第29話・情
「おはよう、よく眠れた?」
「うん。ぐっすりだった。いつもありがとうね。ディオは寝なくて大丈夫?」
「問題ないかな、でも眠くなったら言うからその時はよろしく」
「任せて、わたしがしっかり見張り役するからっ、いっぱい果物出しててね」
(絶対見張りは二の次で、俺の目を気にしないで食べまくる気じゃんか。でも結局俺が果物の出し入れするから、大体の数は把握出来るんだが、余計な事は言わないのが、長生きの秘訣だ。人生二度目でミスはしない)
「なら今日も果物、探すか」
「うん」
リアがゆっくりと目を覚ますのを待ってから、動き出し。
岩場を後にしてから洞窟から離れる方向に向かい、他に洞窟の入り口が無いか、他のコボルトの群れが居ないかの確認を行いながら果物を探していた。
「コボコボ全然居ないね」
リアにコボコボと名付けられたコボルトの姿は見えず、森と何処まで続くのか不思議な岩壁の間を俺とリアは進んでいた。
「やっぱり、入り口はあの場所だけで、生物が生活している周りに必然的に果物もあるのかな」
「どうして?」
「だって、果物が取れる近くに洞窟があった方が便利だろ」
「あの洞窟ってコボコボが作ったの?」
「大抵の場合は、人間が大昔に放棄した廃坑がにコボルトが住み着いて拡張するか、一からコボルトが掘って作る事があるらしいけど、多分この鉱山は大昔に人が作ったやつ」
「なんで分かるのよ、コボコボが頑張ったかもしれないじゃん」
「入り口が過剰に大きかったからな。コボルトの背丈じゃ手が届かないと思うし、人なら空気の流れや認識的に大きく作りがちだからな」
「そうなんだ、ディオって物知りだよね」
横を歩いていたリアが身体を斜めに倒し、前から急に覗き込んできた事で顔が近く少し驚くも、それとない言い訳は事前に考えてある。
「俺が眠れないからな、昔から母さんと父さんが、これでもかってぐらい話し続けてくれるんだよ」
「カルアさんも物知りだもんね」
リアの言う通りカルア母さんは当たり前に博識であり、カルア母さんだけで無く冒険者としての知識に留まらずアギト父さんもまた、豊富な知識を持つ人物だ。
(あの二人、いつも若々カップルの様な感じなのに、凄いんだよな…ほんと感謝しかない)
「果物発見!」
目先に何かを見つけたリアが走り出し、慌てて追いかける。
いくらコボルトとの戦闘がおきていないとは言え、果物があれば他の生物がそれを元に生活を築いている可能性は大いに高く、離れすぎるのは危険だ。
「少しは警戒してって、リアっ」
「わかってるって」
前を向かって走ったまま言葉だけが後ろに投げられ、果物が実っている木に辿り着いたリアは早速手で掴み取ってはカバンに放り投げていた。
「果物、果物~」
「分からない果物を取るなら、絶対気をつけろよ!良いな」
「うん」
返事だけは素直なリアだが、果物が関わっている為信用せずに横目で監視しながら俺も果物を集め、緊急時の取引材料か機嫌取り役立てようと考えていた。
(何があるか、分からないからな。もしかしたら果物が俺の命を助けてくれるかもしれない)
――
――
「あっ、コボコボだ」
果物を集め続けていた俺とリアから少し離れた場所には、一匹のコボルトが静かに木に手を伸ばしては果物を取り、ゆっくり食べていた。
「なんだか、あのコボルト寂しいね」
リアが言わんとする事はわかっていた、他のコボルトが周りに居ないのは勿論だが、そのコボルトの一挙手一投足の動作が、端に追いやられた者の雰囲気を醸し出していた。
「コボルトにも関係とか、社会構造があるんだろうな」
(それで言うと奴は最低辺か、独りを好む者だろうが、生かしておくメリットは無い)
「仕留めよう」
「うん…」
「俺が仕留めるよ」
(リアの負担は少しでも減らす、それにその感情は、今は考えなくて良いものだ)
丁寧に狙った一本の矢が、独りのコボルトの命を貫き通す。
「リアは、この辺で果物を集めててくれ」
「うん」
倒したコボルトに俺一人で近づき、異空間に入れようとゆっくり動かした時だった、コボルトが身に寄せ抱えていた果物が地に落ち、転がった。
(何だよ、誰かに上げる物だったのか――)
感情が入り切る前に異空間に入れ込み、思考を軽くするも、やはり二足歩行の生物であり背丈が似ているコボルトに対しては、情を抱きやすいといえた。
―
―
午前中の内に洞窟の入口付近に向かい、コボルトと遭遇しては俺とリアが交互に戦い。リアの戦闘を見ていたが、初撃は間があるも二回、三回と戦闘を行う頃にはいつも通り、コボルトに攻撃をしかけていた。
「アイス・バレット」
リアの攻撃を受け五匹のコボルトが倒れ、この短時間で二五匹は倒し、遠目で洞窟の入り口に目を向けていた。
「昨日はいなかったよね」
「あぁ、居なかった」
昨日とは違い洞窟の入口の左右にはコボルトが立ち、見張り役なのか、見慣れない槍のような武器をしっかりと持っていた。
「入るのは止そう」
「あのコボコボは?」
「勿論倒す。すぐにいっぱい出て来るかもだから、油断するなよ」
「わかった」
例え槍を持っていようとも、防具をつけないコボルトは仕留めやすい的には変わらず、二本の矢を手に持った俺は、一射、二射と、確実に倒していた。
「暫く様子見だ」
俺なら見張り役が見える位置に見張り役を重ねて置くが、人員を割けなかったのか、見張り役が倒れても直ぐに変化は無く。
根比べとも言える程長い時間が経って、新たに外に出てきた五匹のコボルト達がやっと気づいては、血相を変えて洞窟の中に戻っていった。
「良かったの?帰して」
「元々誰かがコボルトを倒してるのは知れ渡ってる、今更止めても無駄だよ。それよりは洞窟から出てくるのか、中で籠もるのか気になる」
「ねぇいつまで待つの?」
―
「ねぇ、ディオってば」
―
「ご飯ー」
―
「出て来ないね」
―
「来ないねぇ~」
―
「お昼寝とか」
―
「もう夕方だよ」
―
「もう寝たんじゃない?」
―
「私達も帰ろうよ」
一日中見張っていてもコボルトは出て来ず、辺が暗くなりかけてきた段階でリアが帰ろうと言い、見張りを終え、仮拠点に戻っては日を終えていた。
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