壊れた時計

「じゃあ、青山さんはあそこの開いてる席に座って下さい。」


「はい。」


みんなの視線を浴びながら、窓側の一番うしろの席に向かう。


「よろしくね。」


青山くんは早速隣の女子に声を掛けた。


(モテそうな子だな。しっかりしてそうだし。)


第一印象はそんな感じだった。




「真海、転校生と話した?」


「まだ話してないよ。何で?」


「背高くてかっこよくない?後で話しに行ってみようよ。」


「んーいいけど。でも麻美彼氏いるじゃんか。」


「何言ってんのーそれとこれとは別だよ。5歳までこっちにいたみたいだけど、青山君のこと見たことないなぁ。真海は知ってる?」


「私も見たことないな。もしかして隣町なんじゃない?」


「そうかも。後で色々聞いてみよ!」




なぜかウキウキしてる麻美。転校生が来るなんて中々ないから他の皆もソワソワしてる。

どこか冷めた目でみてしまう私は、冷たい人間なのかもしれない。




「あ、青山くん。ちょっといい?」


「うん、いいよ。」


サラサラの前髪が目にかかりそう。私よりツヤツヤしてる。


「同じクラスの安部山麻美です。」


「…あ、笠井真海です。」


「よろしくね!」


「よろしく!このクラスの雰囲気いいね。俺少し緊張してたからさ。」


「うん、みんな仲良しだよー。緊張してたようには見えなかったよ。そういえば5歳までこっちにいたんでしょ?」


「そう。親の仕事で千葉に引っ越したんだけど、今度は離婚で母親の地元に戻ってきたってわけ。」


「そうなんだ。大変だったね。もしかして昔隣町に住んでた?」


「うん。どっちの高校に行こうか迷ったんだけど、海に近いからこっちの方に決めたんだ。」


「へぇー。海好きなんだ?」


「まぁね。今住んでるとこも海近くて、眺め最高だよ。今度みんなで遊びに来てよ。」


「行くー!近いうちに遊びに行くから。」


「うん。」


(麻美も青山くんもすごいわ。短時間でこんなに仲良くなって。)


「笠井さんも遊びに来てね。」


「うん。分かった。」


(これはモテるわ。この見た目でこのノリ。彼女が出来るのもすぐだな。いや、もういるかもしれない。)


「じゃあまたね!何か分からない事あったら何でも言ってねー。」


「ありがとー。助かるよ。」




「麻美さすがだわ。もう青山君と仲良くなったじゃん。」


「そう?普通だよー。確かに話しやすかったよね。なんか大人って感じがした。」


「確かに。同級生の男子と比べると落ち着いてるよね。」


「…青山くん、真海と合うんじゃない?私協力するから。」


「もうまたそんな事言って。彼氏はいらないよ。」


「何で?真海かわいいからすぐ彼氏出来るのに。」


「いーの。麻美とたまに遊ぶだけで満足なの。」


「何でよーダブルデートしたいのに。あ、今度4人で遊びに行く?」


「いいよ〜お断りします。彼氏と遊びなー。」


「もー真海ったらいつもこうなんだから!」




今までも麻美から男の子を紹介するって言われる度に断ってきた。一人で居たほうが気が楽だ。誰かと付き合う位なら、自分の部屋で漫画読んでた方がよっぽど楽しい。


でもいつからこんな風になったんだろう。まだ何かを諦める年齢でもないのに。




きっと『あの時』からだよね。

私の心が止まってしまった、あの時からだ。

壊れた時計みたいに、電池を入れても動かない。でも時計を買い直す気力もない。

何年も、何年も、こんな風に壊れた時計をずっと抱えたまま生きてきたんだ。

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