第101話




 えっと……【謎】自体の答えは用意しました。ですが、この時間は【謎】を解くよりも状況の整理に与えられたようですので……少しまとめてみましょうか。


 まずはフリーライターさんが、とある事件を調査したところ拉致されて死んだことにされてしまうんでしたね。そして彼は別人として、射殺事件のあった集合住宅に移り住んだみたいです。そして生活保護を受けて暮らしていたと……しかし、フリーライターの魂が蘇ったとでも言うんでしょうね。彼は住人の調査を開始したようです。そして今のところ住人達は……政治家秘書、宗教団体幹部、新聞社の元役員、反社会勢力団体代表の四名が確認されていますね。この全員はフリーライターさんと同じで、一度死んだ事にされた身なんでしょうか。そして【謎】が提示されました。もう一人はどのような人物か、という出題です。


 それでですね。私の考えとしては、最後の一室にはこの事件に必要な存在……その職業を代表するような人が入っていたんだと思います。そして新聞記事を見直していたんですね。そしたら……気づきました。四名分の新聞記事を見ると国立病院、公立病院という記述が各人に含まれていたんです。


 まとめましょうか。例の集合住宅の住人達は一度死んだ身なんです。ですが、実際には生きていますよね……別人名義ではありますけど。そうすると記事にあった死亡の確認も偽装だったんじゃないかと思いつきました。つまり……死んではいない人物の、偽の死亡診断書を出せる存在。それこそが最後の一人だったと考えたんです。


 アタシは自身の解答を野本さんに伝えました。どうやらコムさんも先に伝えてあったようですね。


 すると……例の文章の続きが表示されるのでした。




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・一階西の田原真有弥


 この部屋には施錠忘れの隙をついて忍び込んだ。室内は小綺麗に整理されており、調査には慎重に慎重を重ねた記憶がある。そして住人票やマイナンバーカードも発見したのだが、住人票は全てが私の物と同様で、マイナンバーカードの下四桁は相変わらずの 0000 であった。それから、しばらく調べると新聞記事の発見にも至った。


・男性が川に流され死亡

 7月18日午後、川遊び中に男性が流されたと通報があり下流が捜索された。男性は数時間後、下流で意識不明の状態で発見されると近くの国立病院に搬送されるも死亡が確認された。男性の身元は医師会元役員とみられる。当日は台風の接近により上流で雨が降っていた事もあり、急に水位が上昇した可能性が浮上している。


 この部屋の田原真有弥は、元は医師会元役員だったようだ。そう言われれば室内に医学書があった気もする。部屋が小綺麗だったのも健康に気を配っていたからなのであろう。しかし普段から引きこもっていては、その意味があるのか問いたくもなる。




 こうして私は集合住宅住人達の調査を終えた。そして調査結果のまとめに入ろう。




 住人の元の素性は社会的権力が大きい役職者が目立って見える。彼らがどうして死んだことにされたのか不明ではあるが、例の組織の手が彼らの職種にも及んでいるのは間違いないだろう。政治・情報・宗教・医療・そして反社会勢力。こういった存在を繋ぐのは、いったい何であろうか。考えるまでもない。金であろう。フリーライターの経験からしても、権力者の不正は金銭に関わるものがほとんどである。果たして、権力者だから金があるのだろうか。金があるから権力者になるのだろうかはわからない。言っておくが、私は別に権力者を批判したいわけではない。彼らには彼らなりの理論がある。彼らは自身の立場を守る為、どうしても金が必要なのだ。つまり金に群がる者達の支持、それこそが権力者を作るのかもしれない。


 では、どういった金の繋がりが彼らを結びつけているのだろうか。ここで特異な存在として宗教団体がある。政治と宗教、そして金の関係は考えるまでもない。政治家にとって宗教団体は巨大な集票装置であり集金装置となるのだ。布施を無税で手元に納めることが出来る宗教団体は、政治家に多額の献金を行い、そして選挙活動には信者を総動員する。それをバックに当選を繰り返した政治家達は見返りとして、宗教団体に特別な便宜を図るのである。


 そうだ。この繋がりには巨額の資金が動いている。すると全てが出処でどころが明確な、クリーンな資金だとは考えにくい。するとマネーロンダリングの必要が出てくる。例えば、反社会勢力などはその必要性が高く思える。そこで活用されるのも宗教団体なのではないだろうか。何かの手段で手に入れた違法な資金をお布施として宗教団体に寄付する。しかし、その金銭の移動には税金がかからない。そして宗教団体内でマネーロンダリングされていると考えたならどうであろう。宗教団体の一部には極めて現金主義な組織が存在している。聞くところによれば、本部には常に数十の現金が用意されているらしい。そこに寄付と称した資金が紛れ込んだのなら、判別が難しくなる事も考えられるだろう。


 では、反社会勢力はどのようにしてマネーロンダリングの必要性がある資金を獲得しているのだろうか。もちろんシノギと呼ばれる行為や薬物の販売などもその手段であろうが、今の私の状況を考えると、一つの考えが浮かんでしまう。それは給付金や生活保護の不正申請だ。これは何の確証もないのだが、きっと田原真有弥は無数に存在しているのではないだろうか。例えば、この住宅には六人の田原真有弥が存在していて、各自に生活保護の申請がされている。しかし実際に申請されている数は遥かに多いのではなかろうか。他にも昨今、政府が好む施策にポイントの付与等がある。これも単純に頭数が多ければ多いほど儲かる仕組みになる。例を挙げれば、キャッシュレス決済でのポイントの還元があった。これはキャッシュレス決済の都度、政府からポイントが還元されるという施策であったのだが、転売をすればするほどに儲かる仕組みになってしまっていた。これを田原真有弥という存在同士で行えば良い。私の居住するマンションで形式だけでも転売が成立したのなら、五回分の転売が成立する事になる。二周させれば十回だ。


 と、ここまで考えてはみたが、これは暴論なのではとも思える。流石に気づかれてしまうだろう。だが、ここで逆から考えてみるのだ。


 気づかれても構わない。


 そんな仕組みが構成されていたのなら……どうなるのであろう。



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