第2章 病院の有名人
第5話 不思議な出来事
呼ばれて診察室に入ると、先ほどの人が白衣を着て、座ってカルテらしきものに、なにやら一生懸命に記入をしている。医師なのだろうその人は、カルテを見ながら僕に質問した。
「ところで、君は誰かな?」
『?』
カルテを書き込みながら
「ほう、ほう」と感心をしている。
「国籍は韓国なの?お父さんは就労ビザで来ているのだね。日本語はわかる?」
医師は僕の返事を待たずにカルテに何か書き込みながら
「きおちゃんとは、知り合いなの?」
僕は首を横に振った。そこで、初めて医師は僕の方を見た。
「そうか、じゃあびっくりしたでしょ」僕は頷いた。
医師はカルテを見ていたのに僕が首を横に振ったのがわかったのか?
「中学二年生だね。どこの学校?」と医師は時々僕の顔を見る。
僕の不愉快そうな表情に気が付いたのか医師は慌てたように
「ああ、ごめん。ユウダイ君を調べているのではないよ。きおちゃんは重たい病気でね。病気になってから、ずーと九州に行っていたのだけど、中学一年生になって、やっと横須賀に帰って来てね。中学校に通い始めたばかりなんだけど、こんな事が起こって病気が悪化してしまったようで心配をしている。何があったか知りたいのね、教えてくれる?」
そういえばあの子は歩き方もおかしかった。僕は医師の言葉を聞きながら物凄いスピードで、体を大降りに揺らしながら『こっつん、こっつん』とリズミカルに軽やかに一足分ずつ片足を蹴り上げる姿を思い出した。黙っている僕に医師は続けた。
「きおちゃんは一生懸命に生きているのね。だから治療の参考にしたいし、ご両親にも事情を私のほうから説明したいの」
「あの子はどこが悪いの?」
何が起こったか答えようと思っているのに、僕の口から出た言葉は質問だった。
「お!初めて話したな!」と医師は嬉しそうに僕の目を真っすぐに見ながら
「本来は個人情報だから言えないのだけど、君に迷惑をかけたから、本人より君に説明をして欲しいと要望があったので話すね。心的外傷後ストレス障害(PTSD)って言う病気。子供の頃にとても辛い目にあって、人と接触できない病気だよ」
「えっ?人と接触出来ないって?どういう事?だって僕に…」
「そうなのだ、君にしがみついていただろう?触れられるのも、触るのも嫌いでね。人から逃げるようにして生きてきた。不思議だよ。こんなことは初めてだから知りたいのね。どうして君に抱きついていたのか教えて欲しいのよね」
医師の言葉を理解しようとしたが、よくわからなかった。しかたなく僕は僕の言葉で説明しようとした。
「電車の扉が開いて、後ろの人が触った」
「きおちゃんが?順番に話せる?」
僕はゆっくり思い出しながら話をした。
「僕達は鎌倉に帰るから、上り電車に乗るつもりだった。妹がランドセルの中身をばらまいて、拾っているうちに下り電車が到着してドアが開いて、後ろの人があの子を触ったら、ネコみたいに飛び出して来た。あっという間に走って来てぶつかった」
「ふむふむ」と聞いていた医師が
「で、直接、君にぶつかった?」
僕は首を振った。
「僕じゃなくて」僕は首を傾げた。
美宇と距離が離れていた訳ではないけれど、僕に真っ直ぐに向かって来た感じもない。
「じゃあ、どっちに向かって?」
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