大事な人

父は私が5歳の時に病気で死んだ。

背が高くて、声が大きくて優しい父だった。

父の事はそんなに覚えてないけど、亡くなる少し前に家族で行った遊園地の事は昨日の事のように覚えてる。




葵は私の4歳下で、いつも私の後をついてきてた。かわいくて甘えん坊な妹。

4歳の夏、一人で海に遊びに行って溺れて死んだ。

風で飛ばされたお気に入りの麦わら帽子を海に拾いに行ったんだろうって警察の人が言ってた。




二人がいなくなって私と母の二人暮らしも当たり前になった。

慣れてきたけど、寂しい気持ちは変わらない。今でも会いたい。

生きていたら、お父さんと妹と、どんな話をしただろう。


もう私も17歳になったよ。お母さんは今でもお父さんの事が好きで、他の人に告白されても断ってるよ。




小学生の時にお母さんにこんな事言ったんだ。


『私の事気にしなくていいよ。誰かいい人いたら結婚していいからね。』


そうしたらこう言われた。


『何言ってんのよ。私は死ぬまでお父さんの奥さんなの。お父さんはずーっとお母さんの大事な人。』


お母さんの目は真剣だった。それから余計な事は言わないことに決めた。




葵、いつもお父さんからお母さんの事色々聞いてるでしょ?

私もそんな風に想える人に会えるかな。

この壊れた時計を買い換えるときが来るのかな。

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