第78話
二階は細長い廊下のような造りをしていました。案の定ですが、沢山の扉が付けられています。更に廊下の長い壁面には、棒状の木製手摺りが付けられていました。これは親切心から付いているのかなとも思ったのですが……よく見ると、手摺りの奥には屋内消火栓格納箱が設置されていたんです。つまりですね……この消火栓格納箱は開きません。いや、むしろ……これを開かせない為だけに手摺りを付けたんだと思います。
「はぁ……」
思わずため息が漏れてしまいました。仕方ないですよね。
「それは【無用消火栓】やで」
平安名さんは
さて、それではニ階の探索を開始しましょうか。今……
左側に進むと……すぐに手摺りが途切れ、扉があります。
今度の扉はどうでしょうか。と……その前に、ドアに看板が付いていますね。なんて書いてあるんでしょう、見てみると……
【お手洗い 】と書かれていました。これ……本当にお手洗いなんでしょうかね? 多分ですが……開けると壁な気がします。なぜならですね……例えば、トイレに行きたくて急いでいる人がいたとして……急いで扉を開けたら壁なんですよ。想像してみると……他人事ですが、面白いですよね。
ドシーン
扉の先に向かおうとする
「おゆきさん……ごめんね」
コムさんは近づいてくると、手を差し伸べてくれました。
「不意打ちは酷いですってば」
ドアの向こうへ行ったと思ったら、勢いよく戻ってきた事への抗議を口にしました。
「ごめんごめん。だってさ……」
コムさんはそう言うと、扉の看板を指さしています。その部分は【お手洗い 】の、ちょうど空欄の所。よく見てみると……あ、女性用ですね。空欄には、うっすらと……ユニバーサルデザインとでも言うのでしょう、女性を形どったマークが描かれていました。そっかそっか、確かに、あのマークは赤で描かれるのがほとんどでしょう。そして、それが色褪せ消えていた。これこそが……
「じゃあ……ここは
こうして、女性用のお手洗いには
入った先は個室が並ぶ……いかにもな女性用トイレですね。個室が3つと手洗いがあります。小規模スーパーのトイレといったくらいのサイズでしょうか。さて、それではトイレの探索に入ろうと思うんですけど、壁には……例のごとく看板が貼られていました。そこには……
【痴漢 実施中】
と、書かれています。
「はぁ……」
思わずため息が漏れてしまいました。これにはドン引きです。あ、ちなみに空欄の部分には……うっすらと【警戒】の文字が残っていました。そうですよね。そこを強調したくて赤で塗ったから……いずれは消えてしまうんでしょう。そして、残された文章からはモラルも一緒に消えていました。
そんなこんなありながらも、着実にトイレを調べていく
【おす 】
はい。【い】が削れて消えていました。だから何だというのでしょう。押せばいいんでしょうか?
そして
「どう? 何かあった?」
コムさんからは探索の成果を問われますが……
「何もないがあったくらいですかね」
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その後も廊下の探索を続けるのですが、ほとんどの扉は開けた先が壁でした。たまに通路があっても、すぐに行き止まりなのです。そんな時に限って、看板が付けられているのですが……そこには【通 路】と書かれていました。わかりますか? これ、通学路の学の字が消えているんです。
他にも……廊下の壁には蛇口が付けられていました。平安名さんが言うには、それは【でべそ】と言う概念だそうで……壁から無用の長物が飛び出るように取り付けられいる事を言うみたいです。そして、無用の長物である事を証明するかのように……蛇口から水は出ませんでした。
そして、遂に突き当りへと辿り着きました。突き当りの壁にも、やはりというか……扉が付けられていますね。
「これ……入る前に説明した【高所】の扉やで。覚えてるか?」
あ……そういえば館に入る前に聞いていましたね。あの外壁の高い位置に取り付けられていた扉……ここに繋がっていたんですか。あぁ……それにしても入り込んでくる外気が美味しく感じます。それもこれもは……あのエスカレーターのせいでしょうね。
しかしですね、これ……ここから飛び降りれば脱出成功なんではないでしょうか。ひょっとしたら、もはや【謎】は解決したのかもしれません。
「あれはやな……【アタゴ】いうんやで。地面から飛び出している謎の突起物を、そう言うんや」
下の方をよく見ますと……頭を赤で塗られた石柱や、錆びてしまった古い手押しポンプ。意味不明に短いガードレールや、単なる鉄の棒が……数多く地面に生えていました。おそらく、ここからジャンプしたら……ただでは済まないでしょう。何らかの突起物に刺さってしまうかもしれません。
「ここから飛び降りるのは……最終手段だろうね」
コムさんも同じように、ここからの脱出を考慮していたみたいですね。そして……結論も同様でした。そりゃ、嫌ですよね。脱出できた代償が、モズの
ひとまず、この【高所】扉は閉めると……
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こちら側の行き止まりにも、やはりというか……扉がありました。そして、その隣には看板があってですね……
【ET 専用】と、そう書かれています。はい……これは、元々は【ETC専用】でしょうね。Cの部分が周囲と同色に塗り潰されていました。
そんな事はさておき、
「はぁ……」
「……これ……面白いよね。だって……ET専用だよ……」
あぁ、そっかそっか……ETですもんね。そりゃ、ETならひとっ飛びでしょう。でも……残念な事に
「これで、もう館は調べ終わったはずやと思うで。ほんで、残り時間は1時間ってところや。ほな……この館からの【脱出方法】でも考えてみたってーな。そんで、もし見つけられへんかったら……3人で一緒に【高所】扉から飛び出そやないか」
と、【脱出方法】の【謎】が制限時間と共に提示されたのです。
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