第41話



「配信が録画だったということは……ないですよね?」


 死亡推定時刻と配信時間の謎。アタシは、とりあえずの思いつきを発言してみました。


「配信に地震の発生が映っているんだから……録画というのは考えにくいんじゃないかな」


「録画でリスナーさん達と【プロレス】するのは至難の業なのじゃ」


 アタシの発想は両名にフルボッコにされました。発想は悪くなかったと思うんですが……ならば死亡推定時刻の方がズレていたんでしょうか。例えば……死亡推定時刻を誤らせるのには体温や死斑の現れ、胃の内容物の消化具合などがあるそうです。


 ちょっと考えてみましょう。まずは体温からです。そうですね、例えば……放置されていたという近所の路地裏が、実は【近所の路地裏】という名のアイススケート場だったとかサウナだったとかはどうでしょう。しかも24時間営業……これは真相に近いんではないでしょうか。


 なんていうのは冗談です。体温で死亡推定時刻を誤魔化すのは難しそうですね。別のにしましょう。


 次は死斑と胃の内容物ですか……お! 思いつきましたよ。えっとですね、もう全身を殴打しまくるんです。全身アザまみれになるくらいに。そしたら、死斑も目立たないんじゃないんでしょうか。更にはですね、殴打の際にボディーブローを……これでもかと打ち込みまくります。そしたら嘔吐をするはずなんですよ。これなら胃の内容物もスッカラカン。どうでしょう……これならいけそうじゃないですか? かかってこいよ、鑑識班!


 そして……アタシは思い出すのです。前頭部にだけ殴打された痕跡が発見されていた事を……。




 ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━




 蛇の尾のように長い時間が流れました。アタシは、これといった妙案も出てこないまま【謎】に頭を悩ませています。


「コムさんはわかったんですか?」


 打つ手なしのアタシは、気分転換とばかりにコムさんの進捗を尋ねました。


「うん……ある程度は思いついてるよ。おゆきさんは?」


 どうしたものでしょうね。アタシの中では【死斑・ボディーブロー説】以上の推理が出てきません。こうなったらヤケッパチで行ってみますか。


アタシの推理では……ボディーブローがダメなら、配信中に殺したとしか考えられないんですよね」


 とりあえずの思いつきを口に出してみました。

 

「ボディーブロー? えっと……ボディーブローが何なのかはわからないけど……多分、正解なんじゃないかな」


 え? どゆこと? テストの四択問題で適当に書いたのが正解していた感覚。それは嬉しいはずなのに……これは悔しいです。意味が理解できていないまま正解を告げられるのは、本質から大きく逸脱したものなんでしょう。学校教育も、こういった所から改善していけばいいと思いますよ。


「お二方……答えは用意できたようじゃな~」


 デルピュネーさんの発言に、アタシは……さも当然のように知ってましたよといった表情を浮かべます。多分、それは引きつっていたでしょうね。


 そしてデルピュネーさんは答え合わせを始めるのでした。


「では……正解の発表なのじゃ~。心して括目せよなのじゃ~」


 そう言うと、周囲には配信用らしき部屋が具現化され……それまでの景色と置き換えられました。これは、きっとデルピュネーさんの配信用の部屋だったんでしょうね。




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【PM22:45 配信前準備】


「twitterで配信の告知も完了。配信機材も大丈夫。雑談用の会話デッキは大丈夫かな……ま、何とかなるでしょ」


 デルピュネーさんはご自身の配信部屋なのでしょう。そこを忙しく右往左往しつつ、配信の準備を整えているようでした。


「サムネイルは……後で作ればいいか。あ、そうだそうだ。ASMRをするんだからマイクを用意しなきゃ」


 彼女はそう言うと、部屋の片隅……あまり整頓されていない区画からマイクを取り出しました。それは余りにも小さいピンマイクです。あれ? ASMRに使うマイクって、例の晒し首みたいなのじゃありませんでしたっけ?


「今日はゲームじゃないからキャプチャーはいらないし、後は……」


 彼女はピンマイクをパソコンデスクに置くと、整頓されている方の区画にあるベッドへと向かいました。そのベッドをよく見ると……掛け布団の下に人が入っているような膨らみが見えます。


「ごめんね」


 彼女はそう言うと……掛け布団を捲りました。そこには可愛らしい少年が眠っています。以前見せられた、彼ピさんの Vtuber 姿ですね。


 彼女は彼ピを軽々と抱き上げます。いくら小柄な彼ピとは言っても……それほどまでに軽々と男性を抱き上げられるものでしょうか?


 えっと……前言撤回しますね。どうも彼ピは眠っているのではありません。気絶しているように見えます。彼女は彼ピを配信デスク付近まで運ぶと……その床に仰向けに寝かせました。それでも彼ピは、ピクリとも動きません。よく見れば……彼ピの額の部分は赤く腫れていました。これが前頭部の殴打された痕跡でしょう。そして、気絶の原因だったとも思われます。


「そうだそうだ。そろそろ待機用BGMを流しとかなきゃ」




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