第9話
リアに魔法を教えるという約束を取りつけた俺は、軽い気持ちで丘の杉の木の下でリアを待っていた。
「ディおおぉ~」
俺の名前を叫びながら、丘の傾斜を走ってくる小さな人影が、手を上げながら走っていた。
「こんにちは、リア」
「にんにちは!ディオ」
走って来たのに息はそれほど上がっておらず、言葉を途切れさせる事無く、リアが挨拶を返していた。
「リアは元気だな」
身体は元気だとしても、抜けきれない俺の精神年齢が、自然と身体を重くしている。
「だって、それでそれでっ、魔法の話はどおなったの!?」
木の根元に座っていた俺に向かって、前屈みにリアが身体を近づけ、返答を今か今かと待ち構えていた。
(楽しみのようで何よりだけど…)
百歩だろうと千歩でも相変わらず、ワンピースなのは良いよ?普通に可愛いし、この世界の村人が服を沢山持ってないのは、俺自身も過ごしてて分かるけど。
(頼むから、胸元が緩い服で屈むなッ…)
「ねぇってば、こっち見て答えてよ。それとも、やっぱりダメだったって事なの!?」
「違うから違うから、分かったから、取り敢えず座ってっ、頼むから」
全く、何考えてんだ。
もっと女の子なら、その辺の事も気をつけろと思うが、中学生でも無頓着な同級生が居たのだから、小学生でも無い五歳に何を期待してるのかって話にもなるが。それならそれでこの世界の子供は、幼さってより完全に可愛いって顔立ちの方が問題だ。
「ねぇ、座った。だから早く教えてよ」
「母さんが良いよって言ってた」
「ほんと!?」
顔を背け目も瞑り伝えたが、右肩を掴んでいるリアの手と、聞こえてくる声の近さ的に、振り向かない方が良いのは明白だった。
「ほんとだよ。嘘ついてどうする」
「やったぁああああっ!!!」
「うゎぁあっ―」
全く予想もしてなく、目を瞑り弱まっていた平行感覚が一瞬にして崩され、俺はリアに押し倒され、背中から抱きつかれていた。
(普通に痛いし、本当に、勘弁してくれ…)
「やった、やったぁあああ」
そんな俺の気持ちもお構いなしに、リアは俺の上で騒ぎ回り、数秒経ってから、我に返ったのか動きをピタリと止めて、静かに退いていた。
「ごめん。だいじょうぶ?」
「あぁ、大丈夫だが。次からは気をつけてくれ」
「分かった」
本当にリアは、俺の真意を誤解釈なしに受け取ってるかは、その素直な返事が逆に不安感を生み出していた。
「それで、母さんがこの後、連れて来てって言ってた。でも…」
「でも、なに?」
「リアが魔法を覚えた後の面倒と責任は、俺が取ることになってるから、ちゃんと良い子でいてくれよ?」
「私はいい子だもん!」
明言したリアはにしししっ、と笑っていて、どう見ても大丈夫そうには見えなかった。
「本当に頼むぞ、じゃ行くか」
「ぉおお!」
リアは満面の笑みで返事をして、本当に「かわいいな」と思った。俺の心の声が出ていたらしく、リアが小爆発を起こし頭からは、煙が立ち昇っていた。
―
―
「カルア母様、連れてきました」
「ディオおかえり。リアちゃんも久しぶりね」
「は、はい。お久しぶりです、カルアさん」
「それじゃあ、またよろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
リアがお辞儀をして、カルア母さんにお願いをしており、礼儀の正しい良い子?を演じていた。俺と居る時とでは。差が激しい気がするのは、まぁ気にしたらダメだよね、うん。
「それじゃリアちゃんは、魔法については、どこまで覚えてる?」
「こぉ、塊が出て、凄いの!」
「そうね、確かに魔法は凄いわね」
「うん!凄いのっ」
明らかに母さんが期待する内容では無かっただろうが、無邪気に話す子供を否定する訳も無く、カルア母さんがゆっくりと話し出していた。
「なら、まず魔法について、説明するから聞いてね?」
「はいっ」
「前にも話したと思うんだけど、魔法は誰だって使えけど、使い方を間違えたら大怪我もするの、だから魔法はとっても危険なの。それでもリアちゃんは、使いたいの?」
「うん、ディオと一緒に魔法つかいたい!」
「わかったわ。でも、同じ魔法が使えるって訳じゃないからね」
「えええぇ!そうなの?」
リアは一瞬ビクッと残念そうな素振りをしたが、カルア母さんが何か話そうとしていたため、聞く姿勢に戻っていた。
「そうよ、魔法は一人一人に最適の属性があって、最初に使うのはその最適な属性の魔法、頑張ったら他の属性も使えるようになるんだけど、ディオくんのはちょっと珍しい属性だから、一緒の属性を使いたいのなら。リアちゃんの属性を、ディオが使うように言いなさい。そしたら、お揃いよ!」
(って、まじかよ…俺が他の属性も使うって、俺そんな余裕も才能も無いぞ。今だって精一杯やって限界なのに)
「わかった!」
(わかるんかいっ!)
「そうよ、リアちゃんはディオに任せなさい!あの子は責任を取るって言ったんだから」
「うん」
何故だろう。
意図的に方向がずらされてる気がするのは。
「それじゃ早速始めましょうか。まず私がリアちゃんに魔力を流すから、それの感覚をまずは掴んで覚えてね」
「はいっ!」
それから俺に教えた時と同じように、カルア母さんが魔力をリアの背中から流す作業が始まった。
リアはそれから魔法を覚える為に必死に頑張っていた。
だけどあれからリアどんなに頑張っても、魔法の感覚が感じ取れないのか、一時間経った今も、魔法は現れていなかった。
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