第19話・森で星に囲われ


 森の奥でレッサー・ウルフを発見したら、俺が弓を構え矢を放つ。


 そんな事を二時間ぐらい続けて居ると茂みの向こうにレッサー・ウルフ二頭と、レッサー・ウルフより一回り大きいウルフが居た。


「あれは、リーダーウルフか?」


 レッサー・ウルフは基本単独か仲良く二頭までだ、それ以上の群れをなす場合は行動の決定権を持つリーダー・ウルフが同行しているのが、人間側の認識だ。


「ディオ、どおするの?」


「初手でリーダー・ウルフを攻撃するから、リアは同時に二頭に攻撃してくれる?」


「わかった、ようやく私の出番ね!」


 リアは昼過ぎになってようやく出番が訪れ、目を輝かせていた、本当に頼もしい限りである。


「それじゃあ準備はいい?攻撃をしたら攻撃ね」


「りょうかい」


 そして慣れた動作で俺は弓を構える。


 レッサー・ウルフより危険なリーダー・ウルフは最初の一撃で仕留めなければ、余分にリスクが増す事になる。だからリアの魔法より最初に放つ必要がある。


(リアは暇って言うけど、不用意に危険な目には合わせたくない)


(だからこの矢は外さない!)


 茂みから中腰の姿勢で弓の上下を茂みと木に隠し、矢を置いた中心だけを覗かせ、狙ったリーダー・ウルフに向け、矢を放った。


 シ ュっ、と風を切る音を立てた矢が飛んでいき、リーダー・ウルフの側頭部に突き刺さり、鳴き声すら上げずに静かに横に倒れ込んだ。


 二頭のレッサー・ウルフが矢が飛んで来た方を向き俺たちに気づく、だが矢が放たれたのを確認したリアが即座に魔法を発動させ、バスケットボール程の先端が乱雑に尖った二つの氷の塊が飛んでいた。


「アイス・バレット!」


 二頭のレッサー・ウルフの腹部に氷の塊がぶつかりめり込む。


 そして二頭は衝撃で後ろに飛ばされ、一頭は木にぶつかり、もう一頭は飛んだ先で地面に着いたものの二メートルは滑り、動くこと無く息絶えていた。


(魔法の威力すげぇ~)


 弓の威力とは全然違った。


 流石に矢の方が貫通力はあるが、その威力はすごい。そもそも普通は氷の塊が、あの速度で何かに衝突すれば砕けて粉々になる、だがリアの魔力強度は+3はあるため強度が高く、砕ける事無く強度を増し凄まじい威力を生み出していた。


「どう?わたしもやるんだから!」


「お、おう。……予想以上で、驚いたよ」

(割りとマジで、怒らせてあれが飛んできたら死ねる…)


「でしょ!褒めてもいいんだよ!」


「あぁ、リアはよく頑張った偉いぞ、魔法の勉強も沢山してたもんな、偉い偉い」


 リアの頭に手をおいて撫でながら、褒める。


 その行動が正解だったらしく、リアは微笑みながら撫でられており、普通に可愛くて段々気恥ずかしくなっていく。


「それにしても、流石にリーダー・ウルフの牙は大きいな」


 レッサー・ウルフの牙の倍の大きさはあり、直径十五センチぐらいだ。


「おおきいね、噛まれたら、大きな穴があいちゃいそう」


「そこかよ」


「ん?」


 リアはキョトンとしてたが、そのリスクを減らすために最初に仕留めるようにしているし、そもそもリアが防御で張る氷の壁は、ウルフ程度では突破出来ない筈だ。だからリアには、危険だと思ったら周囲を氷の壁で囲むように言ってある。


(例え俺がその外側に居たとしても)


「リア、リーダー・ウルフの牙をもっと集めるぞ」


 このリーダー・ウルフの牙はレッサー・ウルフの牙より、高値で買い取ってくれると父から聞いているが、街に行く時に好きなだけ荷物を持って行ける訳ではないので、最悪レッサー・ウルフの牙は置いていきリーダー・ウルフの牙など、価値が高いものを優先して持って行こうと考えている。


「ん?うん、わかった」


(リアには後で説明しよう、どうせ一緒に街に行くんだし)


 リアには俺が十二歳になったら、村を出て冒険者になると伝えてある。そしたら私も魔法覚えたし、ディオが責任取るって言ったから一緒に行くと言ってきたが。


 誰かの入れ知恵が入ってるのは疑いようがない。



 リアの両親も反対などはせず自分の人生は自分で決めなさい、という感じらしく、親の許可は出た!と言い、魔法を教えたカルア母さんもちゃんと責任を取りなさいっと何度も言い、後押しをしていた。


(そうとなればこんな可愛い、同い年のリアを断る理由は一つもないので、一緒に行く事はほぼほぼ確定事項である。まさに異世界最高だ)


 その為にも残り五ヶ月でもう少し成長しなければいけない、父いわく冒険者で安定してやって行くには能力の平均は、Lv3はあったほうが良いと言っていた。


 俺は自然回復がLv4、魔力操作Lv4の二つ以外は4には達していない、睡眠耐性は戦闘ではあっても意味がない為カウントしない。


 リアは魔力強度がLv3でそれ以外はないに等しい、だから俺はリアを連れてこのモンスターが弱いこの森で住み込みで狩りをして能力Lvを上げ、モンスターを狩り続ける事で自身のレベルも上がり、長時間の戦闘経験と維持力を身につける考えだ。


 本来子供が森で夜を過ごすなど自殺行為だが、リアの魔法強度が高いため夜は寝る時に壁で安全を確保出来る+不眠不休で見張りが出来る俺が居るため両家からは許可がおりた。それに、あと半年で冒険者になるのならこの森はいい練習になるとアギト父さん言って、リアの両親を説得をしていた。


(ありがとうございます、アギト父様!)



――

――



 森で狩りを続けリーダー・ウルフを八頭、レッサー・ウルフを二十一頭討伐し、夕方になった森は、オレンジと赤が混ざった夕焼け色で染まっていた。


「ねぇ、ディオあの木なんていいんじゃない?」


「ん?」


 リアが指差す方に目を向けると、木の隙間から見えたのは大きな大樹だった。


 大樹の周りには他の木が一本もなく、大樹の幹は直径七メートルはあろう程に厚く、木の高さも三十メートルは超えていると思う程に高く聳え立っていた。


「あぁ、完璧だあの木にしよう」


 俺達の森での生活の拠点が、ようやく決まった。



 大樹の根本に着いたら俺が魔法で階段代わりの足場を作る。

 リアほどの強度はないが、歩く分には問題はない魔力の塊を、板の形にして大樹の幹の周囲をぐるりと螺旋上に階段を作り上げ、そうして大樹の中心から枝別れしている高さまで上がり大樹の中心に立ち。


 リアが辺りの枝も巻き込みながら、大樹の幹に固定する直径五メートルの正方形の氷を作り足場を作り、そこに俺が土属性の魔法を使い氷の上にサラサラとした土を置く、この冬の終わり頃の時期に氷の上は寒すぎるからだ。


 幹の直径の方が広いため、正方形の足場の周りには沢山の枝があるので、ふざけない限り落ちる事はなさそうである。


 その後、俺達は集めた素材を置くスペースを作ったり拠点を更に快適にしていた、夜の暗闇で明かりはなかったが、その辺にある枝を折って取り、立てて置く土台をリアが氷で固定し、俺が火を付け周りの葉に燃え広がらないように周りを限りなく薄い俺の魔法で覆い、明かりを確保していた。



――

――



 雑談をして明かりの火を消し周りを見渡すと、辺りの木よりも遥かに高いこの場所は、地平線に見える限りの木と山、真上は葉で覆われ見えないが、周囲の地平線の夜空は観えたため、沢山の星に囲まれた心地いい寝床であった。


「ディオ、きれいで不思議な、光景だね」


「星に囲まれながら眠れる日が来るとは、思ってなかったよ」


「わたしも」


 俺達は周りを見渡した後に、お互いに互いを見ようとした為目が合い、しばらく見つめ合ってから俺からリアの手を握り、それに対してリアは嬉しそうに微笑み。握られていた手に力を入れ、リアもディオの手を握り返しては笑い、リアがそのまま眠りについていた。


「おやすみ、リア」



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