第2話


「それじゃあ行ってくる」


「ユナ、カルア母様、それでは行ってきます」


「行ってらっしゃい、ディオ楽しんでね」


「はい」


「にぃにい、いってらっしゃぁい」


「行ってくるねユナ、帰ってきたら遊ぼうな」


「やくそくぅ」


 可愛い。

 俺はユナに癒やされる為に転生したのかもしれん。


 まさか元の子がこの天使の存在を広める為に‥いや流石にそれは無いな。


「約束だ」


 俺とアギト父様は敷地の入口のドアに向かう。

 家の周囲には塀があり、塀は五歳の少年の背丈より高く、ドアも同じ高さの為外が全く見えず、この少年の何処にも外の記憶は無かった。


 恐らく魔物対策か?


 そしてゆっくりとドアをアギト父様が開け、後ろから追うように外に出た。


「わあぁぁ。凄い」


 昔北海道で見た事がある様な広大な草原が視界には広がっており、奥には森や山々が見え自然の魅力に魅了されていた、この五歳の少年を演じる必要は全く無い俺は素で感動し言葉を漏らしていたのだから。


「凄いだろう、本当はもっと早く見せたかったんだがな」


「今日見れただけで僕は満足です」


「何言ってるんだっ、これからは毎日見れるんだからな、遠慮せず外の世界を追求し、納得するまで行け」


 五歳の子供に対してでは無く、一人の男として言われてる気がした。記憶に詳しくは無いが、きっとアギト父様がこれまでに放浪と旅をしてた人だからなのかも知れない。


「はい」


 俺とアギト父様は幅二メートル程の一本草原の道を歩いて教会に向かう、教会は此処から数キロ先にあり歩いて一時間程で着くらしいが、外に出るのが初めてでこの長距は中々厳しそうだな。


 俺はどうやって明日の筋肉痛を和らげるか考えるが、帰ってからのストレッチしか思い付かなかった。


 根性で乗り切るのみだな。



 最初の十分程は周りの景色でテンションが上がっていたが、直ぐに足が悲鳴を上げ、俺の思考はそれ何処では無かった。



 流石に五歳で初めて歩くにしてはハードだな、まさかこの世界はスパルタか?



 そして二十分が経過する頃には息が上がりかけていた、外の気温は悪くは無く春ぐらいだろうか俺は半袖だが最初は少し涼しいぐらいだったが、今は違う暑くて死にそうだ。


「ほぉ、頑張るな」


 頑張るなって何事だ…やはり意図的にスパルタ教育してんだな。俺も少しは不満が無いわけじゃ無いんだからな。


「はい‥」


 疲れてる子の返事なんてこんなもんだろう、俺は微かに答え歩くことに集中する。こんなの自分にバツとして日本でやった五十キロマラソン比べれば……


「はぁぁ、っはぁ、はぁぁ、っはぁ、はぁぁ、はぁぁ。もう無理です」


 あれから四十分程無我夢中に歩いた俺は、到着した村の広場にあった噴水の水溜りに、頭を漬けるように倒れ込んでいた。行儀が悪いなど関係ない本当に死にそうだ。


 そして止めないの大丈夫と捉えた俺は水をそのまま飲む。


「ディオ良く頑張った、音を上げて歩けなくなると思ってたんだが、まさか歩ききるか」


 俺の根性を甘く見るなよ、それにしても五歳を想定するなら確かにやり過ぎたか、でも全く悟られないぐらいならいつか真実を打ち明けた時に、確かにあの時は歳相応じゃなかったなと、言われる方が良いか。


「もし、途中で僕が、歩けず止まったら、どう、なったんですか?」


「そりゃ俺が担いで此処まで連れてきただけだ」


 さっさと音を上げれば良かった‥



「さ行くぞっと」


 俺の身体を片腕でホールドし持ち上げる父。

 

 俺は力尽きだらんと身を任せるだけだったが、非常に楽であった。


 担がれて楽なのを良い事に俺は到着した村を改て見ていた。

 村なのか街なのか問われたら俺には分からないが、恐らく村という区分なのだろう、見るに建物は三角の屋根をした一階建てが多く木材と石材や土で何百と建てられていた。


 噴水の周りや今歩いている大きめの道だけが石畳で整備されており、少し目を家の後ろの道や小さな道に目を向けると土が固められてるだけだった。その状況からこの村は全体を整備するには資金が足りない、もしくは必要と感じてないのか、最近が石畳で整備し始めてまだなだけなのか分からないが、俺は下手に父親から情報を聞き取ろうとは思わなかった。



「着いたぞ歩けるか?」


「はい。有り難うございます」


 教会の外見は俺が知ってるものと大差無かった、村の教会だからと小さい事も無く大き過ぎ事もなく、これが最低限の作りだと主張するかの様に作られていた。


 中に入る父の後をまたも追いかけるように付いて行く。


 教会の中に入ると三十人程の人が既に椅子に座っており、俺と父様の様に家族連れが普通で皆今か今かと、待ち望んでる様だった。


 子供の将来が決まる瞬間と言っても過言じゃないもんな、そりゃ親も緊張するってもんか、アギト父様は別のようだが。


「ルーク、メリス」


 父が名前を呼び前に居た男性と女性が振り返る。


「アギトさん、どうもこんにちは」


 名前的に恐らくこの男性がルークなのだろう、背はアギト父様より少し低い感じだがそれでも高い175はあるのではないだろうか、そして黒色の髪をした青年って感じだ。


「こんにちは、いつも気にかけてくださって有り難うございます」


 メリスと思われる女性はカルア母様と同じかほんの少し高い気がしたが、此処まで一緒だと分からん、それに明るめの少し青よりの水色の髪が印象的過ぎる上にカルア母様と同じぐらい綺麗な女性だ。


「こっちもカルアが世話になってるからな、いつも助けるよ」


「君がディオくんね」


「はい。ディオ・オルトラークです」


「しっかりとした子ね、流石カルアさんの子ね、リア貴方も挨拶しなさい」


 メリスという女性の後ろからリアという子が姿を見せる。


 その子は先程見た水色より綺麗な水色の髪が肩に付かないかぐらいのセミショートの髪型をしており、白のワンピースが清潔なイメージを湧きたてられるが、白にそれ以上目が止まる事は無く自然と目が髪に行き顔に行き着く、そして小顔であり目もぱっちりとしていて薄い青色の瞳をしている女の子だった。


「リア・フィンダです。よろしくね」


「こちらこそ、よろしく」


 そんな俺達を見ながら親陣営は、どこか満足げだった。


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