第2話 レクチの傭兵女王

 レクチまで一気に来た私たち。


「うわー大きな街ですね」

「まあな、ここは主要街道沿いにある街で、穀物の一大産地だったりする。行き交いする人や交易する人が多いんだ」


 そう言っている間にも魔導輸送車や、らくだのような動物で穀物を輸送する人が目の前を通り過ぎていった。


「凄い、凄い!アルダスさんなんでも詳しいですねー!」

「俺たち傭兵には専用の連絡板があるのよ。そこで教えを請うむれば大体返事が返ってくるってもんよ、ガハハハ! 本当に頭が良いのはルウラのほうだぜ!」

「あ、ソッスカ」


 ここは大きな街なので仕事もある。なので毎度のごとく傭兵さんを雇って働いてもらうことに。こんなに便利なのに何でみんなやらないんだろうね?


 その答えが「ミッション」である。これは一日数回ヘルプさんが提示してくれて、達成するとお金がもらえる。このミッションで生まれたお金がこの世界の全てのお金の大本なのである。それ以外からはお金は生み出されない。ミッションは基本にして基礎、経済の基本だ。傭兵はそのお金を天引きしてしまう、それがはやらない理由だ。

 そのミッションも初心者は割が良く上級者は割が良くない設計となっていて、始めた人ほど美味しい構造となっている。初心者が集めたお金を、上級者が運用する、という感じだそうだ。

 ってルウラさんが言ってた。


 しかし私は「ヘルプ」が働かない。このミッションをすることが出来ないのだ! なんたる悲劇! なんたる不幸! だから安い傭兵さんを雇って労働してもらっているんだけど。


 この都市近郊はモンスターがあまり強くない。私とアキちゃん、弱い護衛傭兵だけで戦闘を回せるのでアルダスさんとルウラさんは強化訓練に行ってもらった。

 大体のMMORPGって最初の街から遠いところの方に強いモンスターが出る感じだけど、このTSSはそうはいかない。強いモンスターがいない場所に大きな街が出来やすいってのはあるけど、モンスター分布が均一ではないという。どちらかというと中央集団が出す安全度ランクに添った感じで出る、みたいだ。安全だからみんなで開拓したのかもね。



 ――三ヶ月後――


「うむ、順調だな。あそーればんざいばんざい、あそーればんざいばんざい」


 ばんざい踊りができるのは安全で平和な証拠である。


 近隣のバグも潰してバグポイントももらったし――機能回復はしなかったけど――、コボルトも少数なら倒せるようになった。

 ――地味に疑問なんだけど、私の天買人レベルは上昇しない。経験値はどこに行っているんだろうか? プレイヤーレベルってのはないのでこっちの経験値はないんだけど。強化訓練が出来ているので虚無の空間に行っているわけではなさそうだけど……――

あ、アキちゃんは何事もなく成長してる。最近バテにくくなった。


 インスタンスダンジョンへ行ってジャイアントシルクスパイダーとやり合い、蜘蛛糸を手に入れて防具の補修も行った。ちょっと怖かったけどねー、インスタンスダンジョンに潜るの。またバグるんじゃないかって思って。でもジャイアントシルクスパイダーが出るくらいの強さのところにあるバグは直したんだよっってアキちゃんに背中を押してもらって入ったよ。


 スキルは早抜きを手に入れて、反動軽減をLv5に、ホーミング付与をLv2、マジックコートをLv3にしたかな。


 マジックコートは凄い。初心者スキルってことだけど、Lvあげるとこんなに固くなり衝撃緩和されるのかって感じ。元々魔力に応じて上昇する物なんだけど、レベルも重要! って思わされたよ。

 ホーミング付与もあげるべきだ、うん。超曲がる。

 今までLv1で十分と感じていたもの、Lvあげないとだめだなー。天買人の特徴なのか、スキルレベルがLv1でマックスなんていうのがないんだよねえ。


 三ヶ月も経過したのでヨネダと連絡取れたんだけど、意識洗浄というのを行っているみたい。うまくいけば取り出せるかもだって。うまくいくといいんだけどねえ。


 まあここまでスキルにお金を使ったので旅費がない! もうちょっと稼ごうか……。



 ――三ヶ月後――


「わははは、レクチの傭兵女王と呼ばれるようになったぞ!」

「ごしゅじんさま、ようへいを使い倒してますものね!」


 まあ、偏見の目から出ている言葉なんだけど。

 来訪人が来訪人らしい仕事をせずに現地人を大量雇用して薄利多売している、という感じかね。

 まああってるわね。天引き率95パーセントまでいってるし。それでも雇用した方が利益が出るのよ。傭兵の館がある限り、彼らに施す必要がないのだから。寝ていても利益が出る。

 実際は寝ないでインスタンスダンジョンに入り浸ってた。少し強いランクにしたらバグが出るかもということでジャイアントシルクスパイダーが出る範囲で、だけどね。素材として美味しいので全然オッケー、という感じで潜ってた。

 たまにでかくて強いのが現れるけど、強くなったアキちゃんとスキルが整ってきた私がいれば怖くないよね。怖いのは蜘蛛って形状だよ。これには慣れない、無理やって、無理。

 ちなみに素材なので宿に貯めておき、傭兵を解雇したあとに売り払ってお金にしたよ。ウッハウハや!


「つかいすぎないようにするんですよ、ごしゅじんさま」

「ウィッス」


 そう、最近はお金を使えば強くなるのでちょっとお金を使いすぎている。武器の更新もした方がいいんだけどスキルの方が手っ取り早く強くなる。良い防具を新調するよりマジックコートを上げたほうが固くなる。マジックポーション買うより魔力オーブをあげた方がルウラさんの支援になる。スキル優先しちゃうよねえ。念じれば買えるし?


「そういえばこの夏でこの地に降り立ってから一年経つんだよね。もう一年かー」

「誕生日パーティですね! このアキにお任せを!」

「え! いやいいよ、お金使っちゃうし!」

「こういうときはよいのです、しゅたたたたた!」


 あーあ、行っちゃったよ。どんなお誕生日会大出費祭になるのやら。

 ちなみに現実では一週間くらい経過しているとのこと。一週間が一年か。



「それではぁ、本日のヒーロー、ごしゅじんさまのとう! じょう! でぇす!」


 わーわーわー。歓声が沸き起こる。


 私は用意された豪華な椅子の前に立ち、祝辞を述べる。


「あーあー、なんだ、その、うん。(ここは榊雪菜モードでいこう)みんな会いに来てくれてありがとぉ! 今日は用意された物を飲んで食べてゆっくりしていってねぇ!」


 わーわーひゅーひゅーわーわー。


 今回そろったのは今まで雇用した傭兵の皆さん。ざっと50名はいる。天引き率調整のために雇ったり解雇したりしたからなあ。あと騒ぎを聞きつけた来訪人もいるか。


 私はこっそりとアキちゃんに耳打ちする。


「ご予算はいかほどで作りましたの、この大規模パーティ会場」

「ざっと3万ドルエンです!」




 ジャイアントシルクスパイダーの利益、全部吹っ飛んだああああああ!!

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