第95話
引きこもりを釣り出せるご飯を考えていました。そして一つの解に辿り着いたんです。引きこもり釣り出し用のご飯は【カツ丼】でしょう。ヒントは刑事さんの存在です。そして【カツ丼】は住人の心を開くと同時に、そのドアも開いてくれるんです。どうです、
なんて冗談ですよ。流石にそんな推理だけに時間を使ったわけではありません。
うーん。やはり……この考えには無理があるんじゃないでしょうか。
それじゃ別の案も考慮してみますか。例えばですね……犯人はマスターキーのような物を持っていたんです。それで各部屋に侵入する事ができた。そして各部屋住人を銃で脅しと、外へ連れ出し射殺する。一応、筋は通っているのかもしれませんが……マスターキーのような特殊設定を匂わせる部分はありませんでしたよね。それに、こちらも銃声の問題があります。何度も何度も爆竹のような音が聞こえていたら、流石に最後の方の人は不審に感じるのではないかと思います。
むむむ……やっぱりダメですね。なかなかしっくりとした推理が出てきません。そうですね……こういう時はコムさんの様子を見て、気分転換するとしましょうか。
━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━
「そろそろ、お答えを聞かせて頂けますか?」
刑事さんはまるで容疑者に犯行を自白させるかのように、優しく
「宅配便かマスターキーか……カツ丼だと思うんですよね」
カツ丼の解答の部分を声に出した時の、コムさんと野本さんの表情は永遠に忘れることができないでしょう。すごく困惑した顔をしていました。ええ、
「でも、銃声の問題は解決できなかったので……やっぱ違いますよね」
止まること無く発言を続けることで、言い訳と恥ずかしさの低減を図る
「ああ、なるほど。そういう事ね。だったら僕も同じく銃声の問題には困ってたんだけど、解決できないのなら逆にさ……発砲音を問題にしない方がいいんじゃないかなって思うんだよね」
「どういう事です?」
「いや、発砲音がしたとしても……それが目立たなければいいんじゃないかなって思ったんだよ」
ん? どういう事でしょう。そしてコムさんは野本さんに向き直ると質問を投げかけます。
「それで一つ伺いたいんですが……その集合住宅には火災報知器は付いていたんでしょうか?」
ん……どういうことでしょうね?
「はい……一階から二階への階段途中の踊り場に備え付けてありました」
「でしたら……消音装置も付いていたことですし、それを押せば銃声は聞こえなくなるのではないでしょうか。しかも、ベルの音で住人も誘い出せますよね。つまり、これが答えなのではありませんか?」
コムさんは火災報知器の存在を確認すると、解答を野本さんに突きつけました。そして……野本さんは首を縦に振ります。
「そういえば
昔の……生前の記憶を口にする
「そうですね。これは集団心理とでも言うのでしょう。非常ベルは本来の用途よりも……誤作動の方が圧倒的に多いのです。ですから、住人が焦って出てくるような事はほとんどありません。ですが、音が延々と鳴り続けると……その不快な音に耐えかねて外の様子を見ようとしてしまうのですね。これが、住人達が外へ誘き出される罠となったのです。各自、バラバラのタイミングで扉を開けると外へ出てきました。犯人は各自をそこで射殺すると、火災報知器を止め……最後に自室前で、自分のこめかみを撃ち抜いて自殺したのでしょう」
なるほど……って、火災報知器って簡単に止められるんでしたっけ。
「えっと……火災報知器って簡単に止められるんですか?」
疑問に思ったのなら聞くのが一番。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥です。
「物にもよると思うのですが、よく壁に付けられている赤く丸い報知器。あれは上部に開く部分がありまして、そこを操作すれば止められます。ただ、規模の大きいマンションになってくると、各居室の火災報知器や共用スペースの報知器等を集中管理していますので……管理人室などの受信パネルの操作が必要になるのです。そして、今回の事件は集合住宅といっても小規模ですからね。報知器は前者のタイプでした」
へー。火災報知器って色々あるんですね。勉強になります。とは言っても
━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━
「さて、犯行の【謎】は解決したようなので……事件の話に戻りましょう」
野本さんは
「犯行手段がわかったからといって刑事の仕事は終わりません。被害者や犯人の身元、動機の解明等……やらなければならない事は山ほどあります。まずは、この集合住宅の住人の住人票を取り寄せました。そして手元に届けられたのは六枚の住人票。私はそれを確認しました。そして……大変な事に気づいてしまったのです」
大変な事? いったい何なんでしょう。すごく気になります。
「手元に届いた六人分の住人票、そこに記されていた名前は……全て同じだったのです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます