第63話



 アタシは瀬戸さんに担がれるようにして運ばれると、ソファーにちょこんと据えられました。コムさんはデルピュネーさんに肩で担がれています。そして……ソファーに放り出されました。ボフッとソファーに埋まるコムさん。絵面が面白いですね。


 さて、いつもとは逆……先にアタシ達がソファーに座らさせられている状況です。そして目前のデルピュネーさんと瀬戸さんはアタシ達を見下ろしているんです。お二方共、不気味に口角を上げていて……まるで何かを企んでいる感じですね。何か……嫌な予感がします。


「こんばんじゃ~。呼ばれて飛び出てやってきました、アタイの名前は Delphyne 蛇理亞。今日もよろしくなのじゃ~」


 呼んでません。はい、よろしくお願いします。


「お久しぶりです。瀬戸ですー」


 はい、お久しぶりです……って、そこまでお久しぶりではないですよね。瀬戸さんの物語を伺ったのは最近の事でしたし。


「お久しぶりです」


 コムさんは挨拶に即応できるくらいには、現況に適応しています。まあ、知らない人ではないですから警戒する必要はありませんけど……いったい何の用むきなんでしょう。


「今日はじゃな~、アタイと弥生で盛り上がった話題のお裾分けに参ったのじゃ~」


「布教活動と言った方が適切ですけどね」


 デルピュネーさんが口を開くと、瀬戸さんがそれに続きました。布教活動と言いましても……そもそもここは死後の世界ですから、世俗宗教が伝播しやすい世界ではありませんよ。考え直してくれませんか?


「それで……何を布教しに来られたのですか?」


 コムさんがツッコミを入れてくれました。冷静なツッコミです。頼りになりますね。


「はい。それはもう……私の趣味の話ですよ」


 瀬戸さんが答えました。彼女の趣味ということは……間違いない。【オカルト】でしょうね。


「その趣味の話はアタイにも繋がりがあってじゃの……是非とも聞いてもらいたくて披露しにきたのじゃ~。心して聞くとよいのじゃ~」


 デルピュネーさんがそう言うと……見慣れた室内が暗転しました。どうやら場を整えているようですね。




 ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━




 気づけば室内は学校の教室のようになっていました。アタシとコムさんは生徒用の椅子に着席させられています。ご丁寧に生徒用机まで用意されていますね。良かった。話が面白くなかったら、これに頭を落として寝ることが出来ます。


「はーい、注目してー」


「傾注するのじゃ~」


 先生のような喋り口を模倣した瀬戸さんとデルピュネーさんは教壇に並び立っています。デルピュネーさんは指し棒まで持っていますね。突つかれたくはないですね……しょうがないです。注目するとしましょう。


「今日はですね、歴史上の事件を解決しようと思いまーす」


「解決するのじゃ~」


 わー、パチパチパチパチ。とりあえず様子見として、流れに身を任せたまま……アタシは二人の発言を右から左へと聞き流します。


「しかもですね……事件の解決の鍵は【陰謀論】でーす」


「鍵は【陰謀論】なのじゃ~」


「え……【陰謀論】ですか!?」


 あれ? 何故だか三人目の声が聞こえてきましたね。嫌な予感を感じながら……アタシは恐る恐る三人目の声の主を見てみました。すると、そこには……キラキラと眼を輝かせるコムさんがいるではありませんか。忘れていました……コムさんがその手の話の愛好者であったことを。こうして……この教室内には3対1の派閥が形成されてしまいました。


 つまり、アタシの苦難は……まだまだ続くのです。


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