第2話 どんちゃん騒ぎの、そのあとに。

 ジダン最大の歓楽街ルイッチバーグ。その巨大さは東京ドームで30個あるくらいかな。

 ここにないものはない! と商店の人が豪語するほどにアイテムが存在し、乱闘が存在し、スリが横行し、詐欺が蔓延する。とにかく凄い街だ。正確には都市の中の都市か。


「わー凄い。人の波だ。私のバックパック以外全部金庫に預けてきてよかったね」

「ああ。そして、宿屋の方で武器にはアラートを仕込ませてくれたからな。盗られるとしたらアキちゃんだけだ」

「へ? わたしですか」

「そうだね。抱きかかえていこうか。アキちゃんかわいいし軽いから人さらいに合う可能性がある」


 そう言ってひょいっと持ち上げ、もごもごするアキちゃんを抱きしめて移動する。私の10ミリフルオートピストルは「銃」。人気がほぼない種類なのでまあ気にすることはないだろう。テレキネシスもLv5だし、アラーム出た瞬間につかみ取れる。私に投げ返せるようにテレキネシスに応用が利く投擲取っておこうか。Lv5までサクッと。基本スキルだから安い安い。

 てくてくと人をかき分けながら歩き、お目当てのお店に到着する。


「坂井魚河岸直送市場! アキちゃん派閥が言っていたのはここかー。有名店なのかな、人がいっぱいだね!」


 こういう場所だとガセもいっぱいある。食事処もそうだ。なので事前に聞いておいたのだ。


「こんにちはー、4人ですけどあいてますか?」

「あーその風貌と4人組、ディンゴ……じゃねえや、あ、アキちゃん派閥、ぷすーくすくす、おっとすまねえ、アキちゃん派閥から話は聞いてるぜ、予約席を取ってある、そこにすわんな」


 アキちゃん派閥はディンゴさんなのかー、けいじばんにかきてー、と思いつつ予約席に着座。おすすめおつまみ5品とビールを用意してもらった。TSSは登録した国での年齢制限が全て適用されるけど、現代日本は16歳からでも飲めまーす! アキちゃんはこの世界の住人なので年齢制限とかはないけど、飲んでみてからだね。


「これまでお疲れ様でした! 初めての酒場でパーッとってやつです! 勢いよく飲んでいきましょう!」

「「「「おー!」」」」

 みんなで飲んで食べて騒ぐ。こんなに楽しいことはない。

 また店の出すおつまみも凄く美味しく、ニガライカの刺身はまず刺身文化がここに根付いていることに驚愕し、その刺身も食感がコリコリしていてなんともいえない。そういやサイバーパンクに出てくるような街並みだったもんね。なんとなく和と中華が融合したような、そんな感じ。

 コカトリの唐揚げもじゅうしぃで美味しくてサイコー。唐揚げは正義だねえ。

 飲んで食べてとっても充実。結構酔ったなあ。


「お嬢が一番強いとはなあ。俺の面目が立たねえぜ」

「ゆっくり飲んでいただけですよぉ」

「そろそろお開きにしましょうか。明日は新しい武具探しですよ」


 というわけでお会計。ざっくり1万ドルエンでした。一人2千ドルエンくらいかな?

 ジダンでの相場がわからないけどあれだけ美味しいものを食べて2千ドルエンは安いと思う。


 ふらふらと退店し、人が減った道を歩く。

 ふと、一人の男性と目が合う。何か決意している顔だ。


「あの、なにか?」

「お前が雪菜だな」

「えっと――」

「チーターはしねえええええ!!!!」


 突撃してくる男性。

 ふらふらで回避が間に合わない。

 ドス、と刺さるなにか。マジックコートは発動中マナを消費するので、常時発動できる魔法ではない。

 2度刺される。

 意識が、薄れていく。



 どこか遠くで音が聞こえる。何かはわからない。

 暗闇の中、うっすらと影が見える。あれは誰だろう。

 私だ。私の魂だ。今何かを接触アクセスするのかな。

 ゆっくりと近づいていく私と私の魂。

 接触までもう少し。


「起きてくださいご主人様!!」


 頭の中を走り回る声が聞こえた。アキちゃん!


「死んじゃ駄目です! 死に戻りポイントがないんですよ! 死んだらデータの藻屑っていつも言ってるじゃないですか!!」


 あ、そうだ。私死にかけているんだ。

 魂と接触しそうんだけどこれはどういう意味?

 不意に私の心音を聞こうと思った。手を当てると音がしない、鼓動が聞こえない。

 死体撃ちされるまえの死亡状態なのか?

 接触したら、魂に死が融合しちゃって死ぬのでは??

 いやいやいやいやそれはまずい。

 復帰しないと、復帰、復帰!

 急速に魂と私が離れていく。

 魂は少し寂しそうだけど。私は寂しくなんてない。生きたい。


「ご主人様! 起きて!!」

「……お、き、」

「意識が来た! 死亡状態から自己再生するスキルはフェニックスです! Lv1スキルです!」

「リザレクトは何度も試してるんだけど効かないのよ!蘇生機能がバグってるんだわ!」

 フェニックスか。お金は2万ドルエンだけど、ある。

 あとは意識を強く持って、念じるだけだ。


『フェ、ニック、ス、こう、にゅう』


 ブワッ


 全身を炎が駆け走る。

 意識を炎が焚きに焚いて上空へ吹き上げる。


「か、かえって、きました」


 手を掲げてそうみんなに伝える


 周囲から歓声が上がる。驚くほどたくさんの。本当に驚くほど。


「ごしゅじんさまぁ!」


 横で大泣きするアキちゃん。


「ありがとう、あきちゃんがいなかったら、もどってこれなかった」


「ぐすっぐすっ。ご主人様が倒れたってのがけいじばんで拡散したらしくて、ものすごい大勢の人が助けに来てくれたんです。生命維持できたのは皆さんのおかげです」


「ありがとう、ございます。こんなにおおぜいの人が、かけつけてくれたなんて、わたしは、しあわせものです」


 私の延命会場は涙と笑顔、盛大な拍手が鳴り響いていた




 ――けいじばん――

 雪菜をピーする

 243

 俺アンチやめたわ。ファンでもない。ただの人として接する。


 269

 >>243

 わかる、俺もやめた。駆けつけたメンツがやばすぎる。4層の法の執行代行LAWである「ウォールオブプリースト」と空賊「インザスカイ」が共同作業して延命治療してたんだぞ。目の前で見ていた光景があり得なすぎる。5層の人もいただろ、あれ


 321

 特攻したやつはどうなんの?


 427

 >>321

 4層空賊なら違法改造ゲームエディタブーストくらい持ってるだろ。それこそマイナスブースト掛けてゲームエディタ数値0にして拷問じゃねえのか? それかリスポ地点にカミカゼ組待機させて徹底的にカミカゼ、全てのアイテムなくなるまで継続とかな。まあ、生きてはいけねえよ。垢廃棄しかねえな


 511

 >>427

 こわすぎる


 534

 おれ、ここでぶーぶーいっていればいいや……


 555

 独裁制しているやつは4層じゃあいないし、団員の中にも考えがあるから、即座に全てを擁護するってわけではないと思うぞ


 ――いじょう、けいじばん――

 ――そしてけいじばん――

 雪菜さん救出祝勝会場その1023


 213

 今日ほど酒がうまい日はないし、今日ほど悲しい日はない


 245

 >>213

 それな。救命活動からの復活は本当に胸がたぎる思いだけど、その前のアンチがカミカゼしてくる件な


 311

 4層の空賊が見せしめ動画をけいじばんに貼り付けるらしいけど、全員が見ているわけでもないしなあ。


 321

 それでも減る。減るのはいいこと


 344

 今回雪菜さんが濁った意識の中でマジックコート掛けちゃって、それが馬鹿みたいに固いからヒール系統がほとんど入らなかったんでしょ? 4層総での回復は見ていて鳥肌立ったわ


 355

 個人的には雪菜さんが意識戻った瞬間の、LAWと空賊の回復組が抱き合う瞬間が最高だったわ。雪菜さんという存在は凄いな。


 380

 今は半分公式として、冒険者の館にも非推奨理由として書かれているけど、死んだら死に戻り機能がバグっていて戻ってこれないらしいんだよね


 410

 >>380

 そうらしいな。あんなに頭こすりつけて回るアキちゃんなんて見られるもんじゃないぞ。あの必死さが本当に死に戻れないと言うことを実感させてみんな協力することにつながったんだ


 アキちゃん派閥

 部下がライドして撮影していたやつを見るたびに、雪菜さんとアキちゃんの絆の強さが実感できて泣けてくる


 421

 アキちゃん乙


 424

 アキちゃん乙


 431

 アキちゃん乙


 ――いじょう、けいじばん――

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