第5話レングスで一時的交代。強くなるから!

 またバスに揺られること数時間。ひときわ大きい街が見えてきた。


「でっか……」


「ラクティアで生まれた来訪人が作った”都市”ですからね。規模も大きくなります」


「ほえー都市なんだ」


 ルウラさんは物知りだったりする。


 来訪人PCキャラクターが生まれる街は四つ。ラクティア、ドエスデン、サラーシュ、カルーダー。


 その四つの街近郊にある都市は商業も工業も活発なんだそうだ。生まれてすぐのところは、すぐにやめちゃった人でもそれなりに街で活動するわけで、自然と大きな都市へと成長するみたい。


「この都市はレンズクですね。他の都市よりかは小さいですけど、それでも大きい都市、大都市です」


 そんな大都市に降り立った我ら。

 しかしまあ、大都市だけあって最初の街ラクティアとは風景が全然違いますわ。


 中央広場にある冒険者の館に向かって歩いているわけですが。

 外周の家はレンガ造りで赤いのは変わらないんだけど、中央に行くにつれてマンションらしき白い建築物が見えたり、どうみてもタワーマンションらしき建物が見えたりしている。

 エレベーターや水をくみ上げるポンプなんかは魔導エネルギーで動かしているんだろうなあ……。


 その中央広場だけど、ひろーい! めっちゃひろーい! めっちゃめっちゃっめっちゃ(略)

 そして人々が露店を出していて、めっちゃたくさんの品々が売ってる! めっちゃめっちゃっめっちゃ(略)

 中央噴水の前には変な機械が置いてあって、触ると説明が浮かび上がった。露店で売買したくないものはこの機械に登録してオークション形式で販売できるんだって! 貴重品希少品は露店にだしてると強盗にあいそうだもんね! べんりー!


 すげー! 大都市すげー! しっぽぶんぶん丸! しっぽないけど!


 すげーのを堪能しつつ冒険者の館へ。

 ……ここまで大きい都市なのに人の受付がほとんどいない。

 あるのは魔導で動く受付機械、らしい。入り口にあった案内板(どうみても機械)がそう説明している。


 ……大都市は技術発展がめざましいですなあ。


 ちなみに私は機械の受付にエラーをおこされた。

 なので人の受付にまわされました、はい。


「貴方が例のバグまみれの人、ですか」


「あ、もしかして私有名人ですか? キャーウレシイ」


「いや、褒めていませんけれども……有名人なのは確かですね。私はカオルと申します。私が専属になったので、これからなにかご用の際は私を呼び出して下さい」


 カオルさんは金髪ショートでうさ耳のきれいなおねーさんなので、何もなくても通っちゃおうかなぐへへ。本当もう大正義。


「とりあえず何をすればいいですかねえ?」


「そうですね、まずは傭兵を解雇することから始めましょうか」




 え




「ななななななんでそんなことを!」


「ラクティアの傭兵ではこの周辺の魔物に対抗できないと思います」


「えーでもでもだってー。だってー」


「この世界の傭兵は現地人が傭兵になったものです。傭兵は信用と力が命なんですよ。傭兵システムはゲームが用意したものではありません――死亡時に館へ戻る死に戻りシステムはゲームが用意しましたが――。双方の信用と信頼によって成り立っています」


「信用と信頼……」


「そうです。その上で、傭兵は命がけで雇用主を守ります。システム上死んだ傭兵は傭兵の館に戻りますが、無駄死にさせれば雪奈さんの信用が下がり、雇われたいと思う傭兵はいなくなってしまいますよ」


 それは……そうか。


「私は傭兵がいないと身を守れないです。わかりました、アルダスさんとルウラさんを館へ戻して再度違う人を雇用してきます」


「お願いします。この世界の住人はNPCと言えども全て魂を持って生きてますからね」



 まずは二人に事情を話さなきゃな。


「……ということなんだけど」


「ガハハ、まあ俺もこの先はきついなと思っていたところだ。逆に良かったぜ」


「ここから先はちょっと天引きされる割合が高くてもよい傭兵を雇うと良いと思います。今までありがとうございました」


 アルダスさん、ルウラさん……。


「ありがとうございます、、では傭兵の館に行きましょうか」


 傭兵の館は盾の前にクロスした剣がシンボル。ただ、冒険者の館みたく中央付近にあるのではなく、少しばかり街の隅っこに佇んでいた。


 中に入るとカウンターはあるものの受付がいない。ベルがあって、それを鳴らすみたいだ。


 チリーン


「こんにちはー、傭兵の契約できたのですけども」


 ちょっと待つと、中から隻眼で青いオオカミの姿をしている犬獣人の男性が現れた。獣人だからケモノの成分の方が多めの種族だね。わんわんお!


「ああ、中身入りか。なんのようだ」


「中身入り……PCキャラクターのことですかね。えっと、今2人傭兵を契約しているのでそれの雇用契約解消と、新たな傭兵の雇用をお願いしに来たのですけれども」


 犬獣人はじろじろと私を見た後、


「そうか、じゃあ帰還が先だな。そこの二人で良いのか」


「はい。今までありがとう、アルダスさん、ルウラさん」


 2人をぎゅーっと抱きしめる。小さいから子供が抱き付いているようにしか見えないな。


「じゃあ2人は奥の転送システムへ行け。お疲れさん。で、あの二人の強化訓練はすんのか?」


「強化訓練? なんですかそれは?」


「ああ、しらねえか。田舎から出てきたんだもんな」


「すいませんね田舎で」


「知らないのはしょうがないといってるんだ。俺らAIにも魂は設定されている。だからお金を払って強化の訓練のお手伝いをすれば強くなってまた雇用できるってわけだ」


 ぶっきらぼうなわんわんお! だなあ。でも強化訓練はいいぞ、めっちゃいい。


「お願いしたいです! 費用はどれくらいかかりますか?」


「お金は一律5パーセントだ。訓練だから経験値が報酬として取られる。これの割合は契約者が決めることが出来る。100パーセントまで設定できるが、2人訓練するわけだから1人50パーセントがまあ上限と考えた方が良いだろうな」

「そうですねえ、1人25パーセントでお願いします」

「わかった。デスペナルティも彼らに入る。死ぬなよ」


 どっくんときた。私は死んだらデータの藻屑だ。アルダスさんとルウラさんをデータの藻屑にするわけにはいかない。


「ええと、雇用ですね。私は来訪人と組めない状況にあるんです。2~3名ほど雇えると良いのですが」


「15パーセントの傭兵を2人、30パーセントもっていくあたりがまあ普通だが、強化訓練も行ってるしな、10パーセントを2人が無難か。中身入りが傭兵を使うなんて殆ど無いから無難もくそもないが」


「え、傭兵って使われないんですか?」


 わんわんお! は若干遠い目をしながら、


「ああ、今となっちゃ中身入りの方が何もかも上だからな。傭兵なんざ古いシステムなんだよ。お前さんも2人雇って20パーセント持って行かれるのはきついだろう。普通のパーティなら分けてもパーティ資産は増える、しかし傭兵は天引きだから損失でしかない」


「な、なる、ほど。2人で十分です」


 というわけで傭兵を2名雇用。

 雇用した2名は、


「遠距離なら私に任せて。魔導ショットガンで全てを撃ち抜くわ。ミリルよ、よろしくね」


「敵を切り刻み、かつ味方の回復をするならば私の出番だ! 田川です! やばいよやばいよ」


 ショットガンという心強い装備を持った遠距離のミリルさんと、回復兼前衛の田川さん。


「みなさんよろしくお願いします。来訪人なのに死ねない雪奈です。やばいねやばいね」



 メンツはそろった! まずはこの都市でお金稼ぎをするぞ! みんなのために!

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