第37話
「そんな訳でして、現世で私は Vtuber をしていたんです。自分で言うのもなんですが人気はあったと思います。特に競争の激しい女性 Vtuber 界隈でも、登録者は中堅より上でした。ほら、私……自分では好きじゃないんですが、声がこんなんじゃないですか。でも、それが逆に受けが良かったみたいです」
デルピュネーさんは素の声で喋っていますが、その声は少し枯れた感じですね。キャラクターを演じている時にはオクターブ高い声になっていましたが、やはりそちらもハスキーなものでした。
「ホラーゲームを実況しては怖がって泣いたり、雑談では少女趣味みたいな話ばかりをしたりと、多分……配信内容と声とのギャップがリスナーさん達の興味を引いたんでしょう。私は自分で思っていた以上の人気を得ることが出来ました」
確かに……このカッコいい感じの声で、ホラーゲームをしては『きゃゃぁぁぁああ!』とか『もうやだ……ごめんなさい、ごめんなさい』なんてやっているとは想像付きませんね。
「あとは……とりわけASMRが人気でしたね」
ASMR? アマゾン……週間……マンガ……ランキング。適当に考えてみたら、割りとそれっぽいのが出ましたね。ひょっとしたら、これは正解なのではないでしょうか。
「あ、ASMRと言うのはですね……例えば、耳元で囁くだとか、吐息がかかる音を心地良く思う反応のことを言うんです。細かいことはわからないんですが、そういった刺激は脳が快感を得るらしいんです。そして……私もそういった配信を行っていました。それ専用のマイクも持っているんですよ」
そういうとデルピュネーさんは手元にマイクを具現化しました。彼女の容姿で具現化を行うと……まるで魔法のように見えますね。
さあ、そこに具現化されたマイク……いやマイクと呼ばれたそれは人の頭部の形を模しています。言うならば、そう……まるで晒し首のよう。
「これの耳の部分が高性能のマイクになっているんです。耳の形って複雑じゃないですか。これはそれをリアルに造形してあってですね、耳近くで発せられた音がその複雑な形に反射して聞こえるのを再現できるんです。要は、リアルな耳型のマイクに音を伝えることで……それは普段のマイク以上のリアル感を持って伝わるんですね。だから……そこに顔を近づけて吐息をかけたり、思わせぶりな言葉を呟いたりする配信のことを、私達はASMRと称して配信しているんです」
解説だけでは伝わらないだろうと思ったのでしょうか。試しにASMRを実践してみるデルピュネーさん。頭部型をしたマイクの耳元に息を吹きかける動作を見せてくれます。
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「あ、申し遅れました。僕は小紫祥伍と言います」
肝心な事を忘れていました。
「
「小紫さんとおゆきさん。初めまして、いらっじゃい。アタイの名前は Delphyne 蛇理亞。これからもよろしくなのじゃ~。宜しければチャンネル登録、高評価ボタンを押していってくれるとありがたいのじゃ~」
「アタイの名前のデルピュネーと言うのは、ギリシア神話を由来とする半人半蛇の怪物から頂いたものなのじゃ~。だから語尾も蛇を意識して【じゃ】を付けておるのじゃ~」
なるほど、よく考えられてるんですね。名前、ビジュアル、語尾……キャラクターとして蛇の設定が沢山盛り込まれています。あ……よく見たら瞳の奥……瞳孔が真ん丸だったり縦長になったりと細かく動いていますね。ホント、ビックリする程に……しっかりと作り込まれていました。しかし、蛇をモチーフにしたキャラクターと言うことは……一つ気になることが出てきますね。
「デルピュネーさんは毒とかは持っているんですか?」
やっぱり蛇という設定なら……毒の有無は気になりませんか。
「アタイ、人を殺すような毒は持っていないのじゃ~。ただ……この引き締まった肉体に豊満な胸を見るのじゃ。アタイは人を殺しはせぬが、人……それも男を誘惑する毒ならば持っておるのじゃ」
語尾の【じゃ】が、
ただ、残念なことに……この場における唯一の男性は、その手の毒に完全な耐性を保持しているのです。ご愁傷様でした。
しかし……胸以外の部分も凄い完成度をしていますね。本当にアニメのキャラクターがそのまま動いているようです。蛇の尻尾の先端部分は怪しく
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この状態では
「さて……それでは本日の配信の雑談テーマは、生前にアタイの体験した事件について語ろうと思うのじゃ~」
いよいよ始まりましたね。彼女はいったい何を語るのでしょうか。かつて、こんなにユニークなお客様はいませんでしたし……今までにない興奮を覚えます。
「これは現世での出来事なのじゃが……ある日、アタイの彼ピが死んでしまったのじゃ~」
「そして……その事件の容疑者として、アタイに逮捕の手が迫ったのじゃ~」
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