第94話
「私は3が好きでしたな。転職システムが斬新に思えたものです。生前の世界も、あれほど簡単に転職できていたら良かったんですが……」
苦笑している野本さん。時にゲームシステムは現実を皮肉ってしまうようです。だからこそ、ゲームに熱中するのかもしれませんね。
「僕は4が好きでした。章が分かれていて、それぞれの主人公に愛着が湧くんですよ。あれも斬新だったなぁ」
ほうほう、なるほど。ゲームの世界も奥が深いんですね。楽しんでもらえるように色々な工夫が為されているようです。
「親子の感動的ストーリーだった5も良かったですな」
「そうですね。5と言えば隠しボスがいたんですけど、それを十ターン以内に倒すと仲間になるって噂があって……沢山試したんですが、結局出来なかったんですよ。後々でそんな事実は存在しないと聞かされた時はショックでしたね」
「ありましたな。嘘テクというヤツですね……そんな存在しない裏技を試すのに私も夢中になったものです」
ふーん。どうでもいいですね。あ、いけないいけない……作り笑いが無表情になってきちゃってますね。気をつけなきゃ。
そして
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「ああ、これは申し訳ありません。すっかり話が逸れてしまいました」
そして、今だにゲーム雑談が名残惜しそうなコムさん。
「あ……うん。ご、ごめんなさい」
最近になって、
「それでは本題に入りましょう。幸いな事に……私には生前の経験があります。ですので、皆さんに楽しんでいただけるような【謎】を含む物語をご披露させて頂きましょうか」
おお、楽しみですね。だって……やっぱり刑事さんだけあって、沢山の【謎】を知っているんでしょう。これは期待が高まるのを感じます。ついでに
「とは言いますが、先程も言った通りでしてね。刑事なんてものは推理よりも証拠集めの為に足を働かせてばかりなのです。ですが……稀に不可解な事件に遭遇する事もありましてね、そう……あれは 2010 年代の事でした」
おぉ、なんだかそれっぽい雰囲気が醸し出されていますね。
「とある日の事です。その時期は目立った刑事事件もなく、過去の事件の整理ばかり行っておりました。しかし、唐突に気配が慌ただしくなったのです。職業柄……何か起こった事は察知できました。その何かとは……管内で複数人が射殺される事件が発生したとの事です。私は真っ先に現場へと向かいました。その舞台となったのは……人里離れた場所に建てられた集合住宅でした」
射殺事件? これまた……物騒な事件ですね。
「その集合住宅はアパートと言うには立派なのですが、マンションと言うには安っぽい……そんな
うわぁ。これは凄惨な現場ですね。ちょっと背筋がひんやりとしてきました。冷やし中華の事なんて考えるべきじゃありませんでしたね。でも……ちょっと疑問が湧いてきました。話を遮るようでなんですが、聞いてみましょうか。
「えっと、犯人は自分以外の集合住宅の住人を射殺して……それから自殺したって事でいいんです?」
「そうなりますな。それでは、唐突ではありますが……ここで一つの【謎】を提示してみようと思うのですが、
おぉ、来ましたね。【謎】ですよ、【謎】。やはり殺人現場には【謎】がつきものですよね。不謹慎ではありますが、
「実はですね、この集合住宅の住人の生活を調べた結果なんですが……被害者や自殺した住人の全てが生活保護を受給していたようです。それもあってか、彼らの生活は極度に自室へと引きこもっていた事が判明しました。外出した姿もほとんど目撃されていません。では……どうして死体は全てドアの外で発見されたのでしょう。おそらくですが、被害者達はドアをノックしたぐらいでは出て来ないでしょう。にも関わらず、彼らは自室の外で射殺されていたのです。では犯人は……いったいどのようにして、この犯行を可能にしたのでしょう。まずは、これを【謎】としてお考えいただこうかと思います」
む……。犯人が誰かという【謎】はよくあると思うんですが、今回は犯行方法の【謎】ですか。しかも、かなり手強そうな気がしますね。例えば……引きこもっていた人達を外に誘い出すというのなら……そうですね、ご飯で釣るとかはどうでしょう。
「あの、もう少し詳しく状況を教えていただきたいのですが……よろしいですか?」
「どうぞ。何でもお聞きください」
コムさんが野本さんにさらなる情報提供を求めていますね。
「まず……犯人、被害者の年齢や性別をお聞きしてもよろしいですか?」
「全員が四十から六十までの男性ですな」
「射殺と仰っしゃられていましたが、凶器の銃はどのような物だったんです?」
「オートマチック拳銃です。ご丁寧にサプレッサーが付いていました」
「サプレッサーですか……たしか消音装置ですよね」
「そうですな。しかしサプレッサーが付いていても、爆竹程度の音はしてしまいます。ゲームのように無音とはいきません」
「なるほど。では、最後の質問ですが……六戸分の集合住宅の住人が六人とは限らないと思うんです。実は七人目がいたという事はありませんか?」
「それに関しては……私にも確実な事はわかりません。なにせ住人達は極度に引きこもっていたのですから、存在を隠した七人目がいた事を否定するのは難しいでしょう。ですから、ひょっとして七人目どころか百人目だっているのかもしれません」
言い終わると、野本さんの笑い声が聞こえてきました。百人目がいるというのはジョークのようですね。
「ですが……その点。今回の、この【謎】に関わることがない事だけはお約束します」
野本さんはそう言うと、質問タイムは締めくくられました。さあ、ここからは
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