第13話


 取り調べを受け、自白を強要された俺は、命からがら自室に逃げ込んでいた。


「待って!」


 その直ぐ後を距離を空けるずにリアが、自動追尾の如く追いかけて来、俺が扉を閉める動作をする前には、入り込まれていた。


「リアッ!?」


「何そんなに、驚いてるの?」


 きょっとんとした表情でリアが首を傾げ、声を上げている俺にお構い無しに、無邪気に布団に飛び込んでいた。


(これだから、子供は…)


 苦労を知ってか、知らずか、ゴロゴロ動き回るリアを見ながら、立ち尽くしていた。


「リアは、今日は何処で寝るんだ?」


「決まってるじゃん、ここ!」


 もう抵抗して反応するのが億劫になり、年相応に諦めた方が良いと悟り、追い出す事を辞めていた。


「もう少し、ユナと遊んでたら良かったのに」


 そんな最後の嘆きと共に、扉を閉めた俺自身も動き、寝転がっているリアから離れた布団の端に、ゆっくりと座っていた。


(俺は寝る必要無いし、リアだけ寝かせとけば良いか…)


「何してる遊ぶッ!?」


「まじかよ…」


 精神年齢的に既に子供を過ぎた俺は、目算の有り余るリアの元気さを見誤っていた。


「トランプしよ!」


「トランプ?」


(この世界にも、トランプはあるのか…)


 何処が発祥かも忘れた物だが、子供の頃は無性にトランプで遊んでいた記憶も、無いわけでは無かった。


「良いぞ」


「じゃあ、あれやろ!重ねるの!」


 俺が返事を返した途端トランプを取り出し、リアが小さな手でシャッフルしていたが、やろうと言ったそのゲーム性は、余りにも大雑把だった。


「近い数字を重ねるやつか?」


「そうっ、それ!」


 その後もリアが必死にカードを配り終え、俺とリアの近場には五枚のカードと、二人の間には二枚のカードが裏側で置かれていた。


(あれ五枚だっけ、まぁ学校や地域でルールって変わるからな…)


 ≪黒の俺=♣A・♠7・♠5・♣K・♠A≫


 ≪赤のリア=♡7・♡4・♢Q・♡J・♢3≫


「せーのっ」

「せ~のッ!」


 互いに中央のカードを表に返し、♢2と♣6が姿を表した。


(Aで返して、更にKを出せるッ!)


 俺の手が♣のAに触れ、カードと布団の間に指が差し掛かった時だった、


「えいッ」


 いつ手にカードを持ったのかすら分からない速度で、リアの腕が視界の端から中央に向かい伸びており、目視していた♢の2は、♢の3へと変わっていた。


(ならッ♠の5でッ)


 伸ばしていた手首の角度を無理やり変え、最短距離で♠の5を掴もうにも、瞬きをした瞬間には、カードが飛ぶか飛ばないかの、ギリギリを攻めた速度で♣の6だった場所には、♡の7が置かれていた。


(嘘だろ…)


 その後もリアが最速でカードを補充し、考える間も無いまま、相手側の場のカードだけが目まぐるしく入れ替わり、リアが出せなくなった一時だけ俺にもカードが掃けるも、リアが出せる状況では無力と言って等しかった。


「ははっ、はははははははっ…」


(何だよ、嘘だろ…)


「もっかいだッ!」


 再度繰り返される、トランプゲーム。


 結果は、俺の負け。


「もっかいッ」


 負け。


「もういっかい…」


 また負け。


「あと、一回だけ…」


 そして負けた。


 見事に精神年齢二十四歳の俺は、五歳の少女に完敗していた。


(嘘でしょ、これで五歳?どんな教育受けたらそうなるの?ねぇ、普通はさ身体の操作すらぎこちない筈だよね?ジャンプする時に上手く飛べないみたいにさ)


 だが目を丸く見開き、見つめる先に居る少女は、そんな生易しい年頃の子供では無い、一種の戦士だ。


「また私のかちぃい~、ディオって、案外弱いんだねっ」


 放たれたその言葉で、残されていた俺の生命は絶たれ、地に伏していた。


(何だこれは、無邪気とは此処まで強いのか。いや、それにしても思考速度と、手の動作が早すぎるだろ)


「リアが強いんだよ」


「でも、私、お母さんに勝った事ないよ?」


「凄いなそりゃぁ、血は遺伝するんだな」


「ねぇっ、もっかいやろ!」


「いや、流石に…」 


 何度か大人気なく小賢しい真似を考えてみたが、そのどれもが通用せず、ただひたすら打ちのめされた俺は、とてもやろうとは返事を返せなかった。


「ちょっと二人とも、お風呂準備したから、入って来なさい」


 そんな救いの言葉を聞き、


「リア先に入って来いよ」

「うん、上がったらもっかいやろ!」


 安らぎの後に待ち受ける敗北だが、一時でもあれば良いだろう。そう思っていた、


「何言ってるの、ディオも一緒に入って来なさいっ、後が控えてるんだから」


 カルア母さんから発せられた言葉で、俺は酷く動揺していた。


「いや」

(流石に不味いでしょ、何言ってるの⁉)

「リアの後に入りますよ」


「だから待ってるんです、早くしなさい」


「ふ~ん、ディオ恥ずかしぃぃんだ!」


 煽られた俺はつい売り言葉に買い言葉で返し、


「恥ずかしく無いわ、リアこそ、何が恥ずかしいと思ったんだ?」


「だからッ後が控えるから、そんな話も服脱いでから、素っ裸でしなさいッ!」


「はい、ごめんなさい」

「ぁあはいッ」


 カルア母さんの叫んだ声に驚き、俺とリアは条件反射で応えながら走っていた。


 その後に追われる勢いで風呂場に行き、互いに服を脱いだは良いが、マナーなどお構いなしに、隠れる様に湯に飛び込んでいた。


 言うまでもなく、俺が気にしないとするも、リアの方も余計に恥ずかしがってる動作が目に入り、暑い湯に身体を浸してる状態で、何方が先に出るかの勝負が始まったのは必然だった。



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