第3話 僕の住む世界

 共稼ぎの両親を持つ僕は小学校一年生の妹の美宇と通学している。


 七年前、僕は小学生になったとたんに叔父の仕事を手伝う両親とともに韓国から、日本にやってきた。


 日本に来てから間もなく妹の美宇が生まれた。母国韓国にはいずれ帰るが、今は在日韓国人の叔父の家で、六歳年上の日本生まれの従姉、エリ姉さんと一緒に暮らしている。


 日本には公立と私立の二種類の学校がある。公立は市町村が運営し、住む場所から通う学校が決められている。費用も公共が負担するために、安い。それに比べて私立は名前の通り私学なので、学区域がなく遠くからも通えるが、費用は大幅にかかる。


 僕はエリ姉さんが通学している幼稚園から高校までの一貫教育の私立に一緒に通うことになった。鎌倉の佐助稲荷のそばにある叔父の家から横須賀まで電車通学だ。

 

 学校のある横須賀はアメリカ海軍の基地があり「ベース」と呼ばれている。ベース内のアメリカ海軍関係施設で働く日本人も多く、ベース近くには米軍関係者向けの飲食店やスカジャンを売っているドブ板通りが夜をともしていた。多様な肌や目の色が混在している街である。


 そんな地域の学校内では今まで国籍の違いを意識した事はないし、国籍の違いでトラブルになる事はなかった。叔父の家ではハングルと日本語のチャンポンのせいもあって、自宅や学校の外では中学生になっても言葉を発するのに勇気が必要だ。


 慣れない日本で小学校一年生の僕が、たった四駅ではあるが電車通学するためには、日本生まれの小学校六年生のエリ姉さんの語学力が必要だった。


 エリ姉さんが、高校を卒業し短大に進学すると、電車通学は妹の美宇と中学二年になった僕だけになった。妹は授業が早く終わると職員室で僕の帰りを待っている。おかげで僕は部活の剣道が出来ない。二人だけの通学になって、たった一か月しか経っていないが、多少うんざりしていた。


 妹は大人の中で育ち、かまってもらうことは少なく、能天気な割には性格が暗い。つまり子供らしくはしゃぐことが少ない子だ。それなのに今日は珍しくパワーアップして「明日は、お兄ちゃんの誕生日だからケーキが食べられる」と美宇は喜んでいた。

 

 そう…。僕の世界はそれだけだった。


 それが…。

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