第16話


 川で死にかけた俺が川辺に近づかない時を過ぎ二年が経ち、その間もカルア母さんのもとで必死に魔法の練習を頑張たリアは、魔法を使える様になっていた。


 リアの適正属性が氷と判明した際には、カルア母さんすらも驚いていた。


 氷属性は他の属性と比べても上位に位置づけられ、魔法を使える人の中でも適正属性で氷を扱える者は一万人に一人程の割合なので、同じ属性と知ったカルア母さんが喜ぶのも仕方のない事だった。


 父の鬼指導の元、なんとか俺は片手剣を扱えるようになっていた。

 

 毎日毎日、来る日も訪れる日もアギト父さんにボコボコにされ、身体の至る所に打撲痕や擦れ傷を生み出しては、カルア母さんの魔法で傷を治されては送り出される日々を経て、最低限の身体的な能力を手に入れていた。


その最たる例が―


――ステータス――


『ディオ・オルトラーク』Lv1 ポイント「1」


【固有能力】・睡眠耐性Lv10(MAX)

 「おまけ」・ステータス閲覧権限


【能力】

『身体能力』

 ・体力Lv1 ・スタミナLv1 ・自然回復Lv2

 ・腕力Lv1 


『魔法』

 ・無属性Lv2 ・魔力量Lv2

 ・魔力操作Lv2

 ・魔力放出Lv1


『武器』

 ・剣Lv1


『耐性』

 ・睡眠耐性Lv10(MAX)


【スキル】

 ・鑑定Lv2



 ステータスと呟いた時に現れた半透明の画面は、月日を重ねる毎に表示されてなかった『腕力Lv1』が追加されたり『自然回復Lv2』は元の『Lv1』から勝手に上がったりと、自身の成長度合いを表示させていたが、俺以外の人は自力でステータスの確認をする事は出来ないみたいだ。


 それもこれも良く見れば表示されている『ステータス閲覧権限』という、訳の分からない能力というか、おまけが関係してるのは疑いようが無かった。


「では、行ってきます」


「行ってらっしゃい、気おつけてね」


「ディオ、注意を怠るなよ」


「お兄ちゃん、いってらっしゃい」


 妹のユナは五歳になり更に可愛さは増したものの、現在もお兄ちゃんを慕っており、反抗期が来ないことを願うばかりだった、


「行ってくる」


 家族三人に挨拶をした俺は、一人で行う初めての狩りの時間だ。まだ朝陽が昇り始めて間もない時間だが、どうせなら長くいようと考え朝に出発していた。


 今から行く森は、一人の時やリアと一緒に時々昼寝をしていたあの丘から、更に一キロ程東に進んだ場所で、その周囲に生息してる一角うさぎが今回の獲物だ。



――

――

 


 馴染みの丘を通り過ぎ俺は今、森に足を踏み入れていた。


 拓けた草原とは打って変わり、午前の明るい日差しを深く遮る葉が頭上を覆い尽くし、冷たい空気と薄暗い光量だけが辺りを満たし、大人でも小さく思える太い木々が一定の間隔を空け、空高く伸びていた。


「すげぇぇ...」


 川辺は許可されても、森への立ち入りを禁止されていた俺は、いま初めて森の中に足を踏み入れ、聳える木々とその木肌をも覆う苔などの植物も含め、その光景に魅了されていた。


「これだよ、これこそ異世界じゃねぇか。見上げる限りの木に、異常なまでに辺りを緑色に変える植物、これにゴブリンでも居れば良いが…景観上は要らんな」


 そんな事を考えながら森の中を静かに歩き、数分か数十分程歩いた所で、木々の陰に姿勢を下げ止まっていた一角うさぎを見つけていた。


 一角うさぎは察知能力が高く、素人は近づく事さえ難しい。そのため、今回は弓も持って来ている俺は弓の練習をした経験どころか、弓を構え矢を放った事すらない。


(アギト父さんいわく、弓は一角うさぎを狩る時に自力で覚えろ「だ」)


 一角うさぎ相手なら死ぬ事は無いから自力で学べ。それが父の方針だった。


 俺は、最初の一矢を放つ為に身体を動かし、弓を持ち、矢をセット。

 そして弓を構え、矢を引く。


 ゆっくりと定めたその狙いを――く――



 矢が風を切る音をけたたましく鳴らしながら、一角うさぎに飛んで行く。だが一角うさぎは咄嗟に感づきジャンプで避け、そのまま茂みに入り姿を消して行った。


「やっぱ、一矢目では当たらないか…」


 俺は矢を回収してまた一角うさぎを探しながら森を歩く。

 

 森は進んでも進んでもずっと森、アギト父さんに聞いた話では、森の反対側の村か街に出るには最低でも二百キロは進まないと出られないと言っていた。だから方向だけは間違うなと、わからなくなったら夜が明けるのを待ち、太陽を登ってきたらその反対側に向かって進む。つまり森の西側に村がある事を把握しとけば大丈夫らしい。



 慣れない環境の中を在るき続け、一角うさぎを見つけては矢を放ち、外しては矢をまた回収し、また探す。この作業を何時間も何回も繰り返していた。


 そして、ようやく一角うさぎに矢がヒットし、一角うさぎは矢の速度に引っ張られるように、少しだけ横に飛ばされ、一角うさぎはその命に幕を下ろしていた。


 矢を抜いて一角うさぎを解体する、角を取り、見よう見真似で記憶を掘り起こし血抜きを行い、いらない臓器を取る、そしてまた一角うさぎを探し見つけては矢を放つ、この作業をひたすら繰り返す。


 数百回と矢を放っている内に命中率は少なからず上がり、それで家賃相場だったりするからな、なってきてることに気づき始め、今で一角うさぎを四匹狩っていた。これでもかなり頑張ってるのだ矢は全然狙った所には飛んでくれないし、飛んでいっても避けられることもあってなかなか仕留められない、弓を持って使うのが今日が初日である事を考えると上出来だと思っている。


「もっとだ」

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