第2章 走るよ走るよ!
第1話 歩いていたときの出来事。
レンズクにいることが難しくなった私たちは、次の大都市ドティルティにむかうことにした。
魔導馬車や魔導バスが走っている中で私たちのような徒歩で移動する人たちは珍しい――と思っていたんだけど、相場は違うようで。
高度な文明に頼るよりもあえて不都合を選んで冒険感を感じる勢も多いようだ。みんな感じたいのだろう。昔を連想する、牧歌的な風を。
異世界に来たら魔導の発達で結構近代的でした! じゃあねえ。
「――といっても、みんな連想するのは100年くらい前だから結構現代なんだけどね。1970年代後半から80年代前半、第二次世界大戦から結構経っている年代だよ、割と機械化されているんじゃないかな」
「ぶいーん。こちらの草刈り機なんかはきかい化まどう化されてますよー」
人形みたいなかわいさのきつね娘、アキちゃんがしっぽをぶんぶん回してそう答える。
かわいいなぁもぉ。
さて歩きだけど、ソロから複数人パーティまで、結構な数が歩いている。ソロの人に絡んできた人が一撃でリタイアされていたのを見ると、ソロで歩く人もそれに絡む人も、強くないとだめっぽいね。うちは4人パーティだから大丈夫か。
んでまあ4人で歩いているわけだけど……。
遅い。圧倒的に遅い。ほかのパーティに抜かされてる勢いで遅い。
「他の人は何でこんな装備をつけて荷物を背負って早く歩けるの!?」
「歩く人は大抵、装備重量軽減と行軍などをつけていますね」
なにそれ、システムさん教えて!
【装備重量軽減:装備した重量を軽減する。初心者スキル。一レベルにつき50ドルエン】
【行軍:歩く際の負担が軽減され、崖や危険な場所を通るときの安定性が上昇する。歩く速度も向上する。初心者スキル。1レベルにつき50ドルエン】
こ、こんな物があったとは。すぐにLv5まで取得。軽減率からいってもうちょっと上がありそうなスキルなんだけど、取得できるのはLv5まで。天買人のレベルが低いのかな??
「まあいいや。これで歩けるぞー! ばんざいばんざい!」
ばんざい音頭で体力を消耗してから歩くのを再開。すっげー、今までとは歩くことの全てが違うよ。スキルって偉大だなあ。
それで、歩いてちゃ一日でつかないから野営する訳ですよ。わくわくする風景だよね!
良い場所とったらひとつのパーティでそこを使うのかと思ったら。
「みなさーん、ここで野営しませんかー」
とまあ、周辺のパーティを呼んで、皆で野営するんですわ。
「なんで皆で野営するんですか?」
「皆で野営すればそれだけ危なくないだろ。モンスターから避けられるし、強盗からも避けられやすい。まあ野営する人に強盗がいたらおしまいだけどね、ハハッ」
「な、なるほど」
野営と言っても酒を飲むわけでもなくただご飯を一緒に食べ近隣の情報を語りあい、自分の英傑譚を自慢するだけなんだけど。
これが楽しい。
ご飯はみんなで具材を分け合い、それぞれの小鍋に入れて煮る。レングスは米があったので私たちは米を入れてリゾットにしたんだけど、日本人かな? アジアのプレーヤーがいて、すごく食べたいというので分けてあげたり。お礼にスモーラールラットという食べられるネズミの肉を分けてもらったり。これが美味しいんだよなぁ。
「近隣だと、あれだなあ、外部企業の出張村があるから気をつけろよ」
「外部企業? 出張村?」
話を聞くとこの世界、発展して警備が行き届いているのは中心区域だけで、世界の外部はプレーヤー企業が自分で領土を宣言したりしているそうだ。つまり外部企業。中心区域も、隙間があれば即座にプレーヤー企業が割り込んでくるんだって。通称出張村。すぐ潰れちゃうけど美味しいみたい。
なるほどなあと思いながら眠りにつく。今回は近距離戦闘が6名いるので2交替で早朝に戦力を集中させる。賊にしろモンスターにしろ、寝起きが1番襲われやすいんだって。
早朝になる。さみぃ。│いと寒し《サムのダジャレがサムすぎてサムすぎる》。
みんな枝などを集めて焚き火の火力を上げ、お湯を沸かしコーヒーを飲む。なぜ冒険者が朝コーヒーを飲むかがわかったよ、寒すぎて動けない。毛布で挟むだけでは限界がある、けど寝袋は襲撃があった際にとっさに動けないから暖かい棺桶だもんねえ。
朝準備した賊が来たらやられやすいのも頷ける。
さて、早朝のご飯を食べたら解散。名残惜しいけどみんながみんな目的を持って行動しているからね。
一つのパーティは同じ方面に行くそうなんだけど、一緒に行動はしなかった。うちらバグ取りするために変な動きをするからね……。
とことこ歩く。北は森林南は草原。そしてその色彩はビビッドカラー。うーんすてきんぐ。
でもこういうのをみてはしゃげる
「ようし、今日はオバースからレクチまで一気に行っちまうぞ! ヘックスおよびその周辺は賊が活動してるそうだ! ここはヘックスに近いからな」
「アルダスさん、賊が活動できる範囲ってあるんですか?」
「あるんだよ。賊は大抵、中心区域を作っている『中央企業集団』からお尋ね者扱いされている。中央企業集団が発表している安全度ランクで言うと4くらいから討伐隊が送り込まれるようになってる。ヘックスが3.5から4.5ってところなのさ」
結構完璧な安全を提供しているわけじゃないんだな。
なんか幾度も起こった企業戦争で国の国境線が曖昧になった地球みたいだ。
国の中心にいけばだんだんと安全になるし、離れればだんだんと危険になる。
MMOとはいえ、そういうのもあるんだね。
オバース~レクチ間の街道は7くらいだそうで安全だったけど、ヘックス付近へ引き込もうとするチャラ男が複数名いてうざかった。
そんな中、アキちゃんがバグを発見。ヘックスに近いな、どうしようか。
「安全策をとるならスルーだな。隠れた場所なら安全度ランク7でも賊に襲われるぞ」
「でもせっかくあるバグを放置するのもなあ」
「強くなった私たちなら強襲すればなんとかなると思います!!」
意外とルウラさんが意見を押し通し、強襲することに決定。
乱戦になるので遠距離は使いにくい。バッシュのレベル上げておこう。ショットガンの銃床でぶん殴ってやる。ルウラさんは魔法を使う気満々だけどな!
アキちゃんがすでに偵察していて、相手はふわふわもこもこのコボルトと判明している。まだまだ雑魚ともいえる存在だが、何気にこの世界では初心者殺しで有名なんだそうだ。知能がある生命と初戦闘するのが大体コボルト。知能戦もするのって意外と大変らしい。装備も持ってるしね。
さてそのコボルトがいるところまで移動。見事にバグに群がってこちらを見てないね。
「よし、せーので1人1匹潰すぞ。そうすればあとは2匹だけだ」
せーのっ!
「
「マジックアイスショットガン!」
「ショットガンをトリプルショット!」
「桜花
奇襲アタック!
4匹は即死した!
「雪菜さん、続けて!」
「あ、はい! ショットガンのトリプルショット!」
「アイスビーム!」
私の攻撃で1匹は死に、ルウラさんの魔法でコボルトはカチカチに!
アルダスさんの叩き潰しで決着!
勝った!
「強襲ってハマれば強いですね。近づかれたらバッシュするつもりだったのに」
「ハマればな。撃退されることもままあるぜ」
アキちゃんがバグを修復し、私に渡す。私はそれによってバグが取れる。
「今回も少しシステムさんが動きよくなったみたい。次回からバクをとったらバグポイントという、スキルを買う時にお金に変わるポイントを取得できるんだって」
「そいつはいいな大将、お金を節約できる」
「だね! よーし、今後も頑張るぞー!」
――少し離れた物陰から――
「お頭、あいつら狙わないんですかい? 戦闘後で体力減ってるはずっすよ」
「やめとけやめとけ、仮に勝利できてもこちらにも被害がかなり出る」
「そうっすね、他の奴を見つけるっす」
「俺達も商売で賊をやってるからな」
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