レモンティー

いつものように見慣れた道を歩く。

そういえば海が見える所に住んでるって言ってたけど、こんなに近くだなんて思わなかった。


波の音が聞こえる。今日も何人かの学生が塀に座って海を眺める。いつもと同じ光景。

茶色い波が何度も押し寄せる。今日の海はいつもより荒れていた。




真海の家を通り過ぎ5分もしないうちに着いた。小さな表札が玄関横のポストに貼り付けてある。

真海の家よりも青山君の家の方が海が近い。この近さだと確かに部屋から見えそうだ。



ピンポーン



誰も出てこない。



ピンポーン



何の反応もない。間を空けてもう一度鳴らす。



ピンポーン



(居ないのかな。これどうしよう。)


居ないことを想定してなかった真海は困ってしまう。少し家の前で待つことにした。





カモメが飛び交っている。波の音も少し穏やかになり、塀に座ってた学生や下校していた学生の姿も見えなくなった。


(もうすぐ日が暮れるなぁ。玄関に置いて帰ろう。)


ドアの前に封筒を置く。

自分の家に向かって歩き出すと、向こうから誰か歩いてくるのが見えた。


(もしかして青山君?)


近づいてみると青山君だった。


「青山君。」


「笠井さん?どうしたの?」


「先生に課題とプリント頼まれて持ってきたの。少し待ってたんだけど玄関の所に置いたよ。」


「ごめんね。ちょっと病院に行っててさ。」


「具合悪いの?」


「うん、母がね。今朝体調崩してさっきまで病院に付き添ってた。」


「そうだったんだ。お母さんはまだ病院なの?」


「うん。今日は検査入院だって。」


「そうなんだ。大変だったね。」


「いや、笠井さんこそわざわざ届けてくれてありがとう。ちょっと待ってて。渡したいものあるから。」


そう言って家の中に入って行った。




「お待たせ!はい、これあげる。最近はまってるんだ。」


「ありがとう。レモンティー?」


「そう。嫌いじゃない?」


「うん、大丈夫。ありがとね。」


「こっちこそ。暗くなってきたから気をつけて帰ってね。」




青山君はやっぱり大人だ。あの対応、さすがだなぁと感心した。

さっき貰ったレモンティーを机に置いて眺める。一口飲んでみた。


「美味しー。」


スーっと喉を通る優しい甘さに真海もすっかりはまってしまった。

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