第3章 東京並みにでかい都市

第1話 ジダンで走れ

 ジダンは凄いところでした。


 歩いてもうあと1日というところですでに街が見えてます。横の一片をざっと見するだけですが、東京丸々一個入るんじゃないかな? そこまでではないか? とにかく広い。マジモンで地平線の彼方まで続いている。

 それが超巨大城壁に守られている。しかも無数の巨大な砲台付きで。超大型魔導砲だろうね。何に使うんだろう?

 近づいていくと、都市が5層に分かれていることがわかった。床が5面あるもん。そうに決まっている。1~2層は城壁のおかげで光が入らなそうだ。トッププレイヤーさんの話はここを駆け抜けろっていうことか。無理だ。

 先物取引所だけは優先していこう。期限が近くなると値段が下がってしまう。


「というわけで盗品預かってください」


 真っ先に行くのは衛兵詰め所。観光案内……では無いんだけど、街のことを教えてくれる存在でもあるのだ。


「今時珍しいわねえ。預かりました」

「視聴者の皆さんにクリーンなライドをお見せしたいんですよ。先物取引所ってどこにありますか?」

「3層のF45のD43かな。よく聞かれるので覚えてるわ。はい、MAPのチップ。傭兵以外の人数分、渡しておくわね。データ化してあるんだからぼーっと突っ立っちゃ駄目よ、お上りさんと思われるわ」


 けいじばんの初心者レクチャーを見ると、ここで傭兵の分もと言ってはいけないらしい。ジダンは現地民の地位が極端に低いらしい。傭兵もしかず、だ。傭兵の館があんなに寂れて、街の凄い外にあるくらいだもんなあ。


「ありがとうございます、駆け抜けていきます」

「認証コードがあれば転移装置が使えるんだけどね。初回は走るしかないわ」


 という訳で疾走開始、といってもアルダスさんが遅いし息切れするので休み休みだけど。


「パワーエンゲージか他人に私のバフを受け渡せれば良いのだけれど。前者はオーバードライブしてないと臨時購入できないし通常購入7500ドルエン、後者は『他人へ譲渡』か『複数ターゲット化』が必要で、5000ドルエンとか10000ドルエンかかるんだもん」

「トリプルミドケアもオーバードライブの時だったな、俺のためにお金を使うのも持ったいねえ。俺は――」」

「ごえいやめちゃうんですか?」


 悲しそうに見つめるアキちゃん。私も悲しそうに見つめよう。じー。


「……できるだけ走る」


 走って走って第2層。これまでにお上りさん認定されて2回襲われた。走ってるもんね、そう見えるよね。

 まあ、ここにしか住めない奴らなので撃退は簡単なんだけども。死体撃ちもやりすぎは良くないらしいけど、あちらから殴ってきてるので、ま、セーフセーフ。


 2層にある1番近い転移装置。まずはここを目指す。ここで認証コードを貰えば1段階を経て3層へ行ける。座標も細かく指定して転移できる。転移装置には大抵盗賊がうろついてるらしいけど。


 こういう所で待ってるヤツらって強いのが定番だよなあ。さすがに出会いたくないなあ。





「あ? 新入りか?」

「ウッス」

「そうか。ショバ代払ってもらうからな」

「ウッス。これっす」

「あいよ。お上りさんじゃあまり美味しくねえが、ここは必ず人が来るからな。頑張れよ」

「ザッス」


 2層にあった服飾店に盗賊の洋服みたいなものを発注して、それで変装したのだ。新入りか? というのは犯罪因子が個人識別コードにあまり入ってなかったからだろう。1層の盗賊を襲っただけだからね。

 ちなみに個人識別コードは私も持ってる。最初はなかった気もするけどいつの間にか取ってた。世界にいて良いと認識された感じがして嬉しい。


 首尾よく転移装置に近づいて認証コードを全員ゲット。次の手順に進もう

 。

 隠れ蓑に包まれながら3層に上がるわけだけど、まだ3層の認証コードを手に入れてないからいっきに飛べる訳では無い。でも転移装置ですっ飛べばに飛べるからあまり危なくはない。

 上がる場所はエレベーターでも浮遊装置でもなんでも良い。東京がまるまる入る大きさの巨大都市に無数に配置されてる。さすがの盗賊も全てにはうろつけないというわけだ。


 今回は浮遊装置に飛ぶことにした。装置の中に入ってしまえば外からの攻撃を受けることは無いみたい。


「……飛んだ! すぐ中に!」


 ドドドド! と中になだれ込む。ちょうど使っている人がいて、上昇できなかった。


 下降する人と装置の中で鉢合わせする。

 犯罪因子がいっぱいある!! 山賊じゃねえか!! 4人もいる!!


「ああ? お前ら山賊みたいだが、上に登れるような犯罪因子持ってねえぞ。もしやなりすましか。頭良かったが最後が悪かったな。俺らは堂々と3層に店を構えられるくらいでかいんだわ」


 一触即発、まさに一触即発の雰囲気になる。

 こんな設備の中。相手もこちらも動けない。相手も大物の山賊らしく、動くチャンスを逃したら自分が負けるくらい知っているようだ。見た目は、革ジャンにジーンズという、いかにもな感じだ。ちゃんとロールプレイしてる手練れだな。


 そんな緊張のなか、アキちゃんがつぶやく。


「ご主人様を殺したら、このアキが気を暴走させて自爆しますよ」

「アキ……ひとつ聞く、おきつねメイドのアキちゃんか?」

「ちゃんなんていりません。雪菜様のメイドのアキです」

「雪菜のアキという証拠は?」

「桜花奥義――」

「わかった! それを扱えるおきつねメイドはアキちゃんしかいねえ! お互い落ち着こう!」


 山賊の長はゆっくりと緊張した顔を解いて。


「――お前ら、ゆっくりと武器を下ろして戦闘状態を解除しろ」

「かしら!?」


 長はデロデロの表情になって。


「俺は雪菜さん派じゃなくてアキちゃん派閥なんだよぉ! アキちゃんに傷つけたら俺も自害する。こちらから戦闘はしない」


「わ、わたしはばつとかあるんですか!?」




「雪菜さんも努力してるが、スキルを買えるという、まあチートじみた性能があるだろ。比較するわけじゃねえがアキちゃんは自己鍛錬と獲得した経験値で成長してるじゃねえか。しかもこんなに小さいのにあの強さときた。そこがたまんねえのよな。あ、記念のサインはこれとこれで、ここにお願いします。かっこよくかいてください」

「あはは、ありがとうございます、わかりました」


 アキちゃんを先頭に海賊――彼らは盗賊や山賊ではなく海賊だと主張している――の店に招待された。表向き交易業で、交易しながら偵察して、弱そうなところを徹底的に潰すそうだ。こわっ。


「いやーしかし本物に出会えるとはなあ。記念撮影……はだめか。海賊と一緒はダメだ、俺が許せねえ」

「海賊と一緒だとけいじばんが揉めるかもしれませんね。この巨大なジダンのとある浮遊装置で出会うなんて奇跡ですね」


 とりあえず話を合わせておく。


「それで、アキちゃんたちはどうしてここにいらしたんで?」

「旅行とさいものとりひき? のばいばいです!」

「ってことはドティエティからジダンに? 中身は穀物ですかね。」

「アキちゃんのたどたどしい言語を理解してる……。ええ、そうですね。1枚1万3千ドルエンで5枚ほど」

「安い! ならその先物権利を個別取引で高く買い取りやす。交易してますから現物がドティエティに落ちても全く痛くねえ」

「来訪人との貿易および相対先物取引が初めてなんだけど、最初が海賊ってどうなの……」

「履歴を見ればバッチリ乗ってますな。そこらの賊じゃ逃げ帰りますわな! がはは!」


 という訳で3層に到着しました。4層には実績が必要ですぐ行くことが出来ないみたい。




 ――ちょっとけいじばん――

 雪菜さんを暖かく見守ろうの会


 アキちゃん派閥

 すまねえ兄貴たち、アキちゃんとジダンで遭遇しちまって、つい……


 143

 〉〉アキちゃん派閥

 まさか触ったのか


 147

 場合によっては処刑もありうる


 アキちゃん派閥

 いや待ってくれ! そんなことは断じてしねえ。ただ、交易商やってるんだが多めに利益を渡しちまったんだ


 176

 それくらいならしょうがないと思うが、最初の謝り方からしてもっとやったんだろ、吐けよ


 アキちゃん派閥

 海賊とのつながりというか、顔合わせをさせました。誠に申し訳ありません


 194

 3層で海賊といえるクラスなのはドエクサの交易旅団と、エリー武具商会、ザルザール採掘会社あたりか? アキちゃん派閥はドエクサの人か交易相手か?


 200

 ほかにも無数にあるが抜けてるのはそこら辺だな。海賊をする雪菜さんとか見たくねえぞ


 アキちゃん派閥

 違うんだ! バックについてもらう形にしたんだ! 雪菜さん達が3層で安全に歩けるようにさ!


 205

 なるほど、今までのアキちゃん溺愛っぷりを見てるし信じよう。しかしドエクサ(仮)の幹部と、顔と顔を合わせる橋渡しをするなんて、アキちゃん派閥は相当な人物なんだな


 207

 俺はあんまり信じねーぞ。ファン減らす行為だけはマジでやめてくれよ。


 アキちゃん派閥

 俺を信じなくてもいい、ただ雪菜さんとアキちゃんを信じてくれ。


――いじょうけいじばん――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る