第11話


 魔法を覚える為に、我が家に初めてリアが来たのが一週間前で、それから毎日来ては、母さんと魔法の勉強から始まり魔力の流れを確認したり。


 いつか魔法が使える様にと、子供とは思えない程、必死に頑張っていた。


「ディオ!!よそ見をするなッ」


 そんな俺は庭で練習するリアと母さんを見ながら、アギト父さんから片手剣の扱い方を、実践的に教え込まれていた。


「違う!こうだッ」


 鉄と鉄がぶつかる音を立てながら、俺の掴んでいた剣は勢い良く飛び、宙を舞っていた。


 誰が隠そう父さんの教え方は、ゴリゴリの体に叩き込む体育会系だったのだ。


「何度言ったら分かる!手だけで剣を持つな、身体で持てッ」


 そもそも木剣でも無く、本物の剣で練習をいきなり行っている事に、俺は払拭し切れない不安を抱いていた。


(絶対に当たらない自信があるんだろうけど、それでももしもって考えるやんっ……いや、俺だけなのか…そんな事はどうでも良い。俺はこの男を斬りたい…)


 剣が吹き飛ばされ、時には俺自身が吹き飛ばされる度に、アギト父さんはリア達の方を一瞥しては、俺に不敵な笑みを見せては、楽しそうに頬を緩ませていた。


(俺がリアの前で吹き飛ばされて、恥ずかしいとかかっこ悪いとか思ってるのでも?剣を教わってるは嬉しく、感謝もしている。羞恥心なんぞより、あの鼻っ柱を折る事の方が重要だ)


「もう一度お願いします」


 剣を拾い直した俺は、ぐらつく身体を根気だけで動かし剣を構え、アギト父さんと向き合っていた。


「てやぁあああッ!!」


 正面から正直に向かい行った一太刀を、


「ていっ」


 普通に避けたアギト父さんは、俺の手首めがけて剣の腹を落とし、


「イッ――」


 重さに耐え切れ俺は、痛みと伴に剣を手放していた。


 思う動きなんぞ幼いこの身体では、何一つ体現することは先ず不可能だと考えた俺は、熱意一杯の子供を演じていた。


(普通に痛いから、やりたくないんだけどな)


「まだまだだな!」


 器用に足で剣を掬い上げたアギト父さんは、両手に握りしめ剣をそれぞれの肩に置き、首裏で交差させていた。


「父さんが強すぎますよ」


「そうだろ、そうだろ。まぁディオも後、三十年ぐらいしたら俺に勝てるんじゃないか?」


 妙に現実味のある年数を言われてしまい、一瞬戸惑うも無難に返し。


「頑張ります」


(絶対一年以内に一撃入れてやる)


 隠しきれない闘志を漲らせていた。


「頑張れ、それじゃ今日はこの辺で終わりだ。あっちに行ってリアに抱きついて来て良いぞ」


「父さんッ!」


 行き過ぎた茶化しに素で言い返すも、アギト父さんは笑いながら家に中に入っていった。


(従う訳じゃないが、観に行くか…) 


 筋肉が悲鳴を上げた身体に鞭を打ちながら歩かせ、リアと母さんの近くまで進んだ俺は、その場所で倒れ込んでいた。


「今日も勝てなかったのね」


「ディオォ~お疲、れぇ~」


「リア、頑張っ」


 カルア母さんから今日も放たれた絶対に不可能な発言を流し、ヘトヘトに息を切らしながらも労ってくれるリアに、お返しとばかりに応援を伝えていた。


 そもそも剣の道に立つ父さんが三十年と言うのに、攻撃を当てれ無かったじゃなく、勝てなかったと言う母さんは、流石に俺を何だと思ってるのだろうか。


「リアちゃん行くわよ」


「ひゃいッ」


 膝立ちしたカルア母さんがリアの背中に片手を触れさせ、そこから魔力を流し始めていた。


「んん”…んん”んッ…あっぃ」


 許容量以上の魔力が身体に流れ熱を帯びているのか、只でさえ息が上がっていたリアの呼吸が、更に浅く次第に早くなり続け、肩から身体全体が上下に動き、湧き出た汗がワンピースと肌を密着させていた。


「んん…ぇぇええいッ!」


 瞑っていた目を急に見開いたリアは、叫びながら手を勢いよく前に突き出すも、魔力の塊が発射されるどころか、何も現れていなかった。


「もぉだめぇぇ」


 膝から崩れ落ちたリアが庭の芝生に倒れ、うつ伏せのまま話すもモゴモゴと何を言ってるか、全く聞き取れないでいた。


「頑張ったわね、リアちゃん。凄いわ」


「でもぉぉお…」


 結局魔法が使えなければ、意味が無いと言いたげな声が項垂れ、リアが更に地面に沈み込んだ気がした。


「何度も言うけど、今でもかなりの無茶なことしてるんだからね。そんなに焦らないで良いのよ」


「はぃ。毎日、教えていただき、ありがとうございます」


 姿勢はうつ伏せのまま顔だけを横に向け、カルア母さんにお礼を言ったリアは、再び地面と睨めっこしていた。


「ちゃんとリアちゃんが使えるまで教えから、安心して。それじゃ私は行くわね」


「はい」


「母様、有難うございます」


 俺が言った意味と、母さんが捉えてる意味が違う事は、笑顔を通り越した頬の釣り上がり具合が教えてくれていた。


「ごろごろごろごろごろぉおお~」


 自身で謎の効果音を口に出したリアが、転がって来たと思えば止まらず俺にぶつかって、から転がる事を止めるも丁度リアの正面は、俺の方を向いていた。


「草まみれだぞ」


「良いもんっ」


 水気がなければ落ちていたかもしれない小さな草は、白いワンピースの至る所にへばり付き、無地だった衣に模様を作っていた。


「なら俺も寝そべるか」


「仲間だねっ」


 目のやり場に困ったから寝そべったものの、リアは満足気味なのは嬉しく、草仲間に成ったのも悪いものでも無かった。


 仰向けに空を見上げた俺と、横を向いたままのリアが動かないまま時間は流れ、互いに落ち着いてから話していた。


「私、魔法使えるように、なるよね」


「頑張ったから、絶対ってわけじゃないんだろうけど、きっと大丈夫だよ。リアは十分頑張ってて、教えてる母さんも真剣なんだからさ」


「そうだよねっ、うん。もっと頑張るね」


「なら今は休息だな」


「だねぇ~もう動けないよ」


「同じく」


 疲労していた身体を一度休めた事で、動かしていた感覚が消えた俺達は、その場で変わらず寝転がって陽の光を浴び、いつの間にか意識は落ち、昼寝をしてしまっていたのだった。

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