第26話・コボルト



 あれから俺は新しい魔法を考え、リアは構造が決まっている魔法現象の名前を考えながら日々を過ごし、三週間が経過していた。


 その間俺とリアは、ウルフ達を慎重に狩り続けていた。


 日課として午前中にリーダー・ウルフ三頭、午後はリーダー・ウルフ五頭狩るまで拠点に戻らないというルールを二人で決めては、毎日のんびりと過ごしていた。


 レッサー・ウルフは、リーダー・ウルフよりも発見するのが簡単で、戦闘経験を積めるのは良かったが、一瞬にして異空間が圧迫されたのは課題だったものの、圧迫された状態でも力技で押し込めたりしていると、異空間のLvは上がっては入り、また押し込めるを繰り返していた。


 一日でリーダー・ウルフを八頭、それを二十一日も行なえば、リーダー・ウルフだけで死体の数は一六八頭にもなり、それが俺の異空間には入っている。


 同様にレッサー・ウルフの数は爆発的に多く、異空間の中に入っている物が頭の中でリスト的に思い浮かべられるが、その数は七二四頭にもなる。


 戦闘を繰り返し行っていた俺自身のLvは13になり、Lvが10を超えた辺りからその進行も遅くなり、使い道の分からない謎のポイントは、Lvに比例して相変わらず増えていた。



――ステータス――


『ディオ』Lv13 ポイント「13」


【固有能力】・睡眠耐性Lv10(MAX)

 「おまけ」・ステータス閲覧権限


【能力】

 『身体能力』

 ・体力Lv1  ・スタミナLv2 ・自然回復Lv4

 ・腕力Lv1  ・脚力Lv2


 『魔法』

 ・土属性Lv1 ・無属性Lv3

 ・魔力量Lv3 ・魔力質Lv2

 ・魔力強度Lv1・魔力操作Lv4 

 ・魔力放出Lv3


 『武器』

 ・剣Lv2 ・弓Lv4


 『耐性』

 ・睡眠耐性Lv10(MAX)


 『技能』

 ・解体Lv3


【スキル】

・異空間Lv3 ・鑑定Lv2

・インパクトLv1


 

 繰り返し使っていた弓のLvが4になり、夜間もしぶとく魔力を出し、試行錯誤を繰り返してたら魔力放出Lvも3になり、少しづつでも成長していた。


 本音を言えばこのままウルフ達を相手に成長したいが、ゲームとは違い無差別に狩り続けてしまえば森の生態系が壊れてしまう。実際に最近はウルフ達が激減し始め、日課の指定数のリーダー・ウルフを探すだけでも苦労を強いられ、今日からは北の方に狩場を移す事が決まっていた。


 そしてリアのステータスも定期的に確認しては、異常な伸び値をしていた。



――ステータス――


『リア』Lv12 ポイント「12」


【固有能力】・魔力強度+3


【能力】

 『身体能力』

 ・体力Lv1 ・スタミナLv2 ・自然回復Lv1

 ・脚力Lv1


 『魔法』

 ・氷属性Lv2

 ・魔力量Lv2  ・魔力質Lv2

 ・魔力強度Lv4 ・魔力操作Lv1

 ・魔力放出Lv2 


 『技能』

 ・解体Lv2


【スキル】

・魔力消費軽減Lv1 ・魔力強度up(小)Lv2 

・アイス・バレットLv2 ・貴氷城壁きせかじょうへきLv1



(なんでしょうか、このめちゃくちゃ優秀な子は、どこかの優等生でしょうか、と本気で思った程に全体的にいくつかLvが上がり2になっていた。俺は徹夜で毎日頑張って、頑張って練習してるのに、これが才能なのだろうか…)



 狩りを続けながら名前を考えていたリアは、自身の氷の壁に貴氷城壁きせかじょうへきという名を名付けていた。それだけでも進歩だが、名前だけでは終わらず壁の構造もかなり変え、氷が網状になった薄い壁は従来の半分の厚さ程の壁で前後から挟み、一枚岩だったものが三枚構造へと進化していた。


(まったく、末恐ろしいとはこのことかと…俺も負けてはいられない。新魔法を頑張って作らなければ、リアに寄生しているみたいになってしまう)



――

――



「おはようディオ、また徹夜してたのね」


「おはよう、リアまぁいつも通りだ問題ない」


「良いんだけどさ。私からみてもやっぱり、寝ないで大丈夫って言われても、心配だし、そのスキルって本当に不思議よね」


「まぁ、今の所問題ないし大丈夫だよ。それに寝る時はちゃんと寝ているよ」


 毎日様に一緒に寝起きをする生活ではやはり心配され、俺は夜中に数日に一回は数時間程度寝ていると嘘を話していた。


(実際にはもう何年も寝ていないが)


「それよりも今日から北に向かうんだ、気合入れて行くぞ!」


「そうだったね、今日から久しぶりに違う事が出来るんだもんね」


「ああ、ウルフ達ともしばらくはさよならだ」


「ディオ、北に行ってもウルフだったらどうする?」


「…………いや、そんな事はないと、思いたい。――だが、もし居たらもう。それは運命だとでも思って、一思いに絶滅させてやろう」


「私もその話し乗った、ウルフ達また居たらもう容赦しないんだから」


 俺達のウルフの扱いは存外雑だった、ウルフからしたら俺とリアは天敵のような存在になっていても不思議じゃないが、出逢っては倒しているので知れ渡る事もない。



――

――



 あれから支度を済ませた俺とリアは、北に向かって歩いていた。


 数キロ圏内はウルフを日頃から狩っていた為、レッサーウルフにすら遭遇しないまま更に進み。北に二十キロ程進んだ所でようやく軽い昼食を取るが、勿論レッサー・ウルフのお肉である。


(今や俺の異空間はウルフばかりだもんな、村に戻ったらウルフ限定肉屋でも開業しようかな、真面目に儲かりそうだ)


「ディオってば、ニヤニヤして何考えてるのよ…」


「いや、今後の生活――」


 ウルフの儲け話を話そうとした俺だったが、リアの訝しむような視線に刺され、何だか居た堪れない気持ちになったので止めていた。


「何でもない、ウルフ探しに行こうぜ!」


「おう!って、ウルフ探すの?」


「あっ…」


 ウルフ以外を探したい気持ちが強い筈なのに、直前まで考えていた言葉が出てしまい、更に怪しまれつつも食事を終えた俺とリアは、北に向かって更に五キロ進むと、動く影を見つける事が出来ていた。


 

 茶色い毛並みが茂からはみ出し見え、毛並みが見えた事でレッサー・ウルフかと思うも、明らかに見えている位置は高く、目を凝らせば狼より犬に近づいた顔が人と同じ高さにあり、その体に両の手が見えた時には、知識とその存在が重なっていた。


「あれは、コボルトか!?」


「ねぇ、コボルトってなんなの」


 茂みに隠れ姿勢を落としていた俺とリアは小声で声を発し、コボルトを観て驚いていた俺の服をリアが軽く引き、俺の意識をも引っ張っていた。


「コボルトは直立で二足歩行する犬型のモンスターのことだ。主に鉱山なんかに生息しているって父さんから聞いてるけど、今みたいに森に出てくる個体も普通に居るらしくて、彼奴等は人を騙したり悪戯もしたりもする厄介な奴だ」


「悪ガキって事ね」


 体格で見ればコボルトの方が大きいか、ほぼ同等なのにリアがコボルトをガキ扱いし、何故かお姉さん風を吹かせていた。


「でも悪知恵が働くのが問題なんだよ。二足の生物ってさ、俺達みたいな人間を始め、道具を扱う為に四足歩行から二本を手にしてたりする、道具を使うって事は考える事が増える訳で、魔物でも何でも二足歩行の奴は自然と知能が高いんだよ」


「でも、ゴブリンって馬鹿なんでしょ?コボルトも一緒何じゃないの?」


「リア、その考え方捨てないといつか痛い目に遭うぞ。今直ぐ捨てなさい、良いね?まぁでも知性レベルで言えば彼奴等は、鉱山に住まうゴブリンだ」


「なるほど、あの子達はゴブリンなのね」


(いや、ゴブリンとは言ったけど別にゴブリンの親戚じゃないよ?てか、そんなに全てゴブリンみたいな言い方しないでよ。後絶対にどれだけ危険か分かってないだろ、どうやって教えたら良いんだよ)


「でも、あの子たちレッサー・ウルフが茶色になって直立歩行してるみたいに見えるね」


「レッサー・ウルフも狼と犬は多少は違うけど似てるからね。それであいつらコボルトは、犬が人の真似をしようと進化した魔物だと思う。まぁ俺もその道の研究者じゃないから詳しい事はわからないけどさ」


「なるほど、ワンちゃんが進化しちゃったの」


(確定じゃないですよ?俺は研究者じゃないって言ったよ?聞いてた?だから断定はしてないのにさ、まるで俺がそうだと言ったみたいな言い方して…)


「でも一つ分かってる事があるぞ、コボルトからは魔石が取れる」


「なるほど、魔石を集めて街に行った時に売るのね!」


「それもあるが魔石は素材になったり色々使い道があるらしいから、今のうちに集めておいても良いかなって思ってさ」


「りょーうかい。結局ウルフ達の親戚みたいな子達を狩る事になったけど、わたしも頑張る」


 頭の回転は速く良い方に捉えたリアが魔石の需要に気づいたのか、やる気を出したリアはとても頼もしかった。


(これが平均的に能力Lvが上がってる優秀な子が発するオーラか、クッ……またもや俺にはリアが眩しく感じる、これはいったい何なのだぁ!)


「何やってるの?はやく攻撃しないの?」


「リア、ちょっと待て。よく見てみろ、奴ら四匹も居る」


「ん?関係ないじゃん……アイス・バレット!!!!」


 問答無用で茂みから身を出したリアが手を前に伸ばし、アイス・バレットと叫び氷の塊が即座に四個生成され、勢い良くコボルト目掛けて飛んでいく。


 コボルト達は、驚異的なシンクロで率で同時にこちらに振り向き、(ふぇ!?)って目と口をパっと開けては硬直していた。


 コボルト達が氷を視界に入れても、体を動かすには時間が足りず、四匹とも仲良くアイス・バレットを頭に食らい。鈍い音を立てては一瞬宙に浮いた体が後ろに倒れ動きを止めていた。


 コボルトの頭を弾き飛ばす勢いで衝突した氷の塊は、その勢いを保った森の奥に何処となく飛び去っていった。


「はぁはは、リア強ぇ~俺の出番な…」


「良いじゃん、最初ら辺のわたしだって、ディオが弓で倒してて、出番なかったんだから、今度は私が活躍するばん!」


 リアは譲らんと言わんばかりに背筋を伸ばし、主張してきたのであった。


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