第10話


「カルアさん。わたしは、魔法が使えないのですか?」


「そんな事はないわ。魔法を初めて使おうとしたら、普通はこんなものよ」


 心配そうに見上げてくるリアの頭に、カルア母さんが手を置き、優しく撫でていた。


「でも、ディオは直ぐに出来たって、さっき話に出て…」


「リアちゃんダメよ、ディオとなんて比べたら。あの子は変だから、ディオが出来たからって、何も同じになろうとしなくて良いの」


(ちょっと?母さん??俺にもばっちり聞こえてますよ?ちゃんと心に刺さってますよ?そんな変とか、思ってても言わないでくださいよ。深い所が抉られてる気がします)


「ディオは変なの?」


「そうよ、だからリアちゃんは焦ったらダメよ」


「はいっ分かりました、頑張ります」


(なんでリアも納得してるのだろうか。俺の扱いとは…)


 それでも日が暮れるギリギリまで、リアは諦めずに頑張っていたが、魔法を使えるようには成らず、今日は帰って行った。


 リアとカルア母さんの間に入らずとも、勢いと熱意に任せた『また明日も!』という言葉に、カルア母さんが断れる筈もなく快諾していた。


(ほんと、ちゃっかりしてるよな)


 そして魔法の練習が終わり、リアが帰った後は俺も手伝いながら夕食の準備をし、我が家の食卓を今日も四人で囲んでいた。


「母様、リアは魔法を使えないのでしょうか」


 夕食を殆ど食べ終えた段階で、カルア母さんに質問を行い、現状でのリアの様子を聞いていた。


「そんな事はないわ。 ディオあの子は、ちゃんと頑張ってるわ、だからきっと出来る。それにディオには言ってなかったけど、十二歳になってやっと、学校に通ってから魔法は覚えて行くものよ?」


「ぇえ!だって、母さまそんな事一度も、言ってなかったじゃないですか」


 俺は素で驚き、余りの衝撃の事実に席から立ち上がり、立ち止まったまま固まっていた。


(嘘だろ。そんなの普通に考えて、年齢で考えれば英才教育も良い所じゃないか。それってつまり、やりようによっては、凄い魔法使いに…)


「ディオ座りなさい」


「あ、すいません父さん」


 思考が暴れまくる中、アギト父さんに叱られ、我に返った俺はゆっくり座っていた。


(つい未来の可能性を考え興奮してしまったが、後から知って頑張るのと、最初から知って頑張るのでは、明らかに違う)


「それにしても、ディオにも春がきたかぁ~、後でフィンダ家には挨拶に行かないとな」


「ちょ、父さんまで何言ってるんですか!!」


 リアが友達だと言っても信じる所か、この親は二人して勝手に盛り上がり、このまま放置しようものなら、親同士で勝手に話が進みかねない雰囲気を出していた。


「だからディオ大丈夫よ。リアちゃんはちゃんと魔法が使えるようになるわ。いいえ、私が魔法を使えるようになるまでは責任を持つから、その後はディオ、あなたの番よ!」


 血気盛んに胸を張ったカルア母さんが立ち上がり、満面の笑みで目を見開き、俺を見ていた。


「はい…」


 何でそんなに大げさに責任、責任といって居るのか全く想像が出来てなかったけど、やっと意味が分かったよ。


(この人達、子供の恋路を作って成功させようとしてやがる)


 非モテな人生を歩んで来た身としては嬉しいが、魔法という新たな現象に出会った今は、恋路より魔法を成長させたい。


「カルア母様も、アギト父さんも、あまり変な事はしないで下さいよ」


「分かってるって」

「そうよっ私達に任せなさい」


 悪乗りした友人並にタチが悪いと思うも、実の親なのだから、子供の恋路を成功させたいと思っている気持ちは、きっと本物なのだろう。


「はい…」


 またしても何も言えず、短く返事を返した後は、二人だけが勝手に盛り上がったまま時間が過ぎ。


 食べ終えた食器を片付け、俺は自室に戻っていた。


(ヤバい、このままだと絶対にヤバい)


 思い返しても、あの二人の乗りと跳ね上がったテンションはおかしく、眠れない身体だからこそ、不安しか抱いていなかった。


「寝て忘れたい…」


 そのまま眠れないまま、時間だけが過ぎて行き。


 布団の上に転がった俺は、手の平で魔法を作って朝まで時間を消費していた。

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