第73話
「ワシな、現世では
平安名さんは現世での自身について語り始めました。まあ、ど派手な原色スーツを着ているくらいですし……好事家じゃなかったとしても、有名だったんじゃないでしょうか。
「ほんでな、特に……妙ちくりんな建築物とかが大好物やってん」
ほうほう、建築物ですか。たまにですが……デザイナーが張り切りすぎた結果でしょう、周囲との調和が崩壊しているお家があったりしますよね。平安名さんの言う建築物も、そういった類の物なんでしょうか?
「それって、いわゆるデザイナーハウスみたいなのですか?」
「ちゃうねん。何ちゅうたらええんやろか……せや、ちょっと、すいまへんな」
平安名さんは周囲を見渡すと……何かをしたみたいです。
「そしたら、おゆきちゃん。申し訳あらへんけど……入り口の扉、開けたってくれるか?」
ん? 入口の扉ですか? どうしてでしょう、換気したいんですかね。
「あ……あれ?」
ドアを開けた先には、外の光景が広がっては……いませんでした。ドアを開けた先は【壁】だったのです。室内の壁と同色の壁が、ドアを開けた先にも続いていました。
「これ……確認せずに外に出ようとしたら、頭をゴチーンとしちゃいますね」
「まあ、こんな感じの物が好きなんやな。ほら……扉があるのに、それは何処にも繋がっとらんとか……どや、おもろいやろ?」
面白いかと言われれば……どうなんでしょう。言うならば……痛快な面白さなんでしょうね。だって、壁に当たったら痛いですもん。
「僕はこういうの好きですよ」
コムさんが平安名さんの発言に応えています。きっと、
「
コムさんの発言に乗っかるように
「まあ、そういう事もあってやな。ワイは山奥にそういった趣向の館を作ったんや」
出た。山奥の館。定番中の定番。何故に、お金持ちは館を建ててしまうのでしょうか。もはや、殺人事件を呼び込みたいが為に造っているのではないかとも思ってしまいます。でも……絶海の孤島に造るよりはマシでしょうか。だって、それだと施工業者が大変ですからね。
「それでやの……せっかくやから、小紫はんとおゆきちゃんにもワイの館を体験してもらおうと思うんやけど……ええか?」
お、いいですねぇ。体験型アトラクションみたいで楽しそうです。ミステリーツアーの時のような感じになるんでしょうか。
「ええですよ!」
「……ええで」
コムさんは少し恥ずかしそうにした後……エセ関西弁で同意を口にするのでした。
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今、
周囲の景色から近場へと視線を向けると、ここは八台程が駐車できそうなアスファルト路面……つまりは駐車場ですね。駐車スペースが白線に区切られています。そして、そこには一台だけ車両が置かれていましたが……他は空車でした。置かれていた車は国産の、街中でもよく見かける乗用車ですね。
「ああ、その車はワイのや」
なるほど、そちらの車は平安名さんの物でしたか。失礼ですが……その衣服に比べると地味というか、あまり大衆車に乗ってそうなイメージではないので意外です。
「ちなみに……ワイは免許なんて持ってへんけどな」
え? 免許がないのに車は持ってるの? どういう事でしょうか……
「買うだけ買って……納車の時、ディーラーにそこまで運んどいて貰ったんや」
ん? いや……確かに、その行動が現実的に成立するのはわかりますよ。でも……その行動の意味はわかりません。
【交通事故死 を目指す日】
そんな……物騒な交通標語が記されていました。
「いやいや、そこ目指すとこじゃないですから……」
思わず、ツッコミが漏れてしまいました。いや、でも……誰だってツッコむんじゃないでしょうか。この看板は、それほどのインパクトを与えてきます。
「お……気付いたようやな。その標語は、お国が設けた交通キャンペーンやで」
「なんでやねん!」
またしても、ツッコみが口から飛び出してしまいました。だって……流石に国がそれを推進するのは間違っていますからね。
「ほな……ちょっと近づいて、穴が開くほど見てみーや」
「これ……【交通事故死ゼロを目指す日】の【ゼロ】が消えちゃってるんですね」
「せやせや。ゼロを強調したかったばかりに、そこを赤字にしといたのが劣化したんやろな。やっぱ赤字はアカンのぉ、ワイは黒字の方がええわ。読みやすいし、何より……お財布的にも黒字の方がええやろ」
ちくしょう……なんだか上手いこと言われてしまいました。悔しさを紛らわすためにも、
【当駐車場は 駐車禁止です】【制限高 m】
駐車場という設定はどこに行ってしまったんでしょうね。そして、もう一つは……肝心な数字が消えています。
【飛び出し ・ お願いします】
そこは……お願いしちゃダメなヤツですね。
【ただいま です】
はい、おかえりなさい。
看板を見ていたら……隣からは
そうですね……しばらくの間、隣の人は使い物になりません。
ちょっとした時間潰しに……この看板が元々は、何を記していたのかでも考えてみるとしましょう。
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