。


「お願い!クロッティ!村のみんなを助けて!」


「いいよー?それで?死んだのはどうする?」


「それも……お願い!」


「しっかたないなぁ!ちょっと力分けて貰うよ?」


「……うん」


◇◇


 ――その日、フルセント村に奇跡が起きた。


 神々しい光を纏った女神様が舞い降りたのだ。


 最初は……誰もそれが女神だとは思わなかった。


 その女神様には白い翼があって、空に浮かんでいた。


 フルセント村にいた全ての人が、その姿を目撃していた。


 その女神様から発せられた温かい光は、村全体を覆い尽くし、傷を負った者の傷は消え、死んだ者の傷も癒え、一人ひとりと生き返って行った。


 それは……まさに、神の奇跡だった。


 その光景を全ての村人が見ていたのだ。


 そして、もう誰も光を纏った女神様が、神様だと信じない者はいなかった。


 マリィが一人の少年を助けた事など些事のように、女神様の奇跡は衝撃的な奇跡だったのだ。


「ありがたや……ありがたや……女神様」

「おお女神よ!ありがとうございます!」

「女神様!お父を助けてくれてありがとう!」

「父ちゃんが帰って来た!生きてる!」

「おかあちゃーん!生き返った!生き返ったよぉ!」

「神は存在した!女神様!私は改心しましたぞ!」


 神の起こした奇跡は、瞬く間のうちに王国中に知れ渡る事となる。


 ……なんか凄い事になっちゃったけど、やったのは女神様で聖女じゃないのでいいよね? 聖女は関係ないからね?





読者様へ


ここまでお読みいただきありがとうございます。

これは、百合ハーレムを目指す女の子の物語です。


続きが気になると感じて下さいましたら、

☆☆☆♡にて評価コメント、応援よろしくお願いします。


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