第38話
「えっと、彼氏ってヴァーチャルの……設定的な方なんですか?」
コムさんは彼氏の存在を疑問に思ったみたいです。その彼氏は本当に存在している彼氏なのか……と、そういう意味でしょう。一般の方に同じ質問をしたら失礼なんですが、デルピュネーさんになら……まあ、大丈夫ですよね。
「いや、RLの方なのじゃ~」
「あーるえる?」
意味が分からない時は発言のオウム返しが便利です。
「RLというのはじゃな……【リアル・ライフ】の略なのじゃ~。かいつまんで言えば……アタイの中身の方と言えばわかるじゃろう」
なるほど。納得しました。いやいや……納得しちゃいけないですね。つまりは、現実世界において人死が出たという事ですから。
「事件の詳細なのじゃが、アタイと彼ピは同棲しておったのじゃ~」
いきなり、ぶっちゃけ発言ですね。こういうの……ファンの人が聞いたら怒るやつでしょう。まあ、こちらの世界の住人になった以上……その発言は決して現世には届かないから別にいいんですけどね。
「アタイ達は仕事柄……防音が整ったマンション、そこの十一階に住んでおったのじゃ~」
やっぱり Vtuber だからなんでしょう。配信で声を上げることが多く、それを配慮した場所に居住していたようですね。そういうマンションってお高いと思うんですが……やっぱり人気はあったと言うだけに、相応の収入があったんでしょう。
「すいませんが……彼氏の方も Vtuber をなされていたのですか?」
コムさんが口を挟んできました。どういう事でしょうね。
「いや、アタイ達と仰ったので……そうなのかなって」
コムさんは
「その通りじゃ。アタイの彼ピも Vtuber をやっておった。そうじゃのう……ちょっと待つのじゃ~」
そう言うと、デルピュネーさんはソファーの前……
「うわっ……かわいい!」
思わず
顔は一見、大人しそうな少年にも見えるのですが……頬には傷跡がありますね。これは……傷つけられた理由を想像させる系のアクセサリーなんでしょう。こういうのを考えると、それだけで白米を食べることができそうです。更には……彼の瞳の奥は濁っていて、それが物憂げな空気を漂わせており尊さを感じさせます。まとめますと……大人しそうだけど、闇を抱えている系美少年です。二言になってしまいましたね。すいません。
身体はダボっとした大きめのパーカーを着ています。身体の輪郭が細いのを気にしているんでしょう。そういった自分の気にしている部分を隠そうとしているのは可愛いですよね。そして極めつけは……半ズボンです。股下から細々と伸びている白い生足は至高の逸品でしょう。しかも、この半ズボン……冬でも着ているのなら絶品です。
「これがアタイの彼ピの Vtuber 姿なのじゃ。人気面で言えば軽くアタイの十倍は登録者を抱えておったはずじゃぞ。見た目はかわいい系なのじゃが、声は割にイケボだったのが女性に受けがよかったのじゃろうな。雑談配信ですらスーパーチャットが飛び交っておったのじゃ~」
「すーぱーちゃっと?」
「要は投げ銭じゃ。応援したい Vtuber の配信に直接、金銭を送れるシステムなのじゃ~」
「中身もイケメンじゃぞ。 Vtuber のガワと同じく小柄で、それはそれはアタイの自慢の彼氏じゃった」
「彼氏の方は何歳くらいだったのでしょう……それと、宜しければデルピュネーさんの年齢もお聞かせください」
うお。コムさんが踏み込んだ質問を投げかけましたね。いくらなんでも女性に年齢を聞くのは……失礼ですってば。
「アタイは 1200 歳。彼ピの方は 14 歳設定だったのじゃ~」
流石に……素直には答えてくれないですね。そりゃ、そうなります。
「まあ、でも……それが聞きたいわけではないのじゃろう? 特別サービスに答えてやるのじゃ。アタイは 37 歳で、彼ピは 28 歳だったのじゃ~」
あら……思ったよりも年齢を重ねていたみたいですね。ですが、実年齢なりの経験を積んだ人の配信の方が雑談とかは楽しくなるでしょうし……これはしょうがないですよね。
「そして……そんな彼ピが遺体として、マンション近場の路地裏で見つかったのじゃ」
ついに事件の話題に突入しそうですね。しっかり聞きましょう。
「さっきも話したと思うのじゃが、その件でアタイが逮捕されそうになったのじゃ。しかし……これには謎があってな、それをリスナーさんに考えてもらおうと思うのじゃ~」
どうやら、
「それでは、事件当日のアタイの配信を……今からアタイ直々にリプレイするので、ゆっくりと見ていくのじゃぞ~」
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