第14話
「お侍さんだぁ……」
コムさんが室内へお客様を迎え入れると、そのお客様の容貌に
コムさんはお侍さんを部屋の片隅のソファーへと案内していますね。そして、その中央に座るよう促すと……お侍さんはそれに恐縮しながらも腰を下ろしました。いかにもお侍さんらしいと言いますか、ソファーであっても正座で座るようです。
えっと……先程は『これぞお侍さん』と表現したのですが……すいません、前言撤回します。
お侍さんは正座する際に履物をソファーの前に置いたんですが、それは
「ああ、これは草履より履きやすいからでござる」
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「拙者、
お侍さんは自身を大庭政直と名乗りました。
「本日はお越しくださいまして、恐悦至極です」
コムさんが大庭さんに来訪していただいたお礼を述べていますが、発言がお侍さんに引っ張られて古風になってますね。ちょっと面白いです。
「ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそお招きいただき、かたじけなく存じます」
これで社交辞令的なやり取りは済みましたね。そこからは井戸端会議か世間話かと言った会話が始まるのです。
やはりというか……当たり前ですけど、大庭さんはお侍さんでした。何でも戦国時代末期から江戸時代にかけて活躍していたようです。私が現世にいた時の日本史で言えば、人気ランキング・ナンバー1の時代だけに……これは面白そうな話が聞けそうですね。コムさんも期待しているのでしょうか、普段はやる気の感じられない表情なのに、今は目を輝かせている少年のようにも見えます。風貌はおっさんだというのに、身の程をわきまえてほしいですね。
「どうですか、お飲み物でも……。
世間話の途中、大庭さんが語る際の潤滑油としてでしょうね。コムさんは大庭さんにお酒を勧めました。
「いえ、拙者はお茶を所望いたす」
大庭さんは下戸なのでしょうか……お酒を遠慮して、お茶を希望されました。コムさんはそれに応えてお茶を具現化させます。いかにも時代劇で見るような上品な
透明感のある緑色の液体を喉に流しこんだ大庭さんは、その液体を形容するに相応しい爽かな表情を見せます。良いお茶というのは心を落ち着け、朗らかにするものなのでしょう。
さあ、世間話も一段落付きましたし、お茶の提供も出来ました。本題がそろそろ始まるのでしょう。そういう空気になってきています。
そして……大庭さんはひと呼吸置くと、自身の持つエピソードを晴れ晴れとした表情のままに語り始めるのです。
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「時は天正年間。拙者……大庭二郎政直は兄弟と共に、父の|杉清政(すぎきよまさ)に呼ばれておりました」
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