第13話 隠れる子猫
美宇は歓喜の声を上げた。あてがうと少し大きい
「肩上げと腰上げすれば大丈夫ね」と咲枝ママは、裁縫道具を持って来て浴衣を直し始めた。美宇はそれを嬉しそうに見ている。
僕は書斎の本棚の脇の隙間に隠れたネコが気になってしょうがない。僕はそっと咲枝ママに聞いた。
「きおちゃんが…」
「うん、何か怖いものがあるとああやって隠れるのよ」
「怖いものがあって隠れているの?」
「落ち着いたら出て来るから大丈夫よ」
「今日は人が多いからね」とにっこり笑いながら突然に思い出したように
「母屋の方で食事の支度をしている最中なの。向こうで浴衣を直しているから、ウテ君、ここにいて、きおちゃんに何かあったら教えてくれる?」
「えっ?」
「お願いできる?」
「はい」僕は返事をしたが、僕だけ残され、母屋の方にみんな行ってしまうと急に心細くなった。
ネコの家は二階建ての母屋と、離れの平屋が扉で繋がっている。母屋の一階はリビングと客間だ。襖を開けると一階部分に仕切りがなくなり大勢の来客が来ても対応できる造りになっており、二階の洋室二部屋はそれぞれプライベートが保たれる。
それに比べ、ネコのいる離れは縁側のついた大きな書斎と寝室と広めのキッチンが引き戸と廊下で仕切られているのでネコの隠れるところは沢山ある。とても古い家なので幽霊が出そうだ。
僕はひとりソファーに座っていても落ち着かず、家の中をウロウロと見て歩いていた。ネコがいる場所はわかっている。それを無視して書斎に入ると、斜めになった大きな机と多くの本が壁を覆いつくしていた。
大きな窓ガラスからは緩やかな日差しが差し込み、暗めの部屋が曇りガラスのようにくすんで見えた。斜めになった大きな机の上にある黒くて大きな羽ぼうきが目についた。
「これなんだ?」と声にすると「設計用の羽ぼうき。死んだおじいちゃんのものだよ」と声がした。
振り向くと、隠れていたはずのネコの笑顔が日差しに溶けた。
僕はただ、ただ、その光景に心を奪われていた。
夜になって僕達の両親も到着した。エリ姉さん達が横須賀駅まで迎えに行ったのだ。通訳として一緒に同席している。僕の両親は、日本人に招待されたのは初めてなので、かなり緊張していた。
咲枝ママは大きなテーブルに、乗りきらないほどの沢山のご馳走を用意して僕らの両親を待っていた。その歓迎ぶりに戸惑いながらも、嬉しそうな美宇の浴衣姿に、両親の緊張は徐々に溶けていった。
ネコは本棚の脇の隙間から出て来たが、母屋には近づこうとしない。両親が離れにやって来るとやっぱり隠れてしまうために、僕ら二人は離れで過ごしていた。
ネコが、お腹がすいたというので僕は母屋に一人で行った。母屋に続くドアを少し開けると父の声が聞こえた。
「恨んだでしょ?」その問いかけに、咲枝ママは話し出した。
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