第2話 蟹蜘蛛

 街の外へ来ている。早速困っている。アキちゃんだ。

 アキちゃんは、野原に放すと自由奔放に動き回ってしまうのである!!

 一番最初の街で薬草農園を走り回ったときのように!!


「あ、ちょうちょさんいますねー捕まえたいです! まってー」


 不意に駆け出すアキちゃん。


「ああー、一人は危ないよー」


 追いかける私とアルダスさん。ルウラさんが強化訓練に入って貰って、まずは転職させようというわけだ。


「あとすこしでつか、まえ、られ、る」

「危ない! 崖だ!」


 アルダスさんが尻尾をつかみ強引に引っ張る。尻尾がみょーんと伸び縮みして、アルダスさんの元へすぽっと飛び込む格好のアキちゃん。


「ああーん! ちょうちょさーん!」


 大泣きするアキちゃん。野生児になったアキちゃんは情緒豊かである。


「落ち着け落ち着け、もう魔物が声を聞きつけて寄ってきてる」


 ヒックヒック涙を涙を流しながらアルダスさんから降りて、戦闘準備をするアキちゃん。しょうがないね。


 ちなみにライドしているのでこれらは現在3万人の視聴者が余すこと無く見ている。真の意味のアキちゃん派閥が増えそうな勢いの簡易コメント欄。ライド後に視聴者が立てたけいじばんのスレッドは盛り上がりそうだな。


「ここ森の中だからなあ。ターゲット出来そう?」


 ターゲットってのは各種ゲームのロックオンみたいな技で、遮蔽物貫通。簡単な情報もわかるらしい。


「おー、おう、ターゲット出来たぜ!魔物の通称はカニグモだ!」

「蜘蛛だと音というか地面に張った糸を感知してこっちに来てるんじゃない? ってか、カニグモってあの酒場で食べたカニの味がする蜘蛛だよね? うまく処理すればお金になるんじゃない?」

「だなあ、うまくやるか。もう見えるぞ! 複数いるからな」


 最後の言葉、最初に言えええええ!!


 合計8体のカニグモが突撃してきた。けっこーでっけー。

 地蜘蛛だから飛びかかって食いついて、麻痺させてから消化液を注入したいんだろう。


「5ミリミニマシンガン! 目と脳みそ砕け散れえ!!」


 小さいけど鋭い銃弾がカニグモの目と頭を引き裂いていく。

 どうしたって目は弱いし、蜘蛛の脳は露出している。9ミリアサルトライフルでぶち抜く必要はないのだ。

 ただこのミニマシンガン、貫通するけど着弾した周辺を一緒に破壊する能力はあまりないね。裏側まで貫通して突き抜けやすい。綺麗に作りすぎたかな。


掌底波しょうていは!」


 アルダスさんが転職して新たに覚えた技を出している。掌底を放って衝撃波を出すそうで、見事に脳みそを圧壊させている。一撃の範囲がでかいと強いね、こういう場合。


 成長した蜘蛛が集団で襲ってくるという事例は多分初めてだと思う。ジャイアントシルクスパイダーは巣を破壊してたからね。

 ここは強い敵が多いからカニグモ単体では生き残れなくて、集団で襲うようになったカニグモが進化の過程を渡ったのか。

 TSSは新規モンスターというのをあまり登場させないという。ゲームの内部数値もほぼ変更しないそうだ。カニグモのように、環境の違いによって生物の進化が変わっているんだね。いやはや凄いゲームだ。


 感慨にふけりながら2匹目を処すと、アルダスさんからうめき声が。


「ぎゃあああああああ!! アルダスさん何匹にまとわりつかれてるんですか!?」


「わ、からねえが、さんかいは、かま」


 やべ、麻痺が回ってきてる。ディスペルで治せるだろうけどクールタイムが私の中にしてはあるやつだ。解毒を取ろう。アンチドーテか。取得。Lv5まで750ドルエンだから初級スキルか。


「受けよ、アンチドーテ! 効いた!? 消化液が入っていたら後でミドケアとディスペルで治す! ディスペルレベル上げてあるし効くやろ!」


「助かった! 少し痛えがこんなの序の口! おらぁぁぁ!!」


 体にまとわりついているカニグモをつかみ、大ぶりにぶん投げて木へと衝突させ、脳を潰すアルダスさん。いや、結構でかいんですよ? 何でそんなこと出来るの? 転職ってそんなに強いの?


「こいつはぁ! 地面にどーん!」


 足をつかんで叩き潰すアルダスさん。もはや何も言うまい。


「お嬢! 後ろに張り付いてるやつを俺ごと吹っ飛ばしてくれ!」


「わかったです、足を潰さないように……ええい、桜花打開!!」


 アルダスさんに炸裂する打開の衝撃波。


「グッ。うし、おーけー。ありがとうお嬢。これでまとわりついたのは倒したな。生きている蜘蛛はほかにいないか?」

「いませんーアキが処分しておきました」


 調整を掛けたとはいってもアキちゃんの桜花打開だ。半端ない威力がある。それを受けきるアルダスさん。強い。……鎧曲がってないよね?


「ミドケア、ディスペル」


 順々に発動する。ディスペルは対象者へのターゲットマーカーが鮮やかだなあ。


「あー、ずいぶんよくなった。ディスペルの効果は感じなかったが」

「えー、Lv3だよー?」

「まほうにしかきかないんじゃないですかー」

「消化液は『生物が出した溶かす液体』ってことですか。そっかぁ」


 ちょっとしょげながらもカニグモの足を切り取ってマジカルバックパックに収納していく。大きい容量で本当助かるねー。


 これほかの部位も美味しいのかなと思い、うへぇって思いながらも脳を食べる。あ、かに味噌だ。これ本当にかになのかもしれない。全部を残せるから窒息死させるのが最良攻略パターンなんだろうね。残っているの削ってパックに詰めよう。冒険者足るもの容器は常に携帯しておくのだ。


 移動中にも数体お金にならない敵が出てきたので倒して放置した。お金にならない=ウチにとっては価値なし。

 また、巨大熊がでてきたので9ミリアサルトで即死させる。ボーゼンとする3人。あれ、またわたしなにかやっちゃいました? 取り回しがギリギリだったので危なかったかな? ちょっと使いにくいのを作っちゃったかなあ?




 ちょっと早いけど戻って、料亭にカニグモを直接卸してみようっと。

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