第28話・コボルト狩り


 その後も考え続けた俺は、洞窟から少し離れた場所の岩場を仮拠点にして、洞窟に入る前に外に出ているコボルト達を狩り続け、その個体数を減らし。異変を感じ取ったコボルト達が洞窟から沢山出てきても、洞窟という限られた空間で戦うよりは遥かに良いというものだ。



 仮拠点の場所は、視野が広くとれ人の背丈の倍の高さの岩場は、洞窟の壁沿いに進んでいけば、切り立った岩壁の中から人が座ったり出来る場所が自然と限られ、余り悩まずに決まっていた。


 異空間に大抵の物を仕舞っている俺達は、仮拠点に置く荷物なども無いので目印をつけては森に入り、コボルトを探し始め。洞窟が近い為かコボルトと五分もしない内に見つけていた。


「リア休んでて、頭なら弓でも大丈夫だから」


 リアと俺の戦い方は先手必勝一撃で仕留める。


 その為、コボルトからはまだ反撃を受けておらず、戦闘能力も依然未知数と言って違いない、けど危険を犯してまで接近を許す気は無い。


 最初に攻撃して倒し続ける事が、一番安全に狩りを続けられるのだから。


(ヘマはしない…)


 弓のLvが4になったお陰で、以前よりも正確に狙った所に矢が当たるようになった気がし、俺は確実にウルフ達やコボルトを仕留める事が出来ている。


(そりゃ眉間に矢が刺さって、生きている小型モンスターなんていないだろう)


 俺は弓を構え、変わらず冷静に、矢を放つ。


(やっぱ。構えて集中してる時が、緊張する…)

「あれ、」


 矢を放ったつ瞬間にコボルトが屈み、足元のリンゴを拾っていた。


 その動作に何ら問題は無く、食べ物を拾う動物的な本能というか食事を考えれば普通だが、問題はタイミングだ。俺が放った矢が当たる直前にコボルトが屈んだ事で、頭を狙った矢は外れていた。


 そして矢が間近の木に突き刺さり、コボルトは矢を見てから飛んできた方に、首を動かしては俺の存在に気がつく。


「グルぅぅううう、ワンっ!!!」


(なんでこんな事になるのさぁあああ!!!!)


「アイス・バレットっ!」


 コボルトが吠えた直後に、即座に動き出したリアが魔法を放ち。


 こちらに向かって走り出そうとしていたコボルトは、後ろに宙返りしながら吹き飛び、首がおかしな角度で折れ倒れていた。


「リア様、あなたは優秀過ぎます、ありがとうございます」


 俺はリアに向かって座り、頭を下げてお辞儀していた。


(あぁ神よーなんて優秀なリア様、もう一生ついていきやすっ)


「何やってるのよ、まったく…休憩出来なかったじゃない」


「も、申し訳ございません。次こそは役にたてるようにがんばりますので」


「ディオが壊れた。ディオ、変なものでも食べた?、ねぇ大丈夫!?元に戻るよね?」


――やはり、この辺には人を変える何かがあるのかもしれない――




 俺はあれから数分の時を経て、元に戻ったとリアに報告した。


(てか、それにしてもあのタイミングで、たまたましゃがむとかありかよ!あのコボルトめ、でも次からは気おつけないといけないな、課題が増えた…)


「本当に大丈夫なの?」


「おう、元通りだ」


 話しながら森の中を歩き、コボルト二匹見つけ。


 俺の方を一回観ては、視線をコボルトに戻したリアが魔法を放とうとしたので、その攻撃を俺は止めていた。


「大丈夫だ、今度こそ任せてくれ」


「でも二匹も居るよ?」


「あぁ、大丈夫だと思う」


「なら良いけどさ、本当に大丈夫!?でも、もし外しても。わたしがカバーするから安心してね?」


(なんだか自分が心底情けなく思えてきた。ただでさえ劣っているのに、頼りにもされなくなってしまえば存在価値が無いというものだ。だが、とりあえず今は目の前のコボルトに集中しよう)


「ありがとう」


 保険をかけてくれたリアにお礼を言い、俺は弓を構え矢を手に取る。


 いつも通り一本セットして構えるが、矢を引いている右手の小指、薬指、中指で他の二本の矢を挟み持つ、弓のLvが上がった効果だと確信していた。以前ならこんな事をしてたら邪魔で気が散り、狙えなかったが今は違う。


 俺は一本目の矢を右側のコボルトに放ち、即座に中指と薬指で挟んでいた矢を人差し指で上から被せ巻取り、それを親指で引くように持ち構え放つ。


 敵に矢を向けて狙いを合わす時間なんて、あってないようなもの。

 一矢目を放ってから二矢目を放つ間の時間は、一秒を僅かに超すばかりだ。


 左側のコボルトは、仲間のコボルトに矢を刺さったのを見て横を向いた瞬間、その側頭部に矢が刺さり倒れていく。


 三本目の矢は保険で持っていたが、やはり。先程の同様に偶然屈むなんて事がそうそう多発されては、弓を使うものとしてはたまったもんじゃない。


「ええっ!そんな事も出来ちゃうの!?ちょっと、反則じゃなんっ!」


(何が反則なのでしょうか、俺からしたらアイス・バレットでどんどん敵を吹っ飛ばしているあなたの方が反則だろ)


「反則じゃない、技術だ」


 少し威張る様に言うが、能力Lvの恩恵が無ければ二発目の矢は当たらなかったかもしれない事実が、脳裏に浮かんでいた。


「わたしも負けてられない!」


(ん?リアさん。これ以上何をそんなに頑張るつもりで?俺の出番がなくなってしまうではないか…)


「程々にな?」


「がんばるぅ!」



――

――



 それから暗くなるまで、俺達はコボルトを狩っていた。


―その数二七匹―


(洞窟が近いからか、かなりの数が居たと思う。いったい洞窟が巣なら中にどんなけの数が居るというのだね)


 とは思うものの、考えなくとも百という数字が頭に浮かんでは思考を切り、今は岩場の周りを俺の魔法で覆いながら休み、夕食を食べている。


 リアは少しの肉と果物をメインに、俺はその逆で肉を多めに果物を少々。


 果物がどれだけ取れるか分からない今は、肉で構わない俺は遠慮していた。それにウルフ達の肉は普通に美味しい!試しにコボルトの肉も焼き、口に入れてみたけど、とても食えたものでは無かった。


(一言で言うなら、不味い。に限る)


「明日は午前中に外のコボルトを討伐して、今日と比べて数の減り具合で考えて、洞窟に入ろうと思ってるけど良いかな?」


「わたしはディオが決めたんなら、それで良いよ」


「ありがと」


 ご飯も食べて他にやることもないリアは、昼間の疲れが溜まっていたのか、いつもなら何かしら話して寝ていたが、今日は直ぐに寝てしまっていた。


(俺はもちろん不眠不休で見張りだ、この身体はその手の役目なら完璧に適しているからな、リアの安全は守るぜ!)


 内心息巻いたものの、森は静けさで満たされており。


 現状コボルトや他の魔物が襲って来る気配は無く、いつも通り魔法を考え始めるが、異空間を手にした時から考え考え続けているが、やはり新しい魔法はそう簡単に思いつくものでは無かった。 


(俺の能力って、偏ってる言うよりは使い勝手が悪い。極端に言えば無属性が稀で情報も少なく、他の属性と類似点が少ないのが難点だ…)


 アイス・バレットを真似して魔法を放つにしても、固体でも液体とも断言出来ない無属性では既存で強度が弱く、相手にぶつけても威力が余りでない。


 魔力放出はLvが高いが、Lvが高くても力任せに全力で魔法を使っては、ただの燃費が悪く効果を伴わない技が完成してしまう。だから俺はリアよりも圧倒的に高い魔力操作を活かした技を考えた方がきっと良い技が出来ると考えていた。



(何かないのかな、近距離でも戦えるような――)


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