第31話


 コボルトとの戦闘で俺が怪我を負い、リアの魔力の回復も相まって暫く休んでから進もうとすると行き止まりだったらしく。


 一つ前の分岐に戻ってはもう一方の道を進み、また分岐があれば右に進み、行き止まれば一つ戻って残された方に行き、再び右一択で洞窟を進み続けていた。


「ディオ、そろそろお腹すかない?」


「そうだな、ご飯にするか」


 そしてリアが眠くなったら眠り、お腹が減ればご飯を食べる。


 何度と分かれ道を通り、何百回と分岐を繰り返し、日が届かない洞窟ではどれ程の時間が経ったのかすら分からず、眠気の来ない俺はリアの睡眠回数で日を数え、現在で五日は彷徨っていた。


「また、行き止まりだね」


「一個戻ってまた進もうか」


 そしてまたいつもの様に戻っては進み、コボルトと接敵しては、リアの魔力量が問題なければリアが倒し、戦闘が頻繁に起これば俺が倒す事を繰り返していたら、道を進んだ先にいつもとは違う空間を見つけていた。


「なんか、この場所大きいね」


「うん、今までのとは比べ物にならないな、ちゃんと周りを見てから入るか」


 以前変わった空間に出たと思えば、コボルトに待ち伏せにも近い状況で遭遇した事を忘れず、俺とリアは中にコボルトが居ないか少しずつ覗き込み、居ないことを確認して入っていた。


 だけど来た道と奥に続く道の丁度真ん中、部屋の中央に俺とリアが辿り着くと、来た道からは数えるのが馬鹿馬鹿しい程のコボルトが溢れ出て来、奥の道からは防具を身に着け盾を持ったコボルト六匹に加え、二回り以上は遥かに大きいコボルトがずっしりと重く歩いていた。


(なんだよあれ…)

「リア来た道を塞いでくれッ‼」


 リアに指示を出し、挟み込まれる事態は避けようとし、


「うんっ、貴氷城壁」


 前を塞いで来た道のコボルトを相手するには、リアの壁をあの図体のでかいコボルトが壊せないという保証も無く。次々に溢れるコボルトよりも、前の六匹とでかいコボルトを倒す方が良いと考えていた。


「インパクトッ‼」


 突き出した手に無我夢中で魔力を流し、魔法を練り上げた。


 あの戦闘以降、低出力で練習はしててもそれは魔力の放出を繰り返してるだけで、インパクトとして魔法を行使するのは数度目だが、その変化は露骨だった。


 手の平で収まっていた筈の受けの小皿は皿という大きさを超え、胸の高さで構えた筈の手の中心から皿は膝下にも達していた。

 

「ちょっ!!ディオそれ大丈夫なの!???」


「リアごめん、大丈夫じゃないかも…」


「ディオのバカぁあああああああ!!!!!!」


 巨大な皿の前に、蹲った子供よりも大きな無透明の球体が現れ、瞬く間に拳よりも小さく圧縮しては目にも見えない速さで膨張した球体が、風圧となって敵に向かって行く。


 そんな球体の風圧を受けて俺も無事で済む訳はなく、一秒は奇跡的に耐えたものの吹き飛ばされ地面に転がり、前方に居た六匹のコボルトは吹き飛ばされ壁に衝突して尚風圧に押され壁にめり込むんでいた。


 そして図体のでかいコボルトは、その巨体をもってしても耐えられず後ろに飛ばされ壁に背中から当たっては、風が柔いだタイミングで前のめりに倒れていた。



――

――



「嘘だろ…」


 俺は吹き飛ばされた先で、壁などに当たらなかった為ダメージは少なく。立ち上がりながら吹き飛ばしたコボルトに目を向け、六匹のコボルトが動かない中で起き上がった巨大なコボルトに視線を奪われていた。


「うそ」


 意識を来た道に割いているリアも振り向き、コボルトの見ては起き上がろうとしていることに驚いていた。


(普通ありえないだろ、普通のコボルトが岩石にめり込む威力だぞ?なんでお前は起き上がろうとしてるんだよ)



ピキっピキピキッ――


「うそ氷が⁉」


 氷が割れたかのような音が断続的に続くも、その音は氷のある方では無く、頭上から鳴っている様に聴こえていた。 


「違うリア、これは岩石にヒビが入っている音だ。崩落するぞッ」


「もぉおお、ディオのバカぁああ!どうするのよ!」


ピキ、ドンッ―――


 亀裂の入った足場の岩石が限界に達し、瞬く間に足元の地面一面に亀裂が走ったと思った直後に、巨大な岩と岩の間が広く空き一瞬にして足場が宙に浮き、その上に立っていた俺とリアは岩と一緒に落ちていった。


「「ああああああああ」ディオのバカぁあああああああああ!」



――

―――

――

 


「リア大丈夫か?」


「大丈夫、生きてるよディオ」


「良かった」


 咄嗟に俺とリアを四角くい箱のイメージの魔力壁で覆った事で、後から降ってきた岩に押し潰されず、落下の衝撃からもなんとか生きていたけれど、落下の衝撃を全て消せる訳もなく、身体中痛みを伴っていた。


「上が見えないね」


「あぁ、俺のせいでだいぶ落ちちゃたみたいだ」


 軽い俺達は、落下する岩の比較的上の方に居たから生き埋めにはなっていないが、天井の方を見てもその先は何も観えない暗闇だ。


(まさか塞がっているのか?あの場所の全ての地面が落下して両方の入口付近も崩落してるなら、ここを無理やり登って脱出するのは無理だな)


「先に上に乗っかてる岩を退かして、魔力を解きたい」


「ちょっと待っててね」


 頭上に作った大きな氷が他の岩を押し退け、頭上に大きな岩が無くなってから、魔力を解いた。


「しばらくは休もう、魔力がもう空っぽだ」


「私もほとんどないから、賛成~」


 魔力が無い今は普通のコボルトですら戦闘を避けたく、俺とリアは魔力が回復するまで数時間、そのまま岩の上でへばりつく様に横になって居た。



――

――



 それから俺達は何度か登る事を検討したが、上が見えないため諦め落石したこの空間の周りを歩き、下の空洞に元々あった道を見つける事が出来たのでそこから進んでいた。


 その時に一応この地点に向けて矢印を作っていたがあれから歩いても、歩いても、コボルトすら遭遇せず、俺とリアは二人だけの洞窟を彷徨っている感覚に陥っていた。


「私達、もう何日洞窟を歩いているんだろうね」


「う~ん、どうだろう二周間ぐらい?かな」


「え、嘘、私の感覚では三週間は居ると思うんだけど」


(まるで「デ〇ープタ〇ム」実験を受けているようだ、こんな生活は流石にそろそろ終わりたい)


「なにそれ?」


「ごめん、なんでも無いよ」


 食料は肉屋を開業出来る程に所持している為、底を尽く気配は無くとも、脱出の目処が立たなければ精神的に辛いのはリアだ。


 どれだけ移動してもモンスターすら居らず。


 分かれ道も減り一本道をひたすら歩く事が増えていた。


(このまま進めば、どこかに出られるかもしれないが、行き止まりだった時はまた長い道を戻っては進むしかない。そもそもあの落下地点で実は埋もれて道があってそれが唯一の脱出ルートなら、かなり辛い)


 進む先はいつも、松明の明かりが届かない程の闇。


(でもまぁ自然的に出来た洞窟だろうと、人工的もしくはモンスターが作った道だろうと高確率で外に繋がっている筈だ、それを信じて今は進むしか無い)


「ねぇディオ、考え事も良いけどさ、新しい魔法も考えてよね。インパクトみたいなのはもう嫌だよ」


「面目ございません。頑張って魔法を考えます」


(本当に情けない、俺…)


「うむ、よろしい励むが良い」


(リアのキャラが変わってきてる、この閉鎖空間の様な洞窟が影響してるのだろうか、何ならそう思いたい…)


「でもさ、インパクトって威力凄かったけど、あの大きいコボコボ生きてたね」


「俺も驚いたよ、まさか生きてるなんてってさ――」


(そういえば、彼奴は死んだのか?恐らく生き埋めになったと思うが、まぁもし生きてても戻れなければ食料も無く倒れているか)


「やっぱり単体で強い敵には、威力が分散しない攻撃が欲しいな」


「だから、それを考えるんでしょ」


(俺のあの攻撃は、遠くに居る敵に向かって拡散弾を撃ってる感じだけど、普通の剣士とかってそもそもあのサイズのモンスターが出てきたらどうやって倒してるんだろうか、謎だ…)


 俺は考え事をしながら歩き続けた。



――

――



「また行き止まりだね」


「あぁ…」


 これで何回目だろう、道幅よりほんの少し広い空間に出たと思ったら道など無く、行き止まりだった。


「ん?リア、なんかあの壁の所少し明るくないか?」


 壁に少し明るみがあり、その辺りの石を手でどかしたら、奥から一センチ程だが光が差し込んでいた。


「ディオ、外の光だよ!!」


「ようやく、外に出られそうだ!」


 俺は急いでリアに指示を出す、外に出られるかもしれないんだ!


「リア、氷で目の前の壁以外のこの空間を氷で覆ってくれ、俺が前をインパクトで飛ばす」


「また!インパクト!??今度は加減してよね…」


「大丈夫だ、たぶん…」


 リアが嫌そうな顔をするも他に方法がない今は、インパクトを加減して撃ったことがなくともやるしかない。


 リアの魔力が空間を覆い、氷が壁に張り付いてから、


「インパクト、」小声で加減したつもりで放つ。


 ちゃんと加減されたみたいで、皿の大きさは三十センチ程だった。


「ちょっと!それやりすぎぃいッ‼」


 とても生易しくない爆音が鳴り響き、耳を抑えたい気持ちがあっても目の前で吹き荒れる風と、舞う石や砂を防ぐ為に腕は顔の前で構えていた。


 眩しい光が腕の隙間から見え、無事に目の前の岩壁が吹き飛ばされた場所は、人が通れる程の大きな穴が空いていた。


 そして俺とリアは、久しぶりに見る眩しい太陽の光から、手で目を守りながら外に向かって歩き出していた。


「まぶしぃ」

「まぶっ」

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