第9話  悪夢

 ――サラマンダー、四大精霊の一つ。


「やばいよやばいよ。今の僕たちが勝てる敵じゃないよ」


「こっちに敵意が向く前になんとか――」


 ボーウ


 見たことなくてもわかる、火の息だ。


 ミリルさんが喋り終わる前に火の息に飲み込まれ、ミリルさんは火の息で焼け焦げてしまった。


 私に直撃はしなかったのに、ものすごい熱を感じる。


「ミリルさん!」


「だめだよ、即死だよ。やばいってもんじゃないよ!」


 うそ……でしょ。ただ息を吐いただけで人を即死させるの……?


「僕が引き付けるから雪菜ちゃんは逃げるんだ! 雇用主を死なせるわけにはいかない!」


 そう言って突撃する田川。

 田川は私の方向にサラマンダーのしっぽがくるよう動いた。


 ブゥン


 サラマンダーはその太いしっぽで私を弾き飛ばした。


 ふっとばされ転がる私。


「ぐああ!!」


 左腕と脇腹を思い切りはたかれた。

 腕は折れてるとおも……痛い……ぐぅぅ、まずい……。


 か、回復しなければ。

 回復、魔法は……ケアが、ある。


「ケア、ケア、ケア……」


 何度もケアを放ち、腕が動くようになったらポーションをがぶ飲みし、なんとか立てるところまで回復させた頃には、田川は火の息で丸焦げになっていた。


 こちらを向くサラマンダー。


 ――死ぬ。


 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。

 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。

 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。

 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。

 

 死にたくない死にたくない


 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない


 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない


 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない


 



「桜花奥義・流星弾りゅうせいだん!!」


 ――アキちゃんが、アキちゃんが戦ってる。


八卦掌はっけしょう奥義、気功乱弾きこうらんだん!!」


 アキちゃんはまだ死んでない。

 アキちゃんはまだ諦めていない。


 ――わたしも、諦めてはいけない!!


「今できることと言えば……今できることと言えば!!」


 サラマンダーが突進して距離を縮める。

 そして火の息をしようと口を開ける。


「おりゃぁ!」


 水爆弾を思い切り投げつける!! 射程距離増加はこういうときも効果を発揮する!


 バァン!!


 火の息が水爆弾を一気に気化させたために水蒸気爆発が起こる!!


「グギャアア」


 効いた!


「グオオオオ」


 サラマンダーが再度口を開ける!


「もういっちょぉ!」


 口の中に水爆弾!


 サラマンダーは……火の息をしない!


「ごしゅじんさま危ない!」


 とっさにアキちゃんが私にぶつかるようにして飛ぶ。サラマンダーの噛みつきから難を逃れる。

 火の息じゃなく噛みつきだったのか。


「もう火の息はしてこない……?」


「火を作る袋が先ほどの爆発で壊れたのかもしれません!」


「ぐおぉ!」


 威嚇のために口を開けるワニサラマンダー


 ここだ!


「そぉい!」


 氷結グレネードを投げ込む!

 口の中は水浸し、そして粘膜で覆われている!


 カキーン


 という音はしないんだけど、とにかく口の中を凍らせることに成功!


 火の袋があるなら凍るまではしないはず、火の息は完璧になくなったとみていい!


「アキちゃん、もう1個は持っていて、何かあったら躊躇なく投げてね。私より反射神経が良いんだから」


「はい!」


 後は、後は……。


 ワニを殺すだけの力が必要だ……。

 何かないか、何かないか……?


 そうだ!


 そうだ、私はまだお金がある! 昨日傭兵さんが稼いだ代金をまだ使ってない!


 使えるもの、使えるもの……スキルが多すぎてわからない!

 フィルタリング、一撃必殺のスキル。


 必殺スキル、『アクセス・オーバードライブ』……?

 これは初めて見る。

 システム!


【アクセス・オーバードライブ:自分の内的宇宙に接触アクセス自身の力を強制的に引き上げるオーバードライブ


 これだ! 1ドルエンしかしない……まあいい、購入!


「えい! グレネードです!」


 私が考えている間に状況は進行し、アキちゃんがワニを抑えるために氷結グレネードを投げつけていた。


 動きが止まるワニ。チャンス!


「いくよー! アクセス・オーバードライブ!」


 ――――


 ここは……? 真っ暗だけどまぶしい。まぶしいけど光がない。これが内的宇宙……?

 あれ、でもあそこに光がある。あれは……あれは……、


 私の魂だ。


 データではない、今ヨネダの接続機械でつながっている私の魂だ。


 本物の魂を、この手に掴むのか。


 行こう、私。やろう、私。さあ、来て、私。


 光をたぐり寄せ、私の魂に触れる。


 ――――


 私の魂に触れた瞬間、爆発的な力を得たと身体からだが教えてくれた。


「うおおぉぉぉぉぉ!! いくぞ!! くそったれなワニやろうぅぅ!!」


 魔導銃を抱えて、ワニの頭上高くまで跳躍する。


「ギャガガ!」


 私の行動に対して対応しようとするワニ。


「させるか! テレキネシス!」


 強大な力によって強化されたテレキネシスで、ワニを強引に縛り付ける。


「着地地点はここだぁ!」


 ズシャ!


 ちっ、ワニの頭には乗れなかったか。でもすぐ近くの背中には降りられた。

 剥ぎ取り解体用のナイフで皮膚を貫いて、それを楔にすることも出来た。

 ナイフ修練持っておいて良かったな。


 テレキネシスが切れ、大暴れするワニ。

 しかし深く突き刺さったナイフで背中にしがみ続ける。


桜花衛拳おうかえいけん!」


 アキちゃんが空間の壁を作り、押さえつける!


「わたしもうあまりもちません! 一気にお願いします!」


「まかせてぇ!」


 ナイフをピッケル代わりにして一歩一歩進み、ワニの頭上まで到達する。


「まずはこれでぇ! トリプルアタックのバッシュ!」


 スキルの上にさらにスキルを使うという反則にも近い技でワニの頭に傷を付ける。

 しかしナイフでは脳まで到達させることは出来そうにない。


「これならどうだぁ! スキル購入、トリプルショット!」


 Lv5まで取得、750ドルエン消費、これで残す手はなくなった!


「いけえええええええええ!! トリプルショットのトリプルアタックの9ミリロング!!


 「グゴギャアアア!」


 咆哮をあげるワニ、まだ死なないか!


押し切れる何か、何かないか!?


今の時間だけ氷属性付与できないかな?


ゲフッ。


また吐血する。相当な負荷が私にかかっているんだ。

すぐにやらないと。


スキル一覧を見る、【臨時購入】で便利な物がどれも安く売られていた。

これならいける。これなら


「これで、これで、終わりだ! トリプルショットのトリプルアタックの氷属性付与! オートロードも付いてる! いけえええええ!!」


ものすごい勢いで弾丸がサラマンダーの脳天をえぐっていく。弾薬無限のサブマシンガンを撃っているかのようだ


「まだまだぁ!」


ゲフッ。


また吐血する。体が悲鳴をあげているどころではなく実際に壊れてきている感じがする。

でもこいつを倒さないとアキちゃんが!

血反吐をもマジックポーションで飲み込み、射撃を続ける。


「ギュ、ギャ、ギャ」


 ワニ、いやサラマンダーは痙攣を始めた。

 中枢神経を破壊出来たのだろう。


ダダダダッッ!

ダダダッ

ダッ

ダッ


「う、うち、きった」


全てが尽きた。もう動けない。


 アキちゃんはもう気力が残っていなくて座り込んでる。

 

 これでサラマンダーがミリでも生きていたらさすがにもう無理だ。


 ビクン、ビクン、ビク……。


 動きが止まった。


「死んだ、かな」





 多分、勝った。





 ライドシステムにお知らせがあるので開くと、ものすごい人数の人がライドしていた。

 そういえばライドシステム付けっぱなしだったわ……。

 簡易コメント欄では私のスキルと職業について議論が巻き起こっていた。

 まあ、それはいいや。なんか投げ銭してくれてるし。あと少ししたら切断しよう。


「ご主人様、このサラマンダー、バグの塊です。だからこんなところに生息していたのでしょう。修復しますね」


「そっか、お願い」


「ミリル、田川……」

 なんで、なんでこんなことになってしまったのか。

 バグは私を痛めつけるための存在なんだろうか。


 私は、私は――

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