第4章 影

第15話 エプロンドレス

 ネコの家にいるようになってから、僕らは離れの玄関から出入りをしている。


 今までネコの居場所だった寝室は、美宇がいつでもお昼寝が出来るようにと、ベッドが入れられ、ネコと美宇がウッチャンズと命名した。


 塀の壁越しに人が通るだけで、いつ倒れてもおかしくないネコのベッドは書斎の大きな設計用の机の前に置かれた。


 障子を開けると一つの部屋だ。その空間が僕らの自由で快適な居場所になった。僕が迎えに行くまで、美宇はウッチャンズの部屋で多くの時間を過ごした。


 しかしなぜ、ウッチャンズなのかと美宇に聞くと、日本人のネコには理解ができない、僕らには、歴史的な名前のルールがあることなど知る由もなく、ウテに美宇とウが付くからと単純な発想らしい。すこし複雑だった。


 帰りの電車はいつも、美宇がネコの真似をしながら僕に話しかける。今日の話題は…。


「ネコって、おっぱいが大きいのを知っている?」

「おい、黙れ」

「気持ちいいんだよ」

「ネコのおっぱいを自由に触れるのはお前だけだ」

「お兄ちゃん、知っているんだ。ネコって中学一年生でしょ。美宇もあれくらい大きくなるかな?」

「そうだな、なればいいな」

「ネコってさ、エプロンドレスをなぜ着ているか知っている?」

「知らない」と答えたが、本当は知っている。


「おっぱいが汗をかくから下着の上からブラジャーつけているのを見られないように、エプロンドレス着ているんだよ」と得意げに話す。


 違うだろ…。それもあるけど…。違う。確かに体は小さく、小枝のように細いのに、バストサイズだけは大きめだ。


 あたたかなクッションのようで気持ちいい。安心感もある。抱きつかれるたびに正直、嬉しい。いや、そうじゃなくて、体のバランスが悪く、何をするのにも洋服を汚すことが多いのでエプロンドレスをしているのだ。


 それと人より、多くの動きが必要なせいか、汗っかきである。一年中、汗疹と戦っている。特に夏場はひどい。胸の間やブラジャーに沿って背中にも痛々しい。赤く腫れ火傷のように皮膚がただれている部分もある。


 ネコは遠慮なく僕に汗疹の薬を塗るように言う。背中はいいとしても、さすがに胸に汗疹の薬を塗れと言われるのは困るので、ネコと相談してTシャツの上にブラジャーをするようになってから、随分と良くなった。夏場は、薄着になるからブラジャーは丸見えだ。


 エプロンドレスで隠しているように見えるのか…。ファッションだと思えばいいのに…。いや。無理があるな。


 美宇の言う理由でいいや…。


 僕は、美宇のおしゃべりを楽しんでいるような顔をして、頭の中では自問自答している事がおおい。美宇には機嫌よく帰ってもらうことが先決だが、ネコの家に行くようになって、随分と明るく大人になった。今までは忙しい親にも構ってもらえず、もともと子供らしいところがなかったが、ネコが上手に美宇に頼るので、美宇はネコの面倒を見ているつもりでいる。


「自分がいないと、きおちゃんが泣く」と毎日張り切って学校に行っている。訳のわからない行動で僕を困らせることもなくなりネコと一緒に好奇心の塊で日々の冒険を楽しんでいるようだ。


 配慮も出来るようになった。

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