第4章 冬~winter~
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そして季節は冬になり、可愛い花を咲かせていたプロヴァンスの街も、なんとなく寂しい雰囲気になった。日本の中でも暖かい地域で雪が積もることも滅多にないけれど。山の上にあるプロヴァンスは、例外的に毎年雪が積もる。
「だから、雪が溶けて滑りそうで家に帰るのが怖いよ」
と、さやかはいつも言っていた。夏紀の家があるところまでも坂道ではあるが、そこから先は傾斜が急になる。
「それで、さやか、お願いって何?」
十一月上旬の日曜日、夏紀を訪ねてさやかがハレノヒカフェにやってきた。夏紀はハルとの演奏を終えてから、さやかとカウンター席に並んだ。
本当は夏紀より恵子やハルに話があるそうで、恵子は調理をしながら耳を傾けた。ハルにも同席をお願いしたけれど、なぜか彼は店内にはいない。
「結婚式のことなんだけど」
「そういえば、もうすぐだね。いつだっけ? クリスマスだった?」
夏紀がハルと関係をこじらせている間に、さやかの結婚式の日が決まっていた。たくさんのプランを考えた結果、式は親戚だけで簡単にすることに決めたらしい。
「そう。十二月二十三日、大安なの」
「へぇ。空いてて良かったね」
「それで、次の日、土曜日に二次会をしようと思うんだけど……」
さやかは一旦店内を見回し、ハルの姿を探した。けれどやはりどこにも見当たらず、最後に恵子のほうを向いた。
「ここ、使わせてもらえないでしょうか」
「あら! 私は大歓迎よ。オーナーは……ちょっと、呼んで来るわね、まだいるはずだから」
ハルはいつも車で来ているから、帰るとエンジンの音ですぐにわかる。
というか、夏紀と仲良くなってからは、いつも「乗る?」と声をかけてくれる。もっとも、ハルがどこに住んでいてどういう名前なのかは、まだ夏紀しか知らないけれど。
「さやかちゃん、OK!」
「別に俺に聞かなくても、城崎さんで良いのに」
ハルは店の奥で話を聞いていたらしく、何も問題ない、と二次会での使用に許可を出した。
「料理は任せて。あ──でも、当日、俺いるかわからないから、作るのはテツになりそうだけど。BGMは希望ある?」
ハルがモデルだということは、既に本人から恵子と徹二にも伝えられていた。今まであまり店にいなかったのも、撮影のためだと明かした。
「特にないんですけど……」
「それじゃ、それも任せて。あとは──人数、早めによろしく」
テキパキと話を進めるハルを夏紀は感心して見ていた。
本当に冗談抜きで羨ましいほどに、ハルは何でも完璧にこなした。夏紀と仲良くなってからは、徹二も「心を閉ざしている」とは言わなくなった。
「夏紀が羨ましいな。あんな素敵な人と一緒にいられるなんて」
「ちょ、ちょっと何よ、私、ハルさんと何でもないよ?」
ハルとの軽い打ち合わせを終えてから、夏紀とさやかは窓際の席で話していた。カウンターからは遠いので、ハルには聞こえていないはずだ。
「え、そうなの? なんだ、仲良いからてっきり……。彼女いるのかな、オーナー」
「……いないと思うよ。いたら、私と一緒にいないでしょ」
「そっかぁ、でもさ、本当にそんな話しないの? 夏紀、オーナー見てるとき目がハートだよ」
夏紀は本当にハルとは付き合っていないし、個人的に会っているのも、ピアノ教室のピアノを使っての練習以外にない。ごくたまに、二階の部屋で話すことはあるけれど、それも音楽の話以外にない。
「向こうからは、言われてるけどね」
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