第30話・盾は嫌いだ


 日が昇り、周囲を捜索するもコボルトは見つからず、外にコボルトが居なければ狭い通路で挟まれる確率が減ると考え、洞窟に入るつもりで向かっていた。


「また居るね」


「だな」


 向かった洞窟の入り口には今日もコボルトが立っており、しかも昨日とは違い何故か皮らしき繊維の胸当てを着けていた。


 それを見た俺は、慎重に行くなら既に入りたくない気持ちが溢れていた。


(防具もあるのか、嫌な相手だな。これで鉄製の甲冑を持ち出されたら、俺は無力だ)


「リア頼んだ」


「えっ、私?」


「うん」


(狭い通路なら、リアの壁で塞ぎながら、俺が時間をかけて減らして行くか)


「頭狙って良いんだよね?」


「鎧を狙う必要は無いぞ」


「うん、わかった」


 リアの氷をくらった二匹のコボルトが、氷と岩壁に頭を挟まれ。いつもなら何処までも飛んで行く氷の威力を、コボルトの挟まれた頭部が血を流し、形を変え引き受けていた。


「おつかれ」


 見張り役を倒し近づいた洞窟は、前に入った洞窟同様に暗く。


 その奥は肉眼では観えない程に暗さが漂っていた。 


「やっぱり、洞窟の中は暗いわね」


「前も洞窟に入ってもらったのに、ごめんなリア」


「大丈夫よっ、冒険者になるならこれぐらい慣れないといけない訳だし」


「ありがとう、リアならその内慣れるよ」


 松明を片手に暗い一本道を進み、周囲の壁が薄っすらと光るが、以前の洞窟の光量には満たず、松明を持ち続けていた。


「おっと、さっそくコボルトが来たぞ」


 一本道の洞窟で、進行方向から二匹のコボルトが走って来たことで、その足の爪が岩に当たる音が早い段階で聴こえ、待ち伏せていた。


「リアは待ってて」


 無駄に音が響く洞窟で騒がれても厄介だと考え、矢を三本右手で持ち、弓を構え走って来るコボルトが、声を出す前に仕留める。


 やはり予備で持ってても今の所、予備を使う場面には遭っていない。いつかのコボルトが屈んだ事がイレギュラー過ぎたのだ。


「よし、完了っと」


 暗闇から姿を現した途端に矢を放ち、一本道とはいえコボルトが俺の姿を視認出来たのかは分からないが、吠えられる前に二匹とも倒せていた。


「ディオ、この矢をもうダメみたい」


 俺とリアでコボルトに刺さった矢を抜き取り、いつもみたいに再利用しようとしていたら、リアが抜いた矢の鏃がもう使い物にならない程に壊れ、例えその矢を放っても敵に刺さらないと思える形状をしていた。


 これまで矢は使いまわして来たが、異空間が無かった為森に入った持に持ってきた矢は二人で二五本、残りの使える矢はこれで一四本だ。


(次に矢を補充する時は、可能な限り異空間に入れてやる)


「まぁ随分と保ってくれたさ、仕方ないよ」


「なら、次からコボコボが来たら私が、倒す」


「お言葉に甘えるよ。リア頼んだよ」


「まかせて」


 リアにコボルトの討伐を任せて俺達は洞窟を進んでいた。すると少し広い空間に出たと思えば目の前には道が二つに分かれ、どちらも斜めに奥に向かって伸びていた。


「どうしよっか」


「俺達が今来た、出口に向けて俺が魔法で矢印型の目印を作るよ。それで、俺達はとりあえず右の方に進もう。これでこの先分かれ道の度に出口の方に矢印を向けて作っていけば、最悪迷っても出られる」


「でも、矢印何個出すかわからないのに、大丈夫なの?」


「まぁ、百個ぐらいなら全然大丈夫だと思うよ、そんにでかい目印を作るわけじゃないしさ」


 俺はそう言って十五センチ程の透明の矢印を作り、部屋の中央付近の天井に貼り付ける感じで置いた。魔力強度には自信がないからいちいち地面に置いて、コボルトに踏まれて壊されたら、悲しい未来しか待っていないからだ。


 そして右の道に入って行く。



 右のルートを進んでいると、コボルトとの遭遇が三回も起こり、今はまた分かれ道の部屋に立っていた。


「リアどっちが良いと思う?確実に少しづつ洞窟を把握するなら、全ての分かれ道で右を選んで、行き止まりだったら一個戻って残りの道を進むやり方と、適当に選んで、とりあえず進むやり方があるが」


「んんん、右一択かな」


「分かった、なら今来た道の方に矢印を向けてっと」


(まぁ右一択の方が、人間は左側を選びやすいから、焦って逃げる時もリアが自然と左を選んでくれれば出られるだろう)



 右のルート一択と決め進み。


 四回程分かれ道を右に進んでは、道中でコボルトを十匹は倒している。


 そして今はこれまでより大きい部屋に足を踏み入れ、俺とリアはコボルト六匹と威嚇状態で向き合っていた。


 何故こうなったかと言うと、部屋に入ってまた分かれ道と思っていたら、コボルトが部屋の端に居て、ばったりと遭遇したのだ。


「「「グルるるぅ..」」」


「ねぇディオこのコボコボ達、盾と剣、持ってるよ!ズルいっ」


 急な遭遇戦で接近を許している上に、待ち伏せを疑いたくなる程に向こうは装備を整え、槍のコボルトが二匹に加え、剣持ちが四匹に内三匹は盾も反対の手で持っていた。


 今まで遭遇していたコボルトは基本は棍棒で、見張り役が槍を持ち。動き回ってる奴がナタらしき物を持っていたが、目の前に居るコボルト共は明らかに戦闘目的の集団と言えた。


「リアはまず左の三匹だけに集中して倒してくれ」


 盾を持っていない左側三匹をリアに任せ、時間がかかりそうな残りを俺が足止めしながら、リアの援護を待つつもりだった。


「わかった」


「「ヴァン!!」」


 装備を持っていても身軽なコボルトコボルト達が一斉に走り出し、リアが慌てて「アイス・バレット」を放ち、弓を構えた俺も矢を右の三匹に向け放つ。


 がしかし――三匹全てのコボルトに、頭を狙った矢を盾で矢を防がれ、減速すら垣間見えない間で、再び迫っていた。


(ちッ、これだから盾持ちは――)


 俺は再度矢筒から四本の矢を取り出し、右三匹の左端から二匹に向かった矢を構え、一射目と二射で二匹の頭狙って放ち、三、四射目で、そのコボルトの膝を狙っていた。


 頭を盾で守ったコボルトは自身の視界を盾で遮り、矢の軌道が見える筈も無く矢が一匹の膝に命中していた。


(嘘だろッ⁉)


 そして膝を狙ったもう一匹のコボルトは、頭を狙った矢が盾に当たり音が鳴った途端に姿勢を下げ、予測で盾を下に構え身構え防いでいた。


 一匹は足を負傷し、もう一匹が盾で防ぎ止まっている間も進み続けたコボルトが近づき、左端の三匹が宙を舞っているのを目にした俺は、弓を放り投げては間近に迫っていたコボルトに向かって剣を引き抜いていた。


「ッ‼」


 迫ったコボルトの頭上から、叩き割る勢いで剣を振り下ろす。


 だが盾を持っているコボルトは、姿勢を少し下げては盾を上に構え俺の攻撃を受け止め、もう片方の手で持っていた刃こぼれした剣を、無造作に振った、


「グゥゥッ!」


 地に張り付くかのような自重を背中に移し、身体を後ろに反らせて飛び退き、横から迫ったコボルトの剣が、揺らめいた服を掠めかけていた。


(両手で振り下ろしてるのに、片手の腕力で防ぐってありかよ!)


 後ろに飛んで避けた俺に、ジャンプしたコボルトが、真似る様にして剣を上から振り下ろしてくる攻撃を、横に動いてかわす。


 コボルトは振り下ろした剣が地面に固くめり込み、硬直したコボルトの頭目掛けて右手で剣を振るうが、コボルトはそれすらも盾で防ぎ、振り下ろした剣が盾で受け流され俺は体勢を崩していた。


(やば……)


 地面にめり込んだ剣をコボルトが引き抜き、隙きを見せた俺にまたもや仕返しとばかりに剣を振るってくるが、コボルトと違って俺は盾を持っておらず、咄嗟に横に飛び避けようとするも避けきれず、横腹辺りの服が切られ血が滲み、皮膚をも斬られてしまった。


 咄嗟に飛んだとは言え、リアの射線上を塞がない右側に飛んだのは良いが、そこには盾で二射連続防いだコボルトが迫っており、真横と真ん前で二匹のコボルトと対峙する形になっていた。


(まじかよっ、俺ピンチじゃね?)


「アイス・バレット!!」


 洞窟にリアの声が響き、目を向ける間もなく直径一メートルはあろう大きな氷の塊が、二匹のコボルトを吹き飛ばし俺の視界から消え。


 数メートル飛んだ先で、体を広げ倒れていた――


「お、おう、リア、あり、がと。そっちは大丈夫だったのか?」


「うん、こっちのはいつも通りだったよ。ディオのは盾で防がれたら面倒だから、大きいので攻撃したけど、倒せて良かったね♪」


「そうか。それで悪いけどもう一匹居る」


「え?倒したよ?」


 今吹き飛ばしたのは二匹なのに、不思議な事を言われ。


 足を負傷し動きが止まっていたコボルトを探しても、見当たらず。大きな氷だけが鎮座していた。


(押し潰しましたか、あははははっ…ほんと、凄すぎますって)


「リア悪いけど、少し休憩しよう…ちょっと疲れたし、血も止めたい」


「わかった、ディオ大丈夫?」


「あぁ、怪我事態は大した事ないから、大丈夫…」


 怪我は大丈夫だけど、今の俺は精神的に辛かった。



――実は俺の強さとは「モブキャラ」なのではないだろうか――


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