第39話



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【PM23:00 配信開始】


「こんばんじゃ~。呼ばれて飛び出てやってきました、アタイの名前は Delphyne 蛇理亞。今日もよろしくなのじゃ~」


「は~い。みんな、いらっじゃ~い……あ、スーパーチャットありがとなのじゃ~」


「みんな、今日のお仕事はどうじゃった? お疲れ様なのじゃ~。今日は後半ではASMRを行うから、ゆっくり癒やされていくのじゃぞ~」


「最近、少し暖かくなってきたのじゃ。アタイ、変温動物じゃから朝が弱いのじゃが……ちょっと早く起きれるようになって嬉しいのじゃ」


「みんなはどうなのじゃ? コメントに何時に起きたかを書き込むのじゃぞ……早っ! 4時起きとか配信見てて大丈夫? あ、語尾忘れた」


「それはそ~として、アタイね。また猫のぬいぐるみを買ったのじゃ。もう可愛くて可愛くて、ずっと抱き締めておるのじゃ。アタイの尻尾の部分でぐるぐるって感じで……って、可愛いのが似合わないとか言うな!」


「アタイだって女の子だから、可愛いのは大好きなのじゃ……って、コメントが【きっつ】まみれなのじゃ! え? そんなきっつい? マジで? いやいや、リスナーさん達……いつもアタイに厳しすぎるのじゃ。そんなんじゃ女の子にモテないのじゃぞ」


「……ん? 揺れてる? 地震? ちょっと大きいのじゃ。みんな、気をつけるのじゃぞ。身の安全が一番じゃ。危ないと感じたなら配信なんぞ見とらんで避難するのじゃぞ……」




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「地震があったんですか?」


 アタシ達の目前で、一人芝居配信を行ってみせてくれるデルピュネーさん。本人が仰っていた通り、役になりきっている方が活き活きして見えますね。配信もなんだか楽しそうな雰囲気です。そんな中、コムさんが質問を投げかけると……一旦、一人芝居は打ち切られたのです。


「そうなのじゃ。震度3の地震が起こってな、でも配信者がアタフタしては不安を感じさせてしまうじゃろ。だから地震は怖かったんじゃが、必死に冷静を保とうとしておったのじゃ~」


「いえいえ、視聴者さん達にも避難を勧めたりと素晴らしい対応でした」


 コムさんは、そう賛えました。アタシもそう思います。


「ありがとなのじゃ~。では、配信を再開するのじゃ~」




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【PM23:17 地震後】


「何の話してたんじゃったっけ?」


「ああ……そうそう、アタイが可愛いって話じゃったな。ん? 違う? あ、モテるとか、そういうのじゃったな」


「モテるって言えば、アタイは男性にはモテないのじゃが……女性にはモテるのじゃよ。困ったものじゃ~」


「え……何? だから、アタイは男じゃないって言ってるじゃろ、何度目なんじゃ、このやり取り」


「ん? ボイチェン外れてますって? 使ってないのじゃ! 地声、地声なのじゃ~」


「お前ら、ホント……隙あらばプロレスばっか仕掛けてくるのじゃ~。そんなんだからお前らモテないんじゃぞ」


「まあ、でもアタイもプロレスは得意だし……嫌いじゃないからの、今日は特別に許すのじゃ。感謝するのじゃぞ。は? いや……行き遅れババアコメントはやめろ、マジでライン越えじゃ。BBAもやめるのじゃ」




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「えっと……なんで配信で【プロレス】してるんです?」


 デルピュネーさんの声と配信の内容からは、彼女が怒っているようにも笑っているようにも聞こえます。そして出てきたプロレスという単語。アタシは理解が追いつかず……その意味を尋ねてみました。


「これはリスナーさんとのじゃれ合いなのじゃ。お互いに罵り合ってるように見えるかもしれんが……逆に言えばお互いが信頼しあって、ラインを超えない程度の激しいコミュニケーションを交わすことを【プロレス】と言ってな。ある意味では、本来の【プロレス】とも同義なのじゃ~」


 なるほど、と……最初はそう思ったのですが、あまり納得は出来ません。きっと、そんな表情が伝わったんでしょう。


「例えば……おゆきさんは小紫さんと、じゃれ合い的な口論はしていたりすると思うのじゃ。普通は面と向かって親しい間柄で行う行為なのじゃが、それを配信で行うことで……アタイとリスナーさん達はオンライン上でもお互いを至近に感じることができるというワケなのじゃ~」


 ああ、今度こそなるほどです。デルピュネーさんってキャラクターはアレですけど……すごくリスナーさん達のことを思って配信しているみたいですね、感心しました。でも、もしアタシが行き遅れババアって言われたら……笑っていられるかは自信がありません。




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「さあ、それじゃ……後半戦のASMRの準備をするから、ちょっとだけ待つのじゃ~」


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「おまたせなのじゃ~。はい、いつものASMR用のマイクを持ってきたのじゃ~。ちょっとセッティングするからミュートにするのじゃ~」


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「……はーい。じゃあ……ここからは、A・S・M・R・の・じ・か・ん……なのじゃ~」




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 デルピュネーさんは、先程説明してくれた人間の頭部を模したマイクを使用し始めました。彼女はその耳元で、つやっぽくささやいています。ちょっとドキドキしますね。コムさんも……興味深そうに眺めていました。




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「今日も……お仕事……お疲れ様」


「寂しかったよ」


「ん……何?」


「うん……大好き」


「ファスナー下ろしていいよ」


「一生一緒だからね」


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「じゃ……付けるの……忘れてたのじゃ」


「時間もちょうどいいし、今日はここまでじゃ。また……次の配信もよろしくなのじゃ」


【AM00:00 配信終了】




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 デルピュネーさんは頭部型マイクを背後から抱き込むと……その首に腕を絡ませ、耳元でリスナーさんへの愛を囁いていました。なんかアタシの方が照れてきちゃいそうです。彼女は細く長い指をマイクの頬の部分を撫でるように滑らせていくと……更には耳元を舐めています。うわぁ……何かゾクゾクしてきました。これは……とんでもなくエロティックですね。


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