仮題:家督継承の謎
第13話
みなさんは武士を知っていますか?
真っ先に戦場に駆け出すと一番槍を果たし、その武名を轟かせた人物を想像される方もいるでしょう。もしくは弓矢で沖に浮かぶ船の的を射た方かもしれませんね。もちろん他にも刀や鉄砲、珍しいところでは
あるいは農民から武士を経て関白まで立身した人物を思い浮かべる方もいるでしょう。他にはその方を支えた五奉行のような内政官や、両兵衛と呼ばれた軍師的人物を思い浮かべた方もいると思います。
それとも……武士の頂点、将軍様を考えた方もいれば、将軍への忠誠を全うすることで名を残した方が想起される事もありそうですね。風変わりな発想ならば……ジャパニーズ・ハラキリ、つまりは切腹で名が知られた方が挙げられるのかもしれません。
このように、日本の歴史を見れば武士のエピソードには有名なものが無数に存在しています。ですが、そんな武士の皆さんだって派手な働きばかりしていたわけではありません。それこそ有名な話があるのならば……裏には面白いエピソードも存在しているのです。
本日伺うのは、そんな物語。それは私達の大好物な【面白い】かつ【滑稽】を含んでいるものでした。
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「退屈で死にそう……」
二本並んで取り付けられた安っぽい蛍光灯に照らされる十畳余りのスペースには、薄灰色のデスクと安っぽい椅子が二セット。周囲に並ぶのは無機質なキャビネットと薄汚い白板。まるで、小さめの事務室を思わせる部屋には、頭をデスクに突っ伏したまま……身動き一つ見せない存在が二セットいた。
片側のデスクに頭を伏せたままの幼女は、頭を微塵とも動かすことなく口を開いたのだが……もう片側のデスクに頭を伏せたままの男は、同様に頭を微塵とも動かすことなく、更には口すら動かさなかった。簡潔に言えば、幼女の呟きを男が無視した。それだけである。
返答すらないのに不機嫌を示しているのであろう。幼女はその体躯では床まで届かない短い足をパタパタとさせている。
この幼女、名は
そして、今だに身動きのない男性。こちらの世界でなければ死んでいるのではと疑われるレベルで挙動を見せない、その男性は
「また、面白い話を持ってる人に来てもらうようお願いしてるからぁ……待っててぇ」
遂に小紫が口を開いた。姿勢は先程のまま発せられた声は、
ちなみにだが……『来てもらえる』というのは、彼らが求めるものを持った誰かの来訪を意味する。では、彼らが何を求めているかと言うと、言葉は悪いが【暇潰し】であった。何故かと言うと、彼らは死後の世界の住人であり、この地で無限の時間を過ごしている。だが……この世界は時間の消費方法が、あまりにも欠乏していた。そして彼らは、その問題への対策を考え出す。それこそが他者の話を聞くことであった。この世界に来た者の多くは何らかの【物語】を持っているものだ。それを聞くことで、無限の時間への対策としているのである。
また、こちらの世界では【謎】を含んでいて【面白い】話をする者の人気は高い。何故かと言えば、それを考えることで更に時間を浪費する事ができるからだ。よって、そのような話を持つ者の話を聞く為には……人気店に並ぶかのような順番待ち状態になっている。以前の来客者は、こちらに来たばかりで、目新しいエピソードを持っていたこともあり……文字通り【この世のものとは思えない】程の順番待ちの列がになっていたのだが、はたして……今回はどれほど待てばよいのであろう。
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それから……しばらくの時が流れたのだが、彼らは何の動きも見せない。実は、この世界に来る前はハシビロコウであったのではないだろうか。それほど動くことがないのである。ずっと座ったままでは背骨や腰に悪いようにも思えるが……そもそも彼らは死後の人間であり、ずっと座った状態でも何の苦にもならない。そして……また時は過ぎていく。
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「御免!」
ようやく待ち人が訪れたようだ。
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