仮題:同担拒否殺人事件
第66話
みなさんは【腐女子】を知っていますか? それはあまり大っぴらには出来ない趣味。男性同士のなんやかんやのどうこうを妄想する方々です。ちなみに女子だけではなく、稀に男性にもその手の方がおられまして【腐兄】と呼ばれたりしています。さて、そんな【腐女子】の皆さんですが……普段はひっそりと潜んでおられます。ですが、何らかのイベント的な出来事に遭遇すると、異常な興奮を示す事があったりするんです。そういった興奮を自分の内側のみで地産地消してくれれば良いのですが、たまに行き過ぎた方が出てしまうのはご愛嬌とでも言うのでしょうか。まあ、あまりよろしくない事なのですけど……興奮が良くない方向に行ってしまう人っていますよね。
本日伺うのは、そんな物語。それは私達の【退屈】を埋める、どんな【恥ずかしい】物語なのでしょうか。
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「退屈で死にそう……」
飾り気のない質素な事務所を思わせる狭い室内。そこに二つあるデスクの片側、飾り気のない質素な男性は頭をデスクに預けたまま……そう口にした。その音はデスクの天板に反射して狭い室内へと響き渡ると、すぐに消えていく。そして、室内には再び静寂が訪れた。
二つあるデスクのもう片側。床に足が届かないほど小柄な女性は、先程から身動き一つ見せない。相槌すら打つ気がない。まるで腐乱死体のようであった。
男性は
女性は
死体のようにと評したが、そもそも彼らは……ある意味では死体と同義の存在である。何故ならば、彼らは死後の世界の住人なのだ。現世で死を体験した後、こちらの世界に引っ越してきたようなものである。そして、こちらの世界での生活にも慣れ……こちらの世界での最大の問題である【退屈】と戦っている最中なのであった。そのあまりの【退屈】さに……彼女は
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「そういえば……僕、思うんだけどさ」
飾り気のない質素な小紫は顔を上げると、そう語りだした。
「何をです?」
おゆきさんは腐れた感じで反応を返す。ただし、顔は上げていない。よって、その言葉はデスクに反射してから小紫へと届くのだ。こういう態度こそ、腐れている。
「腐女子っているじゃない」
「い……いますね、それが……どうかしましたか?」
平泳ぎの息継ぎのようにおゆきさんは顔を上げると、そう相槌を打つ。その目は泳いでいた。
「腐女子がゾンビになったら……腐腐女子になるのかな」
「それ、多分……デュフフって笑うんでしょうね」
何故だか安心したように、おゆきさんは顔をデスクへと戻しながら言った。目は水泳を終えていた。その眼精疲労を取るためであろうか……彼女はデスクに頭を預けると眼を閉じたのである。
「え……なんで?」
小紫はおゆきさんの相槌に納得がいかないのか、その理由を尋ねるのだが……返答は無かった。
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腐った死体が白骨化する程には時間が経過したであろうか……ようやく、安っぽいインターホンの音が室内へと響く。すると、彼ら二人は起き上がり……その音の方向へと向かうのだ。その音は彼らにとって【希望】の音。永遠にも思われる【退屈】に抗う最良の術。それをもたらしてくれる方を丁寧に迎えるべく、彼らは扉の前へと集うと……その扉を開くのであった。
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