第6話
動けなくなった俺を母さんが部屋へと運び。
ベットに寝そべっても手足は動かず、朦朧とする意識と酷く辛い頭痛だけが残り続け、それに抗う何かが、耐えてる今は眠れそうに無かった。
(これ意識が落ちるやつちゃうんか)
「ディオ、それじゃゆっくり休んでね。何かあったいつでも呼んでね」
「ぁい…」
返事を返せたのかさえ分からない中で、母さんがベットの脇に木の棒を立て掛けてから、去って行く姿が薄っすらと見えていた。
横になった身体は、その手足すらも動かせず。他の事を考えようにも、そんな余裕すら無い俺は、寝転がり続け時間は過ぎていき、恐らくもう昼だ。
(このまま寝てても良いが、よしっ。魔法の練習するか。せっかく辛くても寝れない不遇な身体を手に入れたんだ、効率的にやらないのは勿体ない)
身体を起こして壁に背中をつけた俺は、手の平を天井に向けながら上げ、僅かにほんの少しだけ力を集めるイメージで、身体の中に意識を向けていた。
あの時は、出てきた大きさとその不安定さから、母さんは焦っていたのだろう。だったら、あれよりも小さく、仮に爆発が起きても大丈夫そうな、極少量の魔力だけを手に平に集める感覚でやれ。
仮に危うくても、あの大きさで木の幹を抉り取るどころか、浅く掘る程度だったんだ、小さい物なら壁にでも当てれば、威力は子供の体当たり以下だろう。
「んっ、ん?」
そんな甘い考えで行うにも、逆に米粒程のサイズで出すというのは、想像以上に高度な技術だったらしく。一向に形には成らず、風の様に散って行く魔力の感覚だけが、手の平から感じ取れていた。
「んぅぅ"」
そして流す魔力の量を少しずつ増やし、最終的に可視化される程の密度に成った頃には、手の上には卵一個分程の大きさの無透明の塊が、その表面を凹凸に揺らしながら、姿を現していた。
「はぁ、はぁあ、はぁぁ」
(一苦労だ)
「本当にただ、水が持ち上がって丸くなってるみたいだ…」
うねうねと凹凸に動く表面を見れば、最初にやりたくなるのは勿論、その形を綺麗な丸で維持させ表面を滑らかにしたくなるは、仕方のない事だ。
没頭し始めた俺は、何度も魔力を出し入れしたり、形を整えようと出した後の魔力の塊にも、強く関与しようと余分に魔力を漂わせ、魔力が切れて息が上がれば休み。回復すればまた違う方法で魔力を漂わせたり操作したりと、試行錯誤を繰り返していると、
「ディオ何してるのかしら」
急に聞こえた声が、部屋の扉越しでは無く。部屋の中からの声だった事に遅れて気づいた俺は、飛び跳ねる様に声のとは逆の方に身体を動かしていた。
「母様、どうか、なさいましたか、、僕は、、今は、身体が動き始めたので、忘れない内に練習しようと、してて、その。ごめんなさい」
目を合わせながら話していた母さんは、目を細めニッコリと頬は上がっていたが、微塵も笑ってる感じは無く。刻一刻と追い詰められた無言の圧力によって、諦めた俺は最終的に謝っていた。
「もう身体は大丈夫なの?」
「え、はい。動ける程には、回復いたしました」
「そぅ。…でもねっ、動けるからって無理は駄目。ディオが今朝倒れたのは魔力欠乏症はね。身体中の魔力を搾り取って補った後なの、だから大丈夫でも、今日だけは休みなさい」
「ごめんなさい母様」
「良いのよ、私だって魔法を覚えた日は隠れて……ゴホンっ」
何か言ってはいけない事を、母さんが下手な咳払いで誤魔化した気がする。何だって隠れて?やはり子は親に似るというのは、例え輪廻転生でも起こり得る事なのだろうか。
「だから、私の目を盗んで練習出来るなんて、思わないでね」
急激な誤魔化しから、脅しに変わったのは明白だった。
何か目に見えない何かが、俺の身体の周りを濃密に漂ってる気がするが、これは気迫でも何でも無い。今なら分かる魔力だ。
この世界。
というよりも、この家庭は子供に対して、優しさと厳しさの兼ね合いが合ってないだろ、五歳児を何だと思ってやがる。
反論した時が怖すぎて、普通の五歳児なら従う以外の道が無いが、今日はって事は明日からやっても大丈夫なら、俺自身も身体を壊したい訳では無いので、今日にこだわる必要は何処にも無い。
「はい、しません」
「なら、晩御飯の準備を手伝って頂戴」
「でも身体が…」
「ん、動けるのよね?魔法の練習をするぐらいには、動けるのよね?」
「はい。動けます」
部屋に一人になる状況を物理的に防がれ、確かに動くには動く身体を動かし、母さんの後に付いて行った俺は、何を手伝おうと考えていると椅子に座らされ。
何も手伝いをする事なく時間は過ぎていき、唯一手伝ったと言えるのは、最後の最後に準備が出来た段階で、妹のユナを呼びに行き連れて来たぐらいだった。
「「「頂きます」」」
「いたぁだき、ますっ」
そうして今朝に魔法を教わり、俺の身体が疲労している以外は変わらない。いつも通りの食卓が、今日も俺の前に広がっていた。
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